街ゼミ
日野 横田さん、日野屋の屋号は横田さんが経営者なのになぜ日野屋なの。
横田 酒販店・日野屋を始めた人は埼玉県行田の酒蔵、横田酒造から出た人だったんだ。関東一円には江州店と言ってね、近江商人が酒造りを始めた蔵が多かったんだ。横田の先祖様は近江の日野から出てきた人が始めた酒屋だったから『日野屋』と命名したという話を親父から聞いたことがあるんだ。
日野 そうなんだ。横田さんには近江商人の血が流れているわけなのね。
横田 実を言うとね。江戸後期の町人文化を代表する時代を文化文政時代というでしょ。その頃、横田酒造は酒造りを始めたらしい。
日野 文化の中心が上方から江戸に移ってくるころなのかな。
横田 そのようなんだ。そうした時代背景が行田あたりでの酒造りの背中を押してくれたんだと思っているんだけれどね。
日野 大阪商人(あきんど)に伊勢商人、近江商人という言葉が生まれ時代かな。
横田 「近江泥棒に伊勢乞食」なんて江戸の町人に悪口を言われたみたいだけれど、実際の近江商人は神仏への信仰心が篤く、規律道徳を重んずる者が多かったようだ。
日野 有名な商人の心がまえを唱えた言葉があったよね。
横田 「三方よし」ですか。
日野 そうそう。「三方よし」ですよ。
横田 「売り手よし、買い手よし、世間よし」ですか。世間の人に嫌われるようなことをしてはいけない。いや世間に良いことをしなければ商売は続けられないということです。だから先祖の人は皆、地域社会の人々の生活向上のために尽くしたみたいですよ。例えば、神社仏閣に寄進をしたり、道路の補修をしたり、橋を架けたり、地域の人々の生活の利便をはかった。それが回りまわって商売繁盛につながった。
日野 当時世界最高水準の複式簿記を考案したのが近江商人なんだってね。
横田 そうみたいですね。「中井源左衛門」ですね。日野の商人だったらしいですよ。
日野 凄いね。
横田 商売の合理的精神が生んだ技術の一つなのかもしれませんね。
日野 プロテスタントの精神が資本主義の精神を生んだというのと何か、共通するものを感じるね。
横田 マックス・ウェーバーですか。質素・倹約・勤勉の精神ですね。確かに、近江商人にはこのような精神道徳があるようですよ。怠惰・無駄遣い・贅沢はしない。これが商人道徳ですから。
日野 その他にも家訓のような標語があったね。
横田 「始末してきばる」ですか。
日野 そうだったかな。
横田 「始末」とは無駄をしないということが倹約です。単なるケチじゃないんです。たとえ高いものであっても本当に良いものを選び長く使います。長期的視点で物事を考えることだと思います。また「きばる」というのは本気で取り組むことだと思います。ですから「日野屋街ゼミ」本気で取り組もうと思っています。営利至上主義を諌める言葉もあります。儲けとは真面目に務めたあげた結果のおこぼれだという考えもあります。