ショパンピアノコンチェルト一番を聞く
句郎 ショパン、ピアノコンチェルト一番のメロディーが流れてくるとほろ苦くとも甘美でもあったころの若かった頃が瞼に浮かんでくるね。
華女 へぇー、そうなの。
句郎 一八三〇年と言えばショパンは二〇歳の青年だった。ポーランド生まれのショパンはパリに来ていた。
華女 ピアノコンチェルト一番はそのころ作曲された曲じゃなかったかしら。
句郎 そうなんだ。父の祖国フランスで音楽を学ぶ喜びと一人孤独に耐える苦しみの中に曲を書くことは自由と自立を実感する喜びでもあった。
華女 エチュードの一二番「革命」もその頃の作なんでしよう。
句郎 パリで七月革命が起きるとワルシャワではロシアからの独立を求める蜂起が起きているからね。
華女 多感な青年であったショパンはフランス革命から強い影響を受けていたことでしようからね。
句郎 自由・平等・友愛の精神かな。
華女 ショパンには故郷への強い思いがあったんでしょ。「革命」には熱い思いが高らかに奏でられているように思うわ。
句郎 故郷への思いと自由への熱情じゃないのかな。
華女 当時も今も青春期の男の思いがつまっているんじゃないのかしら。
句郎 そんな男に恋をする乙女もいたんじゃないのかな。
華女 いやいや、乙女ばかりじゃなく、熟女もいたんじゃないの。
句郎 ジョルジュ・サンドは立派な大人の女性だったんだろうからね。
華女 若い恋人がいるなんて素敵だと思うわ。
句郎 ショパンはイケメンだったんだろうね。
華女 「イケメン」という言葉は嫌いよ。たてもハスッパな感じがしない。ショパンをイケメンだなんて言ったら、失礼よ。
句郎 じゃー、なんて言ったらいいの。
華女 静かな青年紳士よ。一緒にいるだけで充実した時間が過ぎていくような感じのする若い男の子よ。暖かな春の空気に全身が包まれているような気持にしてくれる綺麗な男の子という感じかな。
句郎 熟女を乙女にするような男だったのかな。
華女 その言葉は嫌い。とても精神的なものよ。ピアノコンチェルト一番には青春の息吹が満ちているでしょ。
句郎 ショパンと一緒にいたサンドはあのメロディーにつつまれているような気持になっていたのかな。
華女 西地中海に浮かぶ暖かなマヨルカ島にサンドとショパンは行き、そこで過ごした。素晴らしいわ。そんなことができたサンドは幸せだったと思うわ。
句郎 でも悲劇は起きる。
華女 そうなのよ。恋とは一時のものなのよ。恋には未来がないのよ。だから恋は貴いものなのよ。
句郎 分かったようなことを言うんだね。
華女 そうでしょ。ショパンのピアノコンチェルトを聞いて一時、青春の輝きのようなものを味わうわけでしょ。表に出て現実にぶつかるわけでしょ。
句郎 じゃー、恋とはピアノ曲を聴くようなものなのかい。
華女 そうよ。そんなものなのよ。いつまでも続くものではないのよ。現実という身体があるからね。
句郎 現実のショパンの気持ちは移っていく。