『仏花』
恐怖は、自分を守る盾だという。
恐怖があるから人は安全な道を選び、
変わらないことを選び、
安堵の中に、冒険を忘れて、
夢を諦めたことすら、忘れてしまうのだという。
大人になると、恐怖も成長する。
子供の頃は毎日がチャレンジで、
屋根から飛び降りることすら怖くなかったし、
異国の人と言葉を交わすことすら、
冒険だったのに
大人になると、
『大人だから』
『痛い思いをするかもしれないから』
『恥ずかしい思いをするかもしれないから』
そんな私達の安全装置が働いて、
我々を今この現状に繋ぎとめておいてくれたりする。
昨日の私も
覇気が無く、項垂れて、
仕事に追われ、プレッシャーを感じて、
きっと『恐怖』を感じていたのだと思う。
変わること、進むこと、動くことに対して…。
そんな夜、
スタジオに残って一人黙々と作業をしていた私に、
鉄の扉を叩くノックの音が届いた。
そこからが…
可愛らしいエピソード。
同じ道場の仲間が、私の異変(実は暗かったのは前日の夜からだったみたい。)に気付いて、お花を届けてくれたのだ。
しかも、…仏花。
(そこの人、アゴ外れてますよ。お気持ち、よくわかります。)
可愛らし過ぎて、この子が知ったらガッカリするだろうと、
一瞬こらえようとしたのだけれど、
…「元気出してね」っていう、真剣な眼差しと
選んでくれたお花のギャップに堪えきれず…
笑いを吹き出してしまった。
その後は本当に嬉しいし、励まされたし、個人的にはとても好きな花であることを告げた上で、
仏花の紹介をした。
同志「え?え?!なんでわかるの?!」
私(うわぁ、ベタベタやん!稽古中は国籍が気にならないから忘れてたっ。コレってめちゃくちゃカルチャーディファレンスなんだっ。)
「仏…この字、見なかった?」
同志「見た…」…同時に激しく項垂れる。
私「生前に仏花が頂けるなんて、とても徳の高い人になった気分よ。ありがとう。」
同志「ごめん、知らなかったから…仕事、頑張ってね?」
私「たくさん笑顔にしてもらったから頑張れるよ。ありがとう。帰り気をつけてね。」
扉 "バタン…. "
不思議な安堵感と
もう一度私の中で…豊かな笑いがこみ上げて来た。
頂いた生を、項垂れて過ごしては、
彼方に連れてゆかれて、仏花を供えられても仕方ないか…。
ここで、踏みとどまって、もう一度方角を見定め、
高みに登れば生前であっても、
仏花を頂ける徳の高い人物になれるのか…。
それから弟の助けを借りて
「姉、どうしたの仏花」とツッコまれながら、
少しプロジェクトを進めて、今日。
恐怖は、人をその場につなぎとめる安全装置。
私は必ずそれを使いこなしてみせる。
母の日に
「お母さん、いつもありがとう。私は冒険をしてママに仏花をプレゼントするという謎かけはしないけど、今までの安全地帯を抜けて、貴女の娘として恥じない道をこれからも選んで生きます。」