
写真:浜名湖畔(大崎海岸より富士山の方向を望む)
地域環境力に関する先進地調査を、東京都墨田区、宮城県仙台市、長野県飯田市、福井県池田町、徳島県上勝町で行った。関連の行政、市民活動団体等の多面的調査を行うなかで、いくつかポイントになる点を抽出できた。
1.従来の互助組織において、地域の環境保全への取り組みがなれされているか。
・対象とした地域の多くが、自治会あるいは地区毎の公民館活動において、地域の環境保全活動がなされ、地域住民の多くがそこに参加している。これは、従来の互助力が維持されていることが前提となる。
・墨田区では、雨水を貯める天水桶を設置している地区は新住民が少ない地区であるという。近隣関係があることで、近所に設置された天水桶に関心がもたれ、口コミで導入が促されるのであろう。
・福井県池田町では、セイタカアワダチソウの駆除や河川の一斉清掃を町内の全地区で実施され、世帯参加率も100%に近いという。また、環境基本計画を作成される際に設置された100人委員会を母体とするNPOが、配布する環境をテーマとした機関誌を、区長を通して、全戸配布している。
・宮城県仙台市は、1000ある地区ごとに、ごみの指導員を任命している。当初は地区毎に1名であったが、希望者が多いため、指導員のサポーターとして任命し、総勢3000人程度になっているという。指導員は地区住民にごみ分別や減量化に関する普及啓発を行うが、普及啓発の方法等のノウハウの共有をしている。それを支援する中間支援組織もある。
・仙台市のようなごみの指導員は、池田町等では存在しないが、ごみの分別等への協力は上手くいっていると考えられる。互助関係が強く、ルールへの遵守性が高いためである。これに対して、仙台市では、新旧住民の混在も進んでおり、互助関係やルールへの遵守性が池田町等ほどには高くないために、ごみの指導員制度という新たな仕組みを設けていることになる。なお、この場合のルールの遵守性とは、「隣が何をやっているかわかる」という濃密な関係の中で、形成されている。こうした濃密な近隣関係は、都市住民からみると息苦しさを感じるところであるが、池田町の住民から聞こえてくる声は、「みんな仲がよいから」「みんな正直だから」という感じだった。
・以上のように、互助関係が強いのであれば、互助組織による環境活動が行われているかどうか、互助関係がやや弱いのであれば、互助組織を補完するような地区毎に環境関連の人材が配置されているかどうかが、地域環境力を図る一つの側面になる。
・また、こうした地区ごとに取り組む環境活動があることで、住民は参加による学習を行うこととなる。かつて訪ねた水俣では、ごみの回収時間と回収拠点が決められており、回収時間は指定された場所に分別用のコンテナが道にならぶ。指定時間帯に住民がごみを持って集まってくるが、任命され地区毎指導員が分別の仕方などを指導する。「この電気コンロまだ使えるよ。誰かいらないかね」等という会話が飛び交う。この水俣の制度では、地区毎の指導員が持ち回りである。指導する側になると学習もするし、指導される側になった場合も協力的になる。コミュニティづくり・人づくりにおいても、よくできた制度だと思う。
2.住民が地球温暖化問題に関心をもっているか・互助組織が地球温暖化防止に係る活動に参加しているか。
・互助組織による活動は、生活環境に関するごみ清掃や河川愛護等の活動がテーマとなる。ごみ問題も、住民が自らの加害と被害関係を意識しやすい問題であり、ごみ分別への協力等は互助組織の活動テーマとなりやすい。墨田区で取り組まれている水問題は、水不足等の経験があり、それが住民の意識を高めているという。
・これに対して、地球温暖化に関する関心は相対的に弱く、互助組織の活動テーマとなりにくい。今回調査した地域では、市や町の事業、市民活動団体あるいは商店街、企業等で地球温暖化に係る活動をしていることはあっても、互助組織で行っている例はほとんど聞こえなかった。
・面白かったのは、飯田市での話。おひさま進歩という太陽光発電の市民共同発電事業を環境省事業等で大々的に担う株式会社(母体はNPO)があるが、そこに自治会が出資をしてくれたという。自治会では、町会費等をプールしているが、それを拠出してくれたという。この自治会のある地区では、おひさま進歩が保育園に太陽光パネルを設置しており、そこで環境教育等も実施しているという。こうした活動が地区住民に理解され、出資につながったようだ。飯田市では、来年度から、個人向けに太陽光発電導入への助成事業を開始する。こうした個人向けの太陽光発電の普及において、おひさま進歩が進めてきた市内の公共施設への太陽光パネルの設置や保育園等での環境教育事業が大きな基盤(普及を促す要因)になるものと考えられる。
・以上を踏まえ、現段階では、互助組織において地球温暖化防止に係る関心や活動はまだまだという段階にあるが、互助組織において地球温暖化防止に係る活動に取り組む兆しはでてきており、その顕在化の程度の差を、地域環境力の差として測ることが考えられる。
・地球温暖化防止に係る普及啓発は、チームマイナス6%の手法に見られるように、学校や事業所での取り組みを中心に大規模な動員という形で展開され、一般国民にはマスメディアやタレントを通じた発信等を中心としてきた。これらの成果は認知度の向上等に見られるが、行動実践においては地域レベルの強い紐帯の力が重要だと考えられる。今後、互助組織とこれまでの地球温暖化防止の活動がつながっていくことが期待される。そうすることで、地球温暖化防止は地域づくりとしての意味を高めることができる。
・余談を追記。仙台市で、環境カウンセラー・地球温暖化普及指導員の仕事をされる方にヒアリングを行った。その際、「夏場の暑さが東京等ほどではない仙台市では、温暖化で冬場、過ごしやすくなるともいえ、一般への普及啓発は難しい」という声もあるが、地球温暖化防止の普及啓発は難しいのではないかという話をした。「地球温暖化の裏返しとして、資源・エネルギー枯渇という問題があり、その方がより深刻で目に見えた問題として先行する。資源・エネルギーの枯渇という側面を強調して、普及啓発した方がいいのではないか。また、地球温暖化や資源・エネルギーの枯渇という問題の根本は、大量生産・大量消費・大量廃棄のシステムにあり、そのシステムの危機を問いかけることも大事」という持論をぶつけると、「それは脅かしすぎ。温暖化で宮城の米がとれなくとなるか、そういう影響を語るようにしている」と言われてしまった。確かに、互助組織や学校で語る場合、地球温暖化防止指導員の立場で、私のようなメッセージは発しにくいだろう。しかし、危機の本質的な部分の伝達に少し踏み込む工夫ができないだろうか。
3.その他
・このまま書いていくと、ひたすら長くなるのでやめるが、他にも地域環境力を測るうえで、次の観点が重要だと考えられる。
■関連の大手といわれる(地域を代表する)市民活動団体があるか・まちづくりを担う市民活動団体で環境関連の活動を行っているか。
■若い世代が参加する環境関連活動が盛り上がっているか
■商店街や中小企業が環境配慮をしているか。次の世代も含めて、地域の環境活動に参加しているか
■地域発エコビジネスが芽生えているか・地域を代表する環境企業があるか。
■地域住民が環境関連の行政活動に参加しているか(例:地域住民による生ごみの回収、市民による環境モニタリング等)
■行政職員が環境関連の地域活動に参加しているか(例:行政職員の NPOへの参加)
■市民活動団体等が事務局となり、自立的に活動している環境関連のネットワークがあるか。そこに行政や企業が参加しているか
■環境関連の企業のネットワークが形成されているか(例:地域ぐるみ環境ISO等)
■環境関連の市民活動団体と自治会等の互助組織との連携関係があるか。
■環境関連の市民活動団体と地域企業との連携関係があるか。
■大企業と中小企業の環境ネットワーク、サプライチェーンが地域内で形成されているか
■行政と市民活動団体、企業と市民活動団体等の協働や連携を支援する中間支援組織があるか
■地域ぐるみで開催されている環境関連のイベントがあるか
■環境のまちとしてのアイデンティティを共有しているか。それによる自己組織化の動きがあるか。他地域から注目されているか。
■議会で環境関連の施策が取り上げられているか。環境問題に熱心な議員がいるか。選挙の公約で環境問題への取り組みを掲げる議員が多いか。
以上
地域環境力に関する先進地調査を、東京都墨田区、宮城県仙台市、長野県飯田市、福井県池田町、徳島県上勝町で行った。関連の行政、市民活動団体等の多面的調査を行うなかで、いくつかポイントになる点を抽出できた。
1.従来の互助組織において、地域の環境保全への取り組みがなれされているか。
・対象とした地域の多くが、自治会あるいは地区毎の公民館活動において、地域の環境保全活動がなされ、地域住民の多くがそこに参加している。これは、従来の互助力が維持されていることが前提となる。
・墨田区では、雨水を貯める天水桶を設置している地区は新住民が少ない地区であるという。近隣関係があることで、近所に設置された天水桶に関心がもたれ、口コミで導入が促されるのであろう。
・福井県池田町では、セイタカアワダチソウの駆除や河川の一斉清掃を町内の全地区で実施され、世帯参加率も100%に近いという。また、環境基本計画を作成される際に設置された100人委員会を母体とするNPOが、配布する環境をテーマとした機関誌を、区長を通して、全戸配布している。
・宮城県仙台市は、1000ある地区ごとに、ごみの指導員を任命している。当初は地区毎に1名であったが、希望者が多いため、指導員のサポーターとして任命し、総勢3000人程度になっているという。指導員は地区住民にごみ分別や減量化に関する普及啓発を行うが、普及啓発の方法等のノウハウの共有をしている。それを支援する中間支援組織もある。
・仙台市のようなごみの指導員は、池田町等では存在しないが、ごみの分別等への協力は上手くいっていると考えられる。互助関係が強く、ルールへの遵守性が高いためである。これに対して、仙台市では、新旧住民の混在も進んでおり、互助関係やルールへの遵守性が池田町等ほどには高くないために、ごみの指導員制度という新たな仕組みを設けていることになる。なお、この場合のルールの遵守性とは、「隣が何をやっているかわかる」という濃密な関係の中で、形成されている。こうした濃密な近隣関係は、都市住民からみると息苦しさを感じるところであるが、池田町の住民から聞こえてくる声は、「みんな仲がよいから」「みんな正直だから」という感じだった。
・以上のように、互助関係が強いのであれば、互助組織による環境活動が行われているかどうか、互助関係がやや弱いのであれば、互助組織を補完するような地区毎に環境関連の人材が配置されているかどうかが、地域環境力を図る一つの側面になる。
・また、こうした地区ごとに取り組む環境活動があることで、住民は参加による学習を行うこととなる。かつて訪ねた水俣では、ごみの回収時間と回収拠点が決められており、回収時間は指定された場所に分別用のコンテナが道にならぶ。指定時間帯に住民がごみを持って集まってくるが、任命され地区毎指導員が分別の仕方などを指導する。「この電気コンロまだ使えるよ。誰かいらないかね」等という会話が飛び交う。この水俣の制度では、地区毎の指導員が持ち回りである。指導する側になると学習もするし、指導される側になった場合も協力的になる。コミュニティづくり・人づくりにおいても、よくできた制度だと思う。
2.住民が地球温暖化問題に関心をもっているか・互助組織が地球温暖化防止に係る活動に参加しているか。
・互助組織による活動は、生活環境に関するごみ清掃や河川愛護等の活動がテーマとなる。ごみ問題も、住民が自らの加害と被害関係を意識しやすい問題であり、ごみ分別への協力等は互助組織の活動テーマとなりやすい。墨田区で取り組まれている水問題は、水不足等の経験があり、それが住民の意識を高めているという。
・これに対して、地球温暖化に関する関心は相対的に弱く、互助組織の活動テーマとなりにくい。今回調査した地域では、市や町の事業、市民活動団体あるいは商店街、企業等で地球温暖化に係る活動をしていることはあっても、互助組織で行っている例はほとんど聞こえなかった。
・面白かったのは、飯田市での話。おひさま進歩という太陽光発電の市民共同発電事業を環境省事業等で大々的に担う株式会社(母体はNPO)があるが、そこに自治会が出資をしてくれたという。自治会では、町会費等をプールしているが、それを拠出してくれたという。この自治会のある地区では、おひさま進歩が保育園に太陽光パネルを設置しており、そこで環境教育等も実施しているという。こうした活動が地区住民に理解され、出資につながったようだ。飯田市では、来年度から、個人向けに太陽光発電導入への助成事業を開始する。こうした個人向けの太陽光発電の普及において、おひさま進歩が進めてきた市内の公共施設への太陽光パネルの設置や保育園等での環境教育事業が大きな基盤(普及を促す要因)になるものと考えられる。
・以上を踏まえ、現段階では、互助組織において地球温暖化防止に係る関心や活動はまだまだという段階にあるが、互助組織において地球温暖化防止に係る活動に取り組む兆しはでてきており、その顕在化の程度の差を、地域環境力の差として測ることが考えられる。
・地球温暖化防止に係る普及啓発は、チームマイナス6%の手法に見られるように、学校や事業所での取り組みを中心に大規模な動員という形で展開され、一般国民にはマスメディアやタレントを通じた発信等を中心としてきた。これらの成果は認知度の向上等に見られるが、行動実践においては地域レベルの強い紐帯の力が重要だと考えられる。今後、互助組織とこれまでの地球温暖化防止の活動がつながっていくことが期待される。そうすることで、地球温暖化防止は地域づくりとしての意味を高めることができる。
・余談を追記。仙台市で、環境カウンセラー・地球温暖化普及指導員の仕事をされる方にヒアリングを行った。その際、「夏場の暑さが東京等ほどではない仙台市では、温暖化で冬場、過ごしやすくなるともいえ、一般への普及啓発は難しい」という声もあるが、地球温暖化防止の普及啓発は難しいのではないかという話をした。「地球温暖化の裏返しとして、資源・エネルギー枯渇という問題があり、その方がより深刻で目に見えた問題として先行する。資源・エネルギーの枯渇という側面を強調して、普及啓発した方がいいのではないか。また、地球温暖化や資源・エネルギーの枯渇という問題の根本は、大量生産・大量消費・大量廃棄のシステムにあり、そのシステムの危機を問いかけることも大事」という持論をぶつけると、「それは脅かしすぎ。温暖化で宮城の米がとれなくとなるか、そういう影響を語るようにしている」と言われてしまった。確かに、互助組織や学校で語る場合、地球温暖化防止指導員の立場で、私のようなメッセージは発しにくいだろう。しかし、危機の本質的な部分の伝達に少し踏み込む工夫ができないだろうか。
3.その他
・このまま書いていくと、ひたすら長くなるのでやめるが、他にも地域環境力を測るうえで、次の観点が重要だと考えられる。
■関連の大手といわれる(地域を代表する)市民活動団体があるか・まちづくりを担う市民活動団体で環境関連の活動を行っているか。
■若い世代が参加する環境関連活動が盛り上がっているか
■商店街や中小企業が環境配慮をしているか。次の世代も含めて、地域の環境活動に参加しているか
■地域発エコビジネスが芽生えているか・地域を代表する環境企業があるか。
■地域住民が環境関連の行政活動に参加しているか(例:地域住民による生ごみの回収、市民による環境モニタリング等)
■行政職員が環境関連の地域活動に参加しているか(例:行政職員の NPOへの参加)
■市民活動団体等が事務局となり、自立的に活動している環境関連のネットワークがあるか。そこに行政や企業が参加しているか
■環境関連の企業のネットワークが形成されているか(例:地域ぐるみ環境ISO等)
■環境関連の市民活動団体と自治会等の互助組織との連携関係があるか。
■環境関連の市民活動団体と地域企業との連携関係があるか。
■大企業と中小企業の環境ネットワーク、サプライチェーンが地域内で形成されているか
■行政と市民活動団体、企業と市民活動団体等の協働や連携を支援する中間支援組織があるか
■地域ぐるみで開催されている環境関連のイベントがあるか
■環境のまちとしてのアイデンティティを共有しているか。それによる自己組織化の動きがあるか。他地域から注目されているか。
■議会で環境関連の施策が取り上げられているか。環境問題に熱心な議員がいるか。選挙の公約で環境問題への取り組みを掲げる議員が多いか。
以上