醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  466号  白井一道

2017-07-24 16:03:59 | 日記

 核兵器禁止条約

侘輔 世界の小国ともいっていい中央アメリカのコスタリカとインドシナ半島の国・マレーシアの両政府が2007年4月、正式に核兵器禁止条約を国連に共同提案した。その核兵器禁止条約が十年後の今年、2017年7月7日に122か国・地域の賛成多数により国連で採択された。核兵器を保有する大国、アメリカやロシア、中国、フランス、イギリスといった世界の覇権国ではなく、どちなかというと弱小国と言ったら失礼に当たるかもしれないけれど、コスタリカとマレーシアが核兵器禁止条約を国連に共同提案し世界122か国の支持を得て成立した条約だというところが重要だと思うんだ。
呑助 これからの世界は大国ではなく小国の協力によって世界政治が動いていくということなんですかね。
侘助 そうだよ。今まで核軍縮交渉を核兵器保有国同士が敵の動向を探り合って行ってきたが遅々として軍縮は進んでこなかったが、全世界の主権国家が協力し合う核軍縮を進めていく本格的な核軍縮が実現する契機になるんじゃないかなと思うんだけどね。
呑助 核大国が同時に世界の覇権国になっているために核兵器の禁止はできないということですか。
侘助 高校の日本史や世界史の最初の授業で教師はよくこれまでの歴史は名もない民衆が歴史をつくってきた。力を持った権力者が歴史をつくったのではないと話ながら、実際の授業が始まると聖徳太子は十七条憲法とか‎冠位十二階を制定したなどという権力を持った人の政治の話をする。ちっとも当時の民衆が政治を動かしたというような授業はしない。
呑助 世界の覇権国が世界
政治を動かすのではなく全世界の弱小国が世界政治を動かす世界が来たということを示している出来事が「核兵器禁止条約」ということですか。
侘助 そうだと思うんだ。今までだって基本的には全世界の弱小国が世界政治を動かしてきたと言えると思うんだ。しかし個別具体的には覇権国が世界政治を牛耳ってきたのは事実だからね。
呑助 全世界の民衆が世界の歴史の主人公だということですか。
侘助 基本的にはそうだと思うんだけれどね。実際はいつの時代も覇権国が世界を牛耳ってきたからね。そうした時代が終わりに近づいてきているということなんじゃないのかな。
呑助 核兵器禁止条約というのはどのような内容の条約なんでしようかね。
侘助 正確には「核兵器の開発、実験、製造、備蓄、移譲、使用及び威嚇としての使用の禁止ならびにその廃絶に関する条約案」というらしい。
呑助 なるほど。アメリカもロシアも中国も日本もこの条約に加盟し、北朝鮮に核実験禁止をするよう促せば、北朝鮮も核実験をするのを止めるでしようね。
侘助 北朝鮮はアメリカの核兵器によって絶えず威嚇されているから、対抗措置として核実験しているんでしようからね。
呑助 北朝鮮の民衆は本当に可哀そうですね。
侘助 本当にそうだよね。朝鮮戦争以来ずっと戦時下の貧しい生活を強制され続けてきているんだからね。

醸楽庵だより  465号  白井一道

2017-07-23 14:52:02 | 日記

 東アジア共同体への道険し

侘輔 孫崎さんは無給の東アジア共同体研究所の所長さんを鳩山由紀夫さんから依頼され、引き受けているらしい。
呑助 無給なんですか。
侘助 無給だと自分で笑いながら話す姿を何回も見ているからね。
呑助 何を研究しているんでしょうね。
侘助 目標はEUやアセアンのような国家共同体を東アジアに創りたいということなんじゃないのかと考えているんだけどね。でも難しいと孫崎さんは考えているようなんだ。
呑助 難しさはどこにあると孫崎さんは考えているんですかね。
侘助 それは簡単なことなんだ。アメリカがこの構想に反対しているということのようだよ。
呑助 EUやアセアンの場合、アメリカは協力的だったのになぜ東アジア共同体形成には反対なんでしようね。
侘助 EUがEECから始まっていった時代は冷戦時代だったからね。ソ連を中心にした東ヨーロッパ諸国に対決するためには西ヨーロッパ諸国も求心力ある世界を作らざるを得なかったのかもしれないんだ。
呑助 冷戦が西ヨーロッパ諸国を結び付けたということなんですね。
侘助 社会主義の普及というか、蔓延を防ぐために西ヨーロッパ諸国は協力態勢を組んだということだと思う。
呑助 西側諸国が共同の敵に立ち向かうために協力し合う必要があったから、アメリカはEUの形成に賛成したということなんですね。
侘助 そうゆうことですよ。世界の歴史を見てみるとそういうことはよくあることなんだ。例えばね、ヨーロッパ中世の世界に君臨した神聖ローマ帝国という国があったけれども、国らしい国ではなかった。なぜなら首府というか、首都らしいものがなかったしね。だから大きな領主の緩い連合体のような存在だった。中心はドイツで、その中にオーストリアとか、プロイセンといった有力な国はあったけれどもね。
呑助 高校の世界史の授業でヨーロッパ中世は中央集権的な国は存在していなかったという話をしたのを覚えていますよ。
侘助 そうですか。イベリア半島にもいくつかの小さな国が分立していたんだけれどね。14世紀になると十字軍戦争が始まる。十字軍戦争とはキリスト教国がイスラム教国に戦いを挑んだ戦争だったんだ。イベリア半島のキリスト教徒たちはイスラム教徒と戦うために協力し合うようになった。これがイベリア半島に中央集権的な国家を出現させた。これがスペイン王国の成立のようなんだ。イベリア半島のキリスト教徒はイスラム教徒を追い出すために協力し合った。ちょうど西ヨーロッパ諸国が社会主義の蔓延を防ぐために協力した結果がEUの成立だったように。
呑助 じぁー、アセアンの成立も同じような事情があったんですかね。
侘助 1960年代から1970年代の前半はベトナム戦争があったからね。アメリカはベトナムが社会主義化したら、ドミノ倒しのように東南アジア諸国は社会主義化してしまう。それを阻止しなければならない。それがベトナム戦争だったからね。東南市アジア諸国が協力して社会主義と戦う。それがアセアンの成立なのかな。アメリカは積極的にアセアン成立に協力した。しかし今、東アジア諸国の大国中国、日本、それに韓国、モンゴルにはアメリカが敵とみなすような国は存在しない。強いていうなら中国がアメリカの敵になるのか、どうか。難しい問題だから、東アジア共同体成立にアメリカが賛成、協力する理由がない。それどころか、妨害したいというのがアメリカの本音なんじゃないのかな。


醸楽庵だより  464号  白井一道

2017-07-22 15:47:53 | 日記
 
 『最後の授業』から学ぶ

侘輔 孫崎享さんの話を聞いてるとよく話すことがある。フランスとドイツが現在戦争すると考える人がいるかと、ね。
呑助 フランスとドイツとは、長い間領土紛争をしてきたんですか。
侘助 古い紛争の歴史があるんだ。私も昔、ドーデの短編小説『最後の授業』を読み、感動した記憶があるんだ。
呑助 どんな小説なんですか。
侘助 まぁー、時代背景から少し説明すると中世のドイツにはドイツ語を話す人々が一つの国を作っていなかったんだ。ドイツでは長い宗教戦争が続いていたからね。その宗教戦争を終わらせた条約がウェストファリア条約というだけれどね。この条約は別名「ドイツの死亡証書」だなんて悪口を言う人がいるくらい。ドイツ各地の諸邦の主権を認める条約だったんだ。フランスはカトリック教徒の国、ドイツはプロテスタントの国だからね。現在のドイツとフランスの国境線地域の一つに石炭や鉄鉱石を産するアルザス・ロレーヌがある。この地名はフランス語読みだけれど、この地域の人々はドイツ語をもともと話してようなんだけれど、フランス領になっていたんだ。19世紀になるとドイツ諸邦の中のプロイセンにビスマルクという鉄血政治を唱える政治家に出現し、ドイツ統一運動が起きる。鉄砲と兵隊でドイツの統一を実現する。1871年にプロイセンとフランスが戦い、パリに入場したプロイセン皇帝はドイツ帝国の成立を宣言する。この時にアルザス・ロレーヌはフランス領からドイツ領になる。それ以来、第一次世界大戦、第二次世界大戦、ドイツとフランスは戦いぬいた。そこでフランスの小説家、ドーデはこのアルザス・ロレーヌの帰属問題を短編小説にした。「私がここで、フランス語の授業をするのは、これが最後です。プロイセン・フランス戦争でフランスは負けたため、アルザスはプロイセン領になり、ドイツ語しか教えてはいけないことになりました。これが、私のフランス語の、最後の授業です。フランス語は世界でいちばん美しく、一番明晰な言葉です。そして、ある民族が奴隸となっても、その国語を保っている限り、牢獄の鍵を握っているようなものなのです」と語った。ナショナリストの先生の最後の授業に生徒も大人たちも、耳を傾ける。やがて終業を告げる教会の鐘の音が鳴った。それを聞いた先生は蒼白になり、黒板に「フランス万歳!」と書いた。
呑助 感動的な小説なんですね。
侘助 そうなんだ。ナショナリズムというものはその国民の民族の魂のようなものを奮い立たせる力があるようなんだ。だから気を付けなければならない。戦争して不幸になるのはその国の国民だからね。
呑助 分かりますね。
侘助 このようにナショナリズムがぶつかり合ったフランスとドイツがもう戦争しないと話し合いをして、アルザス・ロレーヌの石炭や鉄鉱石は共同開発するようになったんだ。それがEUに発展し、今では、ドイツとフランスがナショナリズムをたぎらせ、自分だけ得することはしなくなった。

醸楽庵だより  463号  白井一道

2017-07-20 15:43:12 | 日記
 
 パックス・アメリカーナの終焉

侘輔 先日、ネットで不破哲三氏の「日本共産党95周年記念講演」を聞いたんだ。この中で不破氏が述べたことで印象に残った話があった。
呑助 どんなことを言っていたの。
侘助 20世紀は大国が世界を支配する世紀だったが、21世紀は大国の世界支配が終わり、世界中の国々が協力して世界の平和・安全を築いていく時代だと述べていた。
呑助 そうですか。
侘助 パックス・ロマーナ以来2000年間大国が世界を支配する時代が続いてきたが、いよいよ大国の世界支配が終わる時代を迎えるのかと言う感慨のようなものを感じたな。
呑助 「パックス・ロマーナ」とは、何なんです?
侘助 今から2000年前、ローマ帝国という強大な帝国が地中海周辺地域にあったんだ。その地中海の周辺地域には言葉の違う人々がそれぞれ自分たちの国を作っていたが、ローマ帝国が周辺地域の国々を属国として支配し、徴税をしていた。
呑助 周辺地域の国々はローマ帝国の支配に抵抗しなかったんですかね。
侘助 厳しい抵抗をし、戦争になった。最も厳しく抵抗したのがササン朝ペルシアという国だった。しかし、その他の国は抵抗する軍事力をすべてローマ軍によって破壊されてしまった。
呑助 ローマ帝国に反抗することができなくなってしまったんですね。
侘助 ローマ皇帝は「破壊、殺戮、略奪を誤って『支配』と呼び、そこに廃墟を作ったとき誤って『平和』と名づける」と言ったと言う。
呑助 ローマ人が平和になったということなんですね。
侘助 そうなんだ。だから「パックス・ロマーナ」とはラテン語でね。ローマ人の平和ということ。
呑助 なるほどね。
侘助 だから「パックス・アメリカーナ」といったら、アメリカの世界支配が安定し、アメリカの強大な軍事力に対抗する武力を持つ国が無く、アメリカ政府の言うことに背く国がないということなのかな。
呑助 ソ連という国がありましたよね。ソ連はアメリカと戦っていたんじゃないんですか。
侘助 冷戦だね。核兵器製造をし、にらみ合い合っていた戦争だね。だからこの時代は「パックス・ロッソアメリカーナ」と言われていたんだ。アメリカとソ連が世界を西側と東側に分け、世界を支配した。この時代はアメリカとソ連の平和時代なのかな。西側世界はアメリカが支配し、東側はソ連が支配した時代。
呑助 じゃー、ソ連が崩壊した後、アメリカの世界支配が続いてきたということですか。
侘助 そうなんじゃないかな。そのアメリカの世界支配が揺らいできたというのが21世紀入って、顕著になったというだと思うよ。
呑助 2001年9月11日、アメリカニューヨークツインタワーがイスラム過激派によって爆破されたことはアメリカ世界支配の終わりの象徴的な出来事なんですね。
侘助 そうかもしれないなぁー。それ以来、テロとの戦争が西アジアを中心にして、始まったが、その戦いは今、ヨーロッパ諸国でも始まっている。英独仏、スペインでもね。

醸楽庵だより  462号  白井一道

2017-07-20 15:43:12 | 日記
 
 無常観は日本の美意識

侘輔 無常観というのは、日本の伝統的な美意識だと言っていいんだと思うんだ。しかしこの無常観というものは仏教からきている教えの一つだからね、仏教はインドで生まれた宗教だよね。
呑助 高校の頃、国語の授業で教わりましたよ。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ」。暗唱させられたんですよ。
侘助 『平家物語』だよね。
呑助 そうですよ。『平家物語』ですよ。この中に「諸行無常」という言葉が出て来るんですよね。
侘助 今からおよそ800年前の物語だよね。この中に仏教の教え「諸行無常・諸法無我・涅槃寂静」の思想が反映しているんじゃないかと思うんだ。
呑助 日本文化というのは、インドや中国の文化を受け入れて創られてきているんですね。
侘助 何といっても文字そのものが中国語を表現する文字を借用して日本語を表しているだからね。
呑助 漢字ですね。
侘助 そう、その他にも中国文化の影響を受けている。漢字と一緒に仏教も儒教も律令といった統治のあり方も中国から日本は学んだ。
呑助 中国は文明の誕生地だったんですね。
侘助 だから、中国の文化的影響下に誕生した国々を東アジア世界なんて言う場合があるんだ。
呑助 日本で言うと奈良時代の頃に中国文化の影響下に日本は国家体制を整えていったんですかね。
侘助 そうだと思うんだ。10世紀になると平安時代になるよね。このころから中国文化から抜け出し、日本文化が花開くんだ。そのころから無常観という美意識が形成されていくようなんだ。
呑助 インドや中国には無常観という美意識はないんですか。
侘助 そのようだよ。
呑助 仏教の教えの中の一つ、諸行無常の中から無常観という美意識が造られていったということですか。
侘助 「諸行無常」というのは、すべてのものは常なるものではない。即ち、移り変わっていくということだよね。ここから「無常観」という美意識が生まれた。
呑助 無常なるものになぜ日本人は美を発見したんでしょうかね。
侘助 無常なるものを表現した800年ぐらい前の随筆があるんだ。それが『方丈記』だ。この中で「無常」というものを鴨長明は表現している。「時の流れの中で、モノの姿にしみじみ感じ入る」。これが無常観というものではないかと作家の玄侑宗久氏は著書『無常という力』の中で述べている。
呑助 インド人や中国人は無常なるものに「感じ入る」ということはなかったんでしょうかね。
侘助 日本人ほど強くかんじることがなかったんじゃないのかな。
呑助 それはどうしてなんでしようかね。
侘助 玄侑宗久氏は福島県に住んでいる。原発事故を経験して『方丈記』が身に沁みて感じると言っている。世界的に見るならば日本は小さな島国に地震が頻発する。木と紙と泥で出来た家は火事になるとすべて焼ける。