醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  464号  白井一道

2017-07-22 15:47:53 | 日記
 
 『最後の授業』から学ぶ

侘輔 孫崎享さんの話を聞いてるとよく話すことがある。フランスとドイツが現在戦争すると考える人がいるかと、ね。
呑助 フランスとドイツとは、長い間領土紛争をしてきたんですか。
侘助 古い紛争の歴史があるんだ。私も昔、ドーデの短編小説『最後の授業』を読み、感動した記憶があるんだ。
呑助 どんな小説なんですか。
侘助 まぁー、時代背景から少し説明すると中世のドイツにはドイツ語を話す人々が一つの国を作っていなかったんだ。ドイツでは長い宗教戦争が続いていたからね。その宗教戦争を終わらせた条約がウェストファリア条約というだけれどね。この条約は別名「ドイツの死亡証書」だなんて悪口を言う人がいるくらい。ドイツ各地の諸邦の主権を認める条約だったんだ。フランスはカトリック教徒の国、ドイツはプロテスタントの国だからね。現在のドイツとフランスの国境線地域の一つに石炭や鉄鉱石を産するアルザス・ロレーヌがある。この地名はフランス語読みだけれど、この地域の人々はドイツ語をもともと話してようなんだけれど、フランス領になっていたんだ。19世紀になるとドイツ諸邦の中のプロイセンにビスマルクという鉄血政治を唱える政治家に出現し、ドイツ統一運動が起きる。鉄砲と兵隊でドイツの統一を実現する。1871年にプロイセンとフランスが戦い、パリに入場したプロイセン皇帝はドイツ帝国の成立を宣言する。この時にアルザス・ロレーヌはフランス領からドイツ領になる。それ以来、第一次世界大戦、第二次世界大戦、ドイツとフランスは戦いぬいた。そこでフランスの小説家、ドーデはこのアルザス・ロレーヌの帰属問題を短編小説にした。「私がここで、フランス語の授業をするのは、これが最後です。プロイセン・フランス戦争でフランスは負けたため、アルザスはプロイセン領になり、ドイツ語しか教えてはいけないことになりました。これが、私のフランス語の、最後の授業です。フランス語は世界でいちばん美しく、一番明晰な言葉です。そして、ある民族が奴隸となっても、その国語を保っている限り、牢獄の鍵を握っているようなものなのです」と語った。ナショナリストの先生の最後の授業に生徒も大人たちも、耳を傾ける。やがて終業を告げる教会の鐘の音が鳴った。それを聞いた先生は蒼白になり、黒板に「フランス万歳!」と書いた。
呑助 感動的な小説なんですね。
侘助 そうなんだ。ナショナリズムというものはその国民の民族の魂のようなものを奮い立たせる力があるようなんだ。だから気を付けなければならない。戦争して不幸になるのはその国の国民だからね。
呑助 分かりますね。
侘助 このようにナショナリズムがぶつかり合ったフランスとドイツがもう戦争しないと話し合いをして、アルザス・ロレーヌの石炭や鉄鉱石は共同開発するようになったんだ。それがEUに発展し、今では、ドイツとフランスがナショナリズムをたぎらせ、自分だけ得することはしなくなった。