醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  364号  白井一道

2017-04-06 11:37:39 | 日記

 芭蕉は男色だったの?

句郎 芭蕉について、ヒソヒソと話されていることがあるんだ。何のことだか、華女さん、知っている。
華女 嫌らしいことでしょ。
句郎 そう、嫌らしいこと。
華女 何なの。。
句郎 芭蕉が男色だったということ。
華女 なぁーんだ。そんなことなの。
句郎 そう、ヒソヒソ話すことなんて何もないよね。
華女 そうよ。古代ギリシアの哲学者たちだって男色だったんじゃないしからね。
句郎 そうだよね。かのソクラテスも、男色だったかもしれないからね。
華女 なぜ、前近代の男たちの中では男色が普通のことだったのかしらね。
句郎 それは簡単なことだよ。男女差別が当然のことしてまかり通っていたからだと考えているんだけれどもね。
華女 男女差別が男女の恋愛を邪魔していたということなのかしら。
句郎 男女差別が恋愛を疎外したということかな。
華女 難しい話にしてはダメよ。
句郎 シェイクスピアの戯曲に「真夏の夜の夢」があるでしょ。このドタバタ劇の始まりは「惚れ薬」を間違って飲んでしまうことがきっかけになっているんだ。男が女に恋をするには惚れ薬が必要だったんだ。このことが分からないとこの芝居の面白味がわからないんじゃないかな。
華女 前近代の社会にあっては、男は女に恋をしなかったの。
句郎 きっと、そうなんだと思うよ。
華女 「デフネスとクローエ」は嘘なの。
句郎 原始社会の話だからね。原始社会にあっては、男女の自然な営みがあったんじゃないかと思っているんだ。
華女 歴史時代の始まりとともに男女の自然な恋愛がなくなってきたの。
句郎 そうなんじゃないかな。プラトンの『饗宴』は男色の話だよ。高校生の頃、『饗宴』を読んでビックリしちゃったよ。男女恋愛の話だと思って読んだら男色の話だったからね。
華女 古代アテネの街では男色が普通のことだったの。
句郎 青壮年の男と美少年との恋愛が恋愛だった。男女の恋愛は薄汚いものとして嫌われていたんじゃないかな。
華女 なぜなの。
句郎 だって、そうじゃない。そこにはセックスが付いて回っているじゃない。男の性的欲望を満たすためのだけの男女関係は汚いものとして思われたんじゃないかな。
華女 へぇー、驚いた。女を馬鹿にするのもいい加減にしてほしいわ。そうでしょ。女を何だと思っているのかしら。許せないわ。
句郎 男女の差別は男女の関係を歪めてきたんだ。男の愛と女の愛とを平等・公平に交換するのが恋愛であり、セックスだと思うんだけれども、この自然なことを男女差別は疎外したんだ。
華女 江戸時代には確かに自然な恋愛は難しかったのかもしれないわ。
句郎 だから男女の恋愛より男と男との恋愛に崇高な精神的な愛があると特に武士の間にはあったんじゃないのかな。武士に比べれば農民や町人の間にはごく自然な男女の恋愛があり得る空間が存在し得たようにも思うんだ。