(わたしの中のグレイスって、何かちょっとこんな感じです♪)
今回もまた、文章のほうを切りのいいところまで入れられなかったので、変なところでちょん切って次回へ>>続くということになっています。。。m(_ _)m
そんで、本文のほうも長いため、今回も大好きな絵本を一冊紹介して短く終わりにしようかな~なんて
>>すきになったら、しりたくなる。
あなたのすきなものを、すきになったり、あなたにとって大事なものを理解したくなる。
すきになったら、いっしょに笑いたいし、あなたの悲しみをしりたくなる。
だって、いっしょにいたいから……。
「すき」っていう気持ちは、これまでの世界の見え方を変えてしまうほどのパワーがある。
読む者の感情を揺さぶる、ずっと大切にしたい絵本。
(絵本ナビさんの内容紹介文より)
自分的に、恋ということに限定されず、相手が友だちでも、歳の離れた人でも……「あ、この人なんか好き」ってなったら、その人のことを知りたくなる――その時の優しい気持ちや切ない気持ち、そうした色んな「すき」のこもった本のような気がします。
(『ギュスターヴくん』より)
本違いで恐縮なのですが(汗)、ヒグチユウコさんと言えば、やっぱりあの特徴のある可愛らしいネコさんと思うのですけど、自分的に作中のワニくんがもう、大好きで……
わたしがもしうさぎなら、ワニくんに食べられてもいいくらい好き……!!とまでは言えませんが(笑)、とにかく、本当に心の奥深くに何かじーん☆と届くもののある絵本だと思います
図書館、あるいは本屋さんの絵本コーナーで見かけた時にでも、是非お手に取ってみてください。読むのに時間もかかりませんし、読み終わったあとは心がどこか幸せになる……でもちょっと切ないような独特の読後感があると思います。
超おススメな絵本です
それではまた~!!
灰色おじさん-【8】-
ノースルイス第一病院を退院後、グレイスは怪我のほうもすっかり良くなり、再び元気いっぱいに跳ねまわるようになりました。グレイスの事故のことがあってから、グレイスのクラスでは保護者会が開かれ、急な坂を滑り下りるといったような競争はしないというのはもちろんのこと、大人の目のあるところで安全にスケートボードは使用すること、といった指導が行われることになりました。
もちろん、この時の保護者会にはおじさんも参加しました。もし、グレイス自身が事故に遭ったというわけではなく、クラスの彼女があまり仲良くしていないグループの子が事故に遭ったということなら――おじさんはたぶん、ただ黙って話を聞くだけで、自分から積極的に発言しようなどとはまったく思わなかったことでしょう。
「えー、オホン。この度は、わしの姪のグレイスが騒ぎを起こしてしまったようで、誠に申し訳ありません。それで、ですな。これはわしからの提案なのですが、グレイスと勝負をした一学年上のリアム・ガードナーの話によると、ノースルイス市内には三箇所、スケートボード場とスケートパーク、スケートボード専用の練習場があるということでした。もし子供たちがスケートボードをしたいということなら、そうした場所へ誰か保護者が連れていくか、あるいは彼はいつも広い公園でスケートボードの練習をしているそうです。ですから、そうした車通りのないところで遊ぶようにするというルールを作るのはどうでしょう?」
それまで、灰色の壁の一部のように存在感のまるでなかったおじさんでしたが、一度話しはじめると、その場にいた二十数名の生徒の父母の視線が一気に集中しました。そして、担任のエレノア・レイノルズ先生が、「それはいい案ですね、グレイさん」と満面笑顔で言うと、副担任のアレン・スミス先生も「本当にそうですね、グレイさん」と、賛同していました。
こうして、おじさんが話をすぐにうまくまとめてくれましたので、保護者会のほうはすぐにお開きということになりました。おじさんはその帰り道、グレイスの同級生のパパやママたちに、随分色々話しかけられていました。グレイスは大人が相手でもはっきり物をいう気持ちのいい子供でしたので、どこの家庭へ遊びにいっても、大体のところ誰からも好かれていたようでした。おじさんはそのことが嬉しく、また、どうやらグレイスが「パパとママのいない可哀想な子」といったようにも思われていないようだとわかり、つくづくほっとしたものです。
グレイスが退院してから、おじさんの生活はまた元の通りに戻りました。朝起きて、グレイスの分と自分の二人分の朝食を用意し、ぐずる姪のことをどうにか起こしで身支度をさせ……遅刻のことなど考えずおしゃべりしながら食事する姪のことを最後には急かして学校のほうへ送りだすのです。
そしておじさんは、姪が隣のティムと一緒に学校の方角へ進んでいくのを窓から見送ると、(やれやれ)と思いながら自分の書斎のほうへ閉じこもり、新聞や本をゆっくり読みはじめるのでした。グレイスはまだ一年生でしたので、毎週水曜日以外は、一時頃にはもう家のほうへ帰ってきます。給食のあるのは水曜日だけで、その日は午後からも一時間だけ授業を受けてから帰って来るのですが――それ以外では「学校へ行ったかと思ったらすぐ帰ってくる」ようにおじさんには思われました。何分、水曜日以外は学校のほうでお昼が出ませんので、おじさんはグレイスが帰ってくるまでにお昼ごはんのほうを用意しておかなくてはなりません。
となると、大体お昼ごろには食事の用意をはじめなくてはなりませんし、おじさんはそうのんびり読書の世界に浸っているというわけにもいきませんでした。おじさんはほんとうにほんのときどき、朝はもっとのんびり眠って、食事の用意のことなど気にせず本を読み耽りたいものだ……と思ったりすることもないわけではないのですが、それでもおじさんにはわかっていました。グレイスのいない自由で孤独な生活と、多少不自由なところもある可愛い姪のいる生活――どちらがいいかと言われたら、おじさんに考える時間は五秒もいらなかったでしょう。
そのようなわけで、おじさんはこの日も、グレイスが帰ってくるのに合わせて、前日のうちに種を仕込んでおいたパンをオーブンで焼くことにしました。今日のパンは、枝豆パンとレモンジャムパン、ブルーベリーのロールパンなどです。グレイスはおじさん手製のパンが大好きでした。「これ、お店で売ってるのより断然美味しいわ!ねえ、おじさん。おじさんきっとパン屋さんをやったら絶対一儲けできるわよ」と、毎日のように言います。もちろんおじさんにそんな気はまったくありません。今以上に生活が忙しくなるなど、とても堪ったものではないからです。
その日もそうでしたが、グレイスはおじさんの作ってくれたパンを食べると、友だちの家のほうへ出かけてゆきました。今日はケリーの家のほうにみんなで集まるのだそうです。その他、グレイスはお昼ごはんを食べる間中、その日学校であったことをぺちゃくちゃしゃべりまくりました。授業でどんなことをやったか、その時先生がどんなことを言ったか、あるいは休み時間に友だちとどんな話をしたか、などなど……。
「それでねえ、ケリーは将来は王子さまと結婚するのが夢なんですって。ほら、ウィリアム王子とキャサリン妃みたいな。それで、どういう結婚式をするのが理想かっていう話になったの。ほら、ドレスはどんなのがいいかとか、そういう話。ヴァネッサは絶対ヴェールの上にティアラを被るって言うし、ローラはもう子供の名前まで決めてあるんですって。男の子だったらアレクシス、女の子だったらシェリーって名づけるんですって。おじさん、わたしね、そんなずっと先の話なんてして何が楽しいかしらって思ったけど、みんなものすごーく盛り上がっちゃって。「おばさんの結婚式の時こうで素敵だった」とか、みんな自分の理想の結婚式を絵に描いたりとかして……ねえおじさん、どう思う?この話、そんなに面白いかしら」
「そうじゃのう」
この日もおじさんは、おかしくて堪らないのを堪えながら、自分で作ったパンをもぐもぐ食べていました。
「ほら、グレイスだっていつかは結婚したいと思うじゃろう?その時、結婚式はこんなのがいいとか、そんなふうに想像したりはしないのかね?」
「そんなこと、まるでしないわ」
グレイスは肩を竦めてそう言い切りました。
「わたし、男の子ってあんまり好きじゃないの。ほら、あのバカ……リアムの奴とかもそうじゃない?ようするに、わたしは別として、他の女の子の気を引きたいがためにスケボーの技なんか披露しちゃったりしてさあ。見え見えだっての。でも他のみんなは「リアムってちょっと格好いい」なんて言うの。バカみたいじゃない?」
「そうじゃのう……」
ここでもおじさんは、またおかしくて堪らなくなりました。リアムは責任を感じてか、グレイスの入院中、毎日お見舞いに来ていたのです。そういう時、彼は他のケリーやローラやヴァネッサといった子たちに、随分ちやほやされていたようでした。でももちろんおじさんにはわかっています。あの女の子たちの中で、おそらくリアムが気があるとしたら、それはうちのグレイスだろうということは。
「ま、確かにグレイスはまだ結婚とかなんとか、そういうことを考えるのは早すぎるわな。じゃがまあ、もし十何年とか二十年とかして、グレイスが結婚してこの家を出ていくとしたら……グレイスが幸せになるのは嬉しいが、おじさんは寂しくなるのう。まあ、その頃まで仮に生きていたとして」
「あら、おじさん。心配しなくても大丈夫よ。あたし、おじさんの老後の面倒はちゃんとみるわ。だって、それが姪の務めというものですもの。そんなことをないがしろにして結婚したりなんかしないから、おじさんは何も心配なんかしなくていいのよ」
「なんかそれも悪いのう。それにおじさんは、グレイスの幸せを犠牲にしてまで、おまえに面倒を見てもらおうとは思ってないからの。ま、その時にはどっか適当な施設にでも入ることにするさ」
おじさんは、空になったグレイスのコップに、アイスティーを注いでやりながら、そんなことを言って笑いました。
「そんなのいけないわ、おじさん。とにかくね、あたしが言いたかったのは、男の子なんていうバカな生き物と結婚するより、あたしなら女の子と結婚したほうがいいなってこと。だってそうじゃない?隣のマクグレイディさんを見てるとつくづくそう思うわ。おじさん、これ、決して悪口ってわけじゃないのよ。パパのケビンさんもとってもいい人だわ。でもこう……なんていうのかしら。ケビンたちのパパはちょっと気が多いのね。この間遊園地へ行った時もね、胸のおっきい女の人とか、綺麗な若い女の子とか……そういうほうにばっかり目が向くのよ。それに、ケビンもティムもニックも、全然ママのお手伝いなんてしないし、ママが怒鳴りまくってようやく言うこと聞いてくれても、マクグレイディさん的にはちっとも嬉しくなんかないんじゃないかしら。時々、マクグレイディさんはね、溜息を着いて言うの。この三人の馬鹿息子のうち、ひとりくらい女の子だったら良かったのにって。ほんとそうよね。わたし、もし自分が何かの間違いから結婚して、旦那さんがケビンたちのパパみたいだったり、息子が自分で馬鹿と呼びたいような子ばかりだったら、こんな奴ら、自分のありがたみがまるでわかってないと思って、家出しちゃいたくなるわよ、きっと」
まるでそれに等しい苦労を今自分がしているとでもいうように、グレイスは溜息を着いていました。そして、やはりここでもおじさんはおかしくなって、笑いを堪えるのが大変でした。
「そうじゃなあ。でもまあ、グレイスは賢いから、そんなことにはならんだろうて。そんなことよりグレイスや、そろそろ出かけたほうがいいんじゃないかね?友だちとの待ち合わせ時間までにまだ間があるなら構わないがね」
「あら、ほんとだわ。それじゃそろそろ出かけてくるわね」
「ああ。車にはくれぐれも気をつけてな」
「もちろんよ!おじさんとの約束は必ず守るから、心配しないでね」
おじさんは、うんうんと何度も頷きながら姪のことを見送ると、再び書斎に篭もって本を読んだり、書き物をしたりしはじめました。そのあと、冷蔵庫の前に磁石でくっついている黒板に、チョークで行き先を書いてから出かけることにします。『図書館に本を返してから、買い物してきます』とオレンジ色のチョークで書くと、おじさんは本の入ったカバンを片手に、出かけていくということにしました。
もちろん、グレイスが帰ってくるのよりも、おじさんの帰宅のほうが早いかもしれません。でも、毎日おじさんとグレイスは、冷蔵庫の前の黒板に自分が出かけた先などを書いておくのが慣わしでした。
この日、おじさんは図書館でついうっかり調べ物に夢中になって帰宅のほうが遅くなってしまいました。けれども、家に帰って来てもグレイスの姿がなかったもので、おじさんは驚いて、ケリー・スミスの家へ電話しました。すると、グレイスはとっくの昔に帰ったと言います。でも、帰りに他の友だちとどこかへ行ったかもしれないから、確認してまた電話してくれるということでした。おじさんは夕食の準備をしつつ、ケリーから再び電話が来るのを待っていたのですが――その二十分後、グレイスはみんなと別れたあと、急いで帰ったということをおじさんは聞かされたのです。
「ええっ!?そ、そんな……い、いや、どうもありがとう、ケリー。たぶんちょっとどこかへ寄って買い物でもしとるのかもしれんから、もう少し待ってみるよ。それじゃあ、どうも」
時刻はもう七時十分を過ぎています。グレイスは大体七時までには家に帰って来ますし、何か理由があって遅くなる時には必ず電話をくれます。おじさんはこの時、<誘拐>の二文字が頭に思い浮かんで、狼狽していました。ケリーには「どこかへ寄って……」と言いましたが、グレイスはそういった寄り道をするタイプの子ではないのです。
(そうじゃな。うちに帰って来る途中で誰か……たとえばリアムにでも会って、どこかで話しこんでるとか。そうじゃ。たぶんきっと……)
おじさんは夕ごはんの準備を終えると、また時計の針を見て、はらはらしはじめました。そして、隣のマクグレイディさんのお宅にも念のため電話をかけ、やはりグレイスは来ていないと聞いて、肩を落としていました。
「そうじゃ。警察になんか駆けこんだところで、どうせ相手になんかしもらえまい。まずはグレイスの行きそうなところを探して……」
おじさんはとにかくいてもたってもいられず、近くの公園や学校の前など、あちこち探しまわりました。ユトランド共和国ではこの時分、九時近くになってもまだ外は明るいのですが、おじさんが心当たりを回って帰ってきても……やはり家の中にグレイスの姿はありませんでした。
「もう八時過ぎか……もし相手にされなかったとしても、やっぱり一度警察へ……」
疲れきってへとへとになった体をソファから起こすと、おじさんは交番へ行こうと思いました。そしてこの時、ふと気づいたのです。冷蔵庫の黒板の前に、『おじさんをさがしてきます』というグレイスの水色の文字があることに……。
これは先ほどまではなかったものです。つまり、おじさんが夕食を作ってグレイスを探しに出ている間に――おじさんが自分を探していると思って、グレイスはおじさんを探しに出たのでしょう。
「そうか、グレイスはわしとちょうど入れ違いに……」
おじさんは、ほっとするのと同時に、玄関のほうへ向かいかけて、ハッとしました。これではたぶん、また行き違いになってしまうでしょう。おじさんはそう思い、とりあえずじっと我慢してグレイスが戻ってくるのを待つことにしたのです。
暫くして――それはほんの十五分後でしたが、おじさんにはもっとずっと長く感じられました――グレイスが息を弾ませて戻ってくると、おじさんにはすっかりわけがわかりました。グレイスは帰ってくると、冷蔵庫の黒板に>>『図書館へ行って買い物して帰ってきます』とあったもので、きっとおじさんは今ごろいつものスーパーにいるに違いないと思い、スーパーへ行ったのです。ところが、野菜を売ってるところにも、お肉を売ってるところにも、お魚を売ってるところにも、その他広い生活用品売場にも、どこにもおじさんの姿はありません。こうなるとたぶん、おじさんはまだ図書館にいるということでしょう。そこでグレイスはちょっと遠いですが、図書館へ行ってみることにしました。図書館には閉館十分前にかかる音楽が流れていました。グレイスはここでもがっかりして、家へ帰ることにしたのですが、今度は家に帰ってみると、ごはんの仕度はしてあるのに、おじさんの姿がありません。そこへ、ケリーから電話がかかって来たのです。「そろそろ帰って来てると思って電話してみたのよ。一応心配だったから」とのことでした。
そこでグレイスは、おじさんは自分を心配して探しに出たのだろうと思い――行き違いになるかもしれないと思って、冷蔵庫の黒板に『おじさんをさがしにいきます』と書いて、再び外へ出たのでした。おじさんが自分を探しそうなところといえば、グレイスにも大体見当がつきましたから。
「ああ、おじさん!まさかこんなことになるなんてねえ。あたしね、ただ、おじさんとスーパーで一緒に買い物したかっただけなのよ。特に何か欲しいものとか食べたいものがあったってわけじゃないけど……とにかくスーパーへ行けばおじさんがいるだろうなって思ったの。でもいなかったから、まだ図書館にいるのかなって思って。ほら、前にも一度あったでしょ?おじさん、本を読むのに夢中になって、帰りが遅くなったっていうことが……」
「そうじゃったな。すまんかった、グレイス。なんにしてもおまえが無事でよかったよ。てっきりわしは、おまえが誘拐でもされたかと思って心配でな。本当におまえが無事でよかった。さあ、グレイスもお腹がすいたろう?先に食事にしよう」
今日の夕食はハンバーグでした。おじさん手製の手ごねハンバーグです。グレイスはいつもは野菜は少ししか食べませんが、おじさんが喜ぶので、いつもより多めに野菜も食べました。
「ねえ、おじさん。この上にかかってるソース、とっても美味しいわね。パパのデミグラスソースもとっても美味しかったけど、わたし、これもとても好きだわ。それに、このチーズはどうやって中に入れたの?パパのハンバーグもとても美味しかったのよ。でも、中にチーズが入ってたことはなかったから……」
「そうじゃのう。わしの作ったハンバーグなぞ、グレイスのパパの作ったハンバーグとは比べ物にもならんじゃろうがな。ま、上にかかってるソースはただ、ケチャップとウスターソースを半分ずつ混ぜてあっためただけじゃ。チーズのほうはスライスチーズを適当に切って丸めて真ん中に突っ込んだだけじゃな。まあ、そう大したことはないわい」
「そうかしら」と、グレイスは嬉しそうに笑います。「おじさん、前にわたしが『どうしておじさんは結婚してないの?』って聞いた時、『ま、もてなかったからじゃろうな』って言ってたわ。でもちょっと違うんじゃないかしら。おじさん、料理もお掃除もお洗濯も、大抵のことはなんでも出来てしまうんですもの。これならべつに結婚する必要なんてないものね。そうでしょう?」
「さあて」と、おじさんは笑って言いました。それは苦笑に近い微笑みだったかもしれません。「確かにわしは、料理とか掃除とか洗濯のために誰かと結婚しようとは思わんな。それに、一人でいることがそう苦痛というわけでもない。これは昔からそうじゃった。ただ、四十を過ぎた頃に一度病気になって、その時は誰でもいいから傍にいて欲しいとは思ったな。じゃがまあ、手術が済んで退院してからは、そんなことも忘れてしまった。また病気になった時のために見合いでもしようかとも考えんかったしな。ほれ、聖書にも書いてあるじゃろう。人間には生まれつき、独身者に定められた者がおると。まあ、わしもそういう者なんじゃろうな」
「ふうん……」
グレイスはおじさんの話を聞きながら、少し不思議そうに首をひねりました。今は<結婚>ということには憧れも興味もないグレイスでしたが、それでも人というのはある程度「いい歳」になると、誰かと結婚したりするものらしいとは理解していました。果たして、血の繋がりということがグレイスにそう思わせるのかどうか、他の人はおじさんの容姿を見るなり、結婚していないと聞いても「あ~あ」という感じですぐ理解されるのですが、グレイスにとっては本当に不思議なのでした。(おじさんはこんなに色々出来て物知りで素敵なのに、女の人のほうでどうとも思わないだなんて、絶対変だわ)と。
なんにしてもこの日、おじさんとグレイスは無駄な行き違いがあったせいで、心身ともに疲れているはずでしたが、心の中はとても幸福でした。やがてグレイスはまあまあの成績で小学校の一年生を終えると、二年生に進級しました。長い夏休みの間は、隣のマクグレイディ家とキャンプしに行ったり、あるいはケイトやヴァネッサやケリーといった友人のお父さんやお母さんと一緒に小旅行へ出かけたりと、グレイスは毎日を忙しく過ごしていたものです。
そして、二年生になった時、クラス替えがあったのですが――グレイスは四クラスあるうちのD組で、ケリーやティムと同じクラスでした。ヴァネッサはA組、ケイトはB組、ローラはC組といったように、みんなバラバラになってしまいましたが、グレイスはたぶん性格的に、仲良しの友だちがひとりも同じクラスにいなくても、そうショックは受けなかったことでしょう。けれどもケリーのほうではグレイスと同じクラスであることをとても喜んでいました。ティムは毎日グレイスと登校している割に、同じクラスになってもあまり嬉しそうではない様子でしたが……。
グレイスは二年D組でも新しい環境にすぐに慣れ、友だちもたくさん出来ました。その中で、ケリーはグレイスにとって「一番の」友だちということでもなくなってしまったようで、ケリーは少しがっかりしたようでした。けれどもケリーのほうでも「それならわたしだって」と思ったのかどうか、グレイス以外に親友を作っていましたし、彼女はケイトやローラと割と近くに住んでいましたので、彼女たちとも変わらず仲良くしていたようです。
授業中もすぐに手を挙げてなんでも質問するグレイスは、先生の覚えもめでたく、担任のダニエル・コーディル先生は、若干グレイスのことを贔屓にしているふうだったようなのですが――おじさんはある時、グレイスの友だち数人がリビングでこんな話をしているのを聞いてしまい、腰を曲げながら書斎へ駆けこみ、一生懸命笑いを堪えたものでした。
「あいつ、絶対グレイスに気があるんじゃない?」
「そうよ、そうよ!グレイスの宿題帳を見ている時だけ、いつも話が長いものね。うちのお姉ちゃんもコーディル先生が担任だった時があるんだけど、お姉ちゃんもよく言ってたわ。あいつ、絶対ロリコンの気あるから、よく見てたらわかるって。女の子がスカートはいてたら、絶対足ばっかり見てるんですって。なんかやらしー」
「わあ、じゃあグレイス大変じゃない。あいつが肩に手を回してきたりしたら、注意しなきゃ。気をつけないときっと、そのうちキスとかされちゃうわよ!」
「やだ、マジでキモいー」
……女の子というものは、まだ七歳とか八歳でも、すでに「女の子」なのだと思って、おじさんはおかしくて堪らなかったのですが――グレイスはといえば、「ダニエル先生はそんなんじゃないわよ」とか「結婚してないからってロリコン呼ばわりしちゃ失礼だわ」と言って、担任の先生のことを随分庇っていたようです。
けれども、全体としてダニエル先生が男子よりも女子のほうを贔屓にする嫌いがあったのは事実だったようで、ある時、女子の中で特に贔屓にされていると思われるグレイスは、男子のあるグループから攻撃を受けることになってしまいました。彼――フランク・クレイグは、小学二年生とは思えないくらい体格がよく、それとは逆に体の小さいティムのことをよくいじめるので、グレイスとはそのことでずっと反目しあっていたのです。
ところが、グレイスがよくティムのことを庇ってあげるのに対し、ある時ティムからグレイスは突然きっぱりこう言われてしまいました。「ぼくのことはもう放っておいてよ。べつに、フランクからいじめられたって、グレイスにかばってくれなんて、ぼくは頼んだことなんかいっぺんもないんだから!」と……。
ティムからこう言われた時、グレイスはとてもショックでした。マクグレイディ夫人から「うちのティムを頼むわね」と言われたからというよりも、グレイスはティムのこともニックのことも、自分の弟のように「可愛い」と思っていたからです。
グレイスは学校や自分の身近であったことを黙っていられる質の子ではありませんでしたから、当然このこともすぐ、おじさんに相談しました。
「そいでね、ティムったらもうあたしと一緒に登校したくないんですって。だから明日からは一人で学校へ行くけど、ぼくには話しかけないでくれなんて言うのよ。どう思う、おじさん?」
その日の夕食はカレーライスでした。グレイスはおじさんの作るカレーライスも大好きです。そしてカレーライスの日は必ずツナのサラダとコンソメスープと決まっているのですが、グレイスはこのうちどちらも好きでした。
「そりゃあ、あれさ。まだ七つや八つでも、男の子は「男の子」ということさ」
「どういう意味?」
グレイスは見ていたテレビ番組の音量を少し小さくしました。そのくらい、このことはグレイスにとって大事なことでした。何故といって、なんだか血の繋がりのない弟に突然絶縁宣言されたような、そんな気持ちになっていましたから。
「そうじゃなあ……ちと説明のほうは難しいが、ティムにはティムなりに男の子としてプライドがあるということさ。ほれ、グレイスだってたぶん――まあ、おまえの場合はちょっと想像が難しいだろうが、いつでも上から目線で誰かから庇ってもらってばかりいたら、そのことに感謝しつつも、少しくらいは疎ましいと思う部分が出てくるはずさ」
「ええーっ!?上から目線って何それ!じゃあ、ティムはわたしのこと、今うとましいって思ってるってことなの?」
グレイスはあらためてがっかりしました。フランク・クレイグとなんて本当は口も聞きたくないのに、ティムがいじめられないために仕方なく間に入っていたようなものなのに……なんだか色々と気を回していた自分が馬鹿のように思えてきます。
「そうさな。わしの見たところ、ティムがおまえのことを好いとることは間違いないと思う。ただ、グレイスがティムのことを「頼りない弟」と思ってるのと違って、ティムのほうでは「対等な友だち」になりたいと思うとるってことさ。そうじゃな……確かにティムのことは暫くそっとしておいてやることじゃ。だがな、グレイス。そっとしておくことと放っておくこととは違うぞ。そっとしといておいてあげつつ、ティムが本当に困っておるようだと感じたら、やっぱり助けてやることじゃ。そのことを忘れんようにな」
「あーあ。なんかメンドくさっ。おじさんの言ってることが正しいのはわかるけど……あのね、おじさん。わたしが男だったらべつにいいのよ。フランクのアホと取っつかみあいの大ゲンカになったとしても。でもわたし一応女の子だから、あんな図体のでかい奴に体あたりしてもこっちが負けちゃうわけ。だから口で言い争うことになるわけだけど――フランクってほんとアホのオタンコナスなのよ。口じゃあたしに勝てないの。つまり、頭の回転のほうはあたしのほうが速いってわけね。この間なんか、タコみたいに顔を真っ赤にして、頭から湯気の出てないのが不思議なくらいの顔してたわ」
「差し支えなければ、そのフランクにおまえが言ってやったことをわしにも教えてくれないかね?」
「えーっとね……」
グレイスはおじさんに言いにくいのではなく、自分でも何を言ったか忘れてしまったので、一生懸命思い出そうとしました。けれども問題なのはやはり、言われたほうではそうしたことは一言一句決して忘れないということだったでしょう。
「なんだったかな。ティムのこと、いっつもチビ呼ばわりするもんだから、あたしいつもあいつのこと、デブって呼んでやるの。『あんたみたいな太っちょ、見たこともない』って。でもね、向こうだってあたしのこと、ブスとかなんとか色々言ってくるんだから、そんなのおあいこじゃない?でもあの時は……なんだっけ。あいつがシャツの半袖のところを肩のあたりまでまくった時に、あたし、あいつの腕を見て『ボンレスハム!』って言ってやったのよ。そしたら、あいつの腕に網のかかってないのが不思議なくらいだったもんで、クラスの全員がみんな大笑いしたの。ケッサクだったわ」
「…………………」
おじさんとしては注意すべきかどうか、複雑なところでした。時々、ティムは隣のおじさんの家へそっとひとりで遊びに来ます。本人の弁によると、「家から避難してきた」ということらしく……そういう時、ティムはおじさんの書斎のあたりをうろうろしたり、あるいはぼんやりテレビを見ながらおじさんのパンを食べたりして、また隣の家のほうへ帰っていきます。どうやら、マクグレイディ夫人からそう聞いたことは一度もありませんが、マクグレイディ家ではケビンとジュディの間で夫婦喧嘩になることがよくあるようです。
(家でも学校でも悩みがあるとは、あの子もつらいのう)とおじさんもそう思いますが、かといって具体的にどうかしてあげることが出来るというわけでもありません。
「まあ、その……グレイスや。そのフランクという子にもけしからんところがあるのは確かじゃが、何事もほどほどにな。第一、相手が太ってるとか腕が太いとか……そうした容姿的なことを揚げ足でも取るみたいに揶揄するのはいかんよ」
「おじさん、ヤユってなあに?」
おじさんの話の中には時々、グレイスにとって難解な言葉が出てくることがあります。この時もそうで、おじさんは「平たくいえばからかうということじゃな」と教えてくれました。
「ふうん。ヤユってからかうって意味なの。でもね、おじさん。あたしも相手が英語のわかるマトモな人間相手なら、意地悪なことを言ったりしないわ。だけど、あいつは人間じゃない、スモウレスラーの宇宙人なんだもの。いじめるのもね、何もティムだけってわけじゃないの。他の気の弱そうな子をけしかけて、女の子のスカートめくってこいとか命令したり……ほんっと馬鹿みたいな奴なのよ」
「なるほどのう。じゃがグレイスや。スモウレスラーだってもちろん人間だし、宇宙人だって、宇宙人だからというだけで、悪者とは限らんじゃろ?まあ、映画に出てくる宇宙人はE.T.以外悪者であることが多いようだがの……ティムのことをそうっとしておくように、そのフランクという子とも、少し距離を置くことじゃな。ダニエル先生がこのことについて、どう考えておるのかはよくわからんが」
「あら、ダニエル先生はいつでも女の子たちの味方なのよ。だから、いつでもフランクにこう言ってるの。『女の子のことは大切にしなきゃいけない。ほら、レディファーストっていう言葉があるようにね』って。でもフランクはそのことも面白くないみたいよ。ダニエル先生のこと、『あいつはタマがついてない』とか『ロリコン野郎』って陰でこっそり言ってるみたい」
(やれやれ。たったの小学二年生でもうこれか。学校の先生というのも大変だのう)
おじさんは同情を禁じえませんでしたが、かといって、このこともおじさんにどうか出来るような事柄ではありません。
なんにしても、おじさんとしても『暫く様子を見る』という以外にはありませんでした。幸い、グレイスは毎日学校であったことを話さずにはいられないような子ですし、おじさんはあまり学校でのことをティムに聞いたことはありませんでしたが、彼もまた少しばかり誘導すれば、色々話してくれるに違いありません。
こうして、数日が過ぎましたが、グレイスによると、ティムがどうして自分と登校したくないと言ったのか、理由のほうはすぐにわかったそうです。ティムがグレイスと一緒に登校しなくなると、フランクがいかにも馴れ馴れしくティムの肩に腕を回しながらこう言っているのを目撃したのだとか。「女と登校しなくなって、ようやくおまえも本物の男になれたようだな、ティム」と……。
おじさんは思わず吹きだしそうになりましたが、ここで笑ってはいけないと思い、一生懸命腹筋を鍛えました。グレイスはいえば、「もうほんっと男の子って馬鹿みたい!」とか、「馬鹿ばっかり」と言って、その話をする間、ずっとプリプリしていたものです。
ところが、話はそれだけではすまず、グレイスとフランクの間の対立姿勢というのはさらに強まっていったようで、ある日とうとう――フランクのほうで必殺技を出してきました。つまり、グレイスには「パパとママがいなーい!しなびたピクルスみたいなおじさんとふたりで暮らしってる!」といったことを囃し立て……結果、フランクは学校の前庭で鼻血を流し、失神することになったというのです!
なんにしても、学校のダニエル先生から電話がかかってきた時、おじさんは仰天しました。ダニエル先生が「グレイスが男の子に怪我をさせまして」と言った時、もちろん相手がフランク・クレイグであろうことは容易に察せられました。ところが、喧嘩の理由が「おじさんの悪口を言われたことで……」ということに差し掛かると、おじさんは驚きのあまり、顔色を変えていました。
『今、フランクの保護者とも連絡を取りあって、学校のほうへ来てもらおうと思っています。まあ、失神したと言っても、そう大したことはないのですよ。何分、体の大きな子でもありますし……鼻血のほうももう止まっていますしね。骨が折れたとかなんとか、そう大袈裟なことでもないのです。フランクのほうで両親がいないとか、グレイスのことをからかったのもいけないことですから……ええ。グレイスには一応、フランクにあやまるように言ったのですがね、「自分は悪くないから絶対嫌だ」の一点張りで』
こういった次第により、おじさんはコートを手に取ると、急いで学校のほうへ向かいました。今、季節は十二月で、まだ雪は降っていませんでしたが、外はもう大分寒くなってきていました。
(まったく、もうすぐクリスマス休暇に入るところだというのに……なんていうことだろう!)
おじさんはもちろん何があってもグレイスの味方でした。しかも、自分の悪口を言われたことで喧嘩したとあってはなおさらのことです。けれどもこの時おじさんは、歩いて十分ほどのノースルイス第十小学校へ行く途中、つくづくこう思ったものでした。
(世のお母さんやお父さんというのは大変だな。わしなぞ、定年した身で時間が余っとるからいいようなものの……仕事の最中に学校から電話がかかってきたりしたら、それだけでもう気が転倒してしまうだろう。仕事もあれば、学校の子供のことも考えて……時々、小さい子供を持つお母さんが気狂いじみているところを見かけることがあるが、それも無理ないことだて。わしもこれからは大目に見るようにしなければならんな……)
おじさんはそんなことを考えながら学校のほうへ向かい、校門をくぐって昇降口に到着すると、二階にある職員室のほうへ足を向けました。職員室のほうに顔を出すと、生徒指導室のほうへ通されました。そこには、しょんぼりうなだれているというよりは、むっつりふくれているように見えるグレイスと、いかにも温厚そうな顔つきのダニエル・コーディル先生が立っていました。グレイスは白い長方形のテーブルの前に座っており、他にも同じような丸椅子やパイプ椅子などが八客ほど向かい合わせに並んでいます。
「グレイス、おまえ……」
グレイスはおじさんと目を合わせようとしませんでした。プイッと横を向いて、そのままの姿勢でいます。
「先生、どうもこのたびは、グレイスがお世話をかけたようで……」
おじさんが低姿勢で頭を下げていると、突然バタン!とドアが開いて、そこにはドアいっぱい近くにまで肩幅のある角刈り頭のフランクと、その後ろに、ブタのように太った……という表現は適切ではありませんが、とにかくとても体格のいいフランクのママ、さらに、それより背丈のある、プロレスラーのような体型のフランクのパパが腕組みして立っていました。
たぶん、もし漫画的に表現するとしたら――生徒指導室のドアが開いた瞬間、ドバアァァァーンッ!!という効果音のしなかったのが、おじさんの耳にはまったく不思議でならなかったことでしょう。
おじさんはこのクレイグ一家に一目会うなりすっかり威圧されていましたが、それでも、今はもうキッと真っ直ぐ前を見ているグレイスに気づくと、おじさんなりに気力を奮い立たせました。この可愛い姪のことは、何があっても自分が守ってやらなくてはと、そう思ったのです。
「その、このたびはうちのグレイスが、お坊ちゃまにこのような怪我をさせてしまいまして……」
おじさんは先生に対してと同じような低姿勢で応じようとしましたが、グレイスがここで一声鋭く叫びます。
「あたしはなんにも悪くないもん!先に、フランクがあたしに「ママとパパがいない」って言ったんだよ。それにおじさんのことまで悪く言ったの!そんな奴、死んであたしに償うべきなのよ!!」
これはまったく驚くべきことでしたが――顔を真っ赤にして怒るグレイスは、子供ながらまったく美しく、まわりの大人はみな、彼女の言っていることのほうが正しいのだと、一瞬錯覚しそうになるほどでした。それはクレイグ夫妻にしても同様で、今までふたりは保健室で、「自分の鼻をへし折ったのは(実際には折れていませんが)、気の狂った頭のおかしい女で、突然鉄拳と飛び蹴りをくらわせてきた」と聞かされていました。
ところが、相手はフランクより二周りも小さな、可愛らしい容貌のお嬢ちゃまでした。フランクのママは息子にこのような怪我をさせた子の母親なら、とんでもなくクレイジーに違いないと思い、「こてんぱんにやっつけてやるわ!」という意気込みとともに生徒指導室へ乗りこんできたのであり、たまたま仕事が休みだったフランクのパパも、ママと息子の味方をしてやろうと思い、しっかと腕組みしていたというわけです。
しかしながら、一度事実がわかってみると、ガーゼを鼻のてっぺんに白いテープでとめたフランクは、すっかり狼狽してしまいました。陸軍大尉である父親のデヴィッド・クレイグは、自分の息子の頭のてっぺんを拳骨で殴りつけると、さっと前に進みでて、おじさんに握手を求めてきました。
「こちらこそ、うちの愚息がすっかりご迷惑をおかけしてしまったようで……言い訳にはなりませんが、俺は家を留守にすることが多いもんで、息子がこんな可愛らしいお嬢さんのことをまさかいじめているなどとは、夢にも思ってみませんでした」
「パパ!俺はグレイスのことなんかいじめてなんかいないよ。女のことなんか最初から相手になんかしてないんだ。ただ、こいつがあんまりしょっちゅうからんできやがるから……」
フランクはオロオロしてどうにか弁解を試みましたが、もはやクレイグ夫妻にとって説得力はなかったようです。丸々太ったフランクのママも、椅子のひとつに座ると、「うちの息子がひどいことを言ったようで、本当にすみません」と、真っ赤な髪をして真っ赤な口紅をしている割には、ひどく常識的にあやまってきました(ついでにこの奥さんは爪にも真っ赤なマニキュアをしています)。
「いえ、こちらこそ……どんなことを言われたにせよ、先に手を出していいということにはなりません。その、怪我の治療費のほうはこちらでお出ししますので……ほら、グレイス。おまえもフランクくんにあやまりなさい」
「いやよ!あやまるとしたら絶対フランクのほうでしょ。あたしは悪くないもん。もし、フランクがあたしにゴチャゴチャ言ってこなかったら、殴ったりもしなかったし、第一こいつ、普段から行いが悪いのよ。ティムとか、ちょっと体が細くて弱いような感じの子をいじめてばかりいるんだから!」
「こいつ……!!」
今度はフランクのほうがグレイスに掴みかかろうとしましたので、ダニエル先生が間に入って仲裁しました。
「その、お父さんとお母さんには非常に申し上げにくいのですがね、フランクにそうした傾向があるというのは確かに事実です。グレイスはそのティムという子と家が隣同士なもので、よくその子を庇ってやっていました。ふたりの喧嘩というのはようするに、そうした背景があって、だんだんにエスカレートしていった結果こうなったということです」
「フランク、おまえ、そのティムって子や、他の弱そうな感じの子を本当にいじめたりしてるのか?」
クレイグのパパのデヴィッドは、そう言って息子のことを問いつめました。彼は父親として、今回のことをとてもいい機会だと思っていましたから。
「いじめとか、そんな大袈裟なことじゃないんだよ、パパ。確かにティムに俺はチビとかってよく言うよ。だけど、それも親愛の情なんだ。そんなこと言ったら、グレイスだって俺のこと、デブとかボンレスハムとかスモウレスラーってよく言うし、だからって俺はそんなこと程度で傷ついたりしない。もちろん、グレイスのは親愛の情とかいうのとは全然違うけどね」
(だから本当は俺のほうが被害者なんだ)という振りをクレイグはしましたが、パパもママも、もちろんダニエル先生も、ただ首を振るばかりでした。
「どうやらこれは、家へ帰って少しばかり説教してやらねばならんようです。先生もお忙しいでしょうし、それはグレイさんのほうでも同じでしょう。この件に関しましては、父親の俺のほうでしっかり叱っておきますので、どうか、今回のことは御容赦願いたいと思います」
そう言ってデヴィッドがどこか軍隊式に頭を下げたもので、おじさんは慌てて彼に頭を上げさせました。
「いえ、うちのほうでもグレイスにはよく言って聞かせますので……フランクくん、君も鼻の怪我のほう、大事にしてくれたまえ。もし良かったらうちにも一度遊びに来てください。隣にティムも住んでいるので、そうすればみんなちゃんと仲直りできるでしょう」
「おじさん!わたし、こんな奴をうちに上げるのなんて絶対嫌よ」
「俺だって、おまえの家になんか行きたかねえや!!」
――子供たちの間では、お話は平行線のままだったようですが、大人のほうではとりあえず、表面上の体裁を整えて、学校のほうをあとにするということになりました。実際のところ、おじさんもダニエル先生もほっと胸を撫で下ろしていたかもしれません。クレイグ夫妻とフランクが一緒に生徒指導室へ入ってきた時には、一体どうなることかと思いましたが、二人とも、見た目はともかく、親としては至極まっとうな対応を取っていたからです(ちなみにこの日、冬だというのにデヴィッドは、まるで発達した筋肉を見せつけるように、迷彩柄のタンクトップ一枚だけを身に着けていました。ちなみに、下のほうは同じように迷彩柄のズボンを履いていたものです)。
この日、おじさんはあらためて「百聞は一見に如かず」、「人を見た目で判断してはいけない」との言葉を胸に刻んでいたかもしれません。まず、ダニエル先生ですが、噂で聞いたとおりの優男といった感じではあるのですが、芯のほうはしっかりしている雰囲気の先生でした。女の子たちが「ロリコン」とか「自分をたまにやらしー目で見る」と言っているのも……逆に返して言えば、女の子のほうでこのちょっと格好いい独身の先生を意識しているということだったのでしょうし、先生に気を許しているからこそ、多少の悪口や噂話も出来るということなのです。
そして第二に、おじさん自身はクレイグ夫妻のことをとても高く評価していました。その後、おじさんはクレイグ家に電話をして、治療費のことを聞きましたが、ふたりは頑として受け取りませんでしたし、そうした時の電話の応対も至極丁寧で常識的なものでした。もしこの二人と息子のフランクが三人並んでいたとして――町中のどこかで出会ったとしましょう。おじさんはきっと、(こうしたクレイジーな感じの家族とは関わらないに限る)と一人決めして、実際距離をとったに違いありません。
けれどもこの日おじさんは、(やれやれ。わしもまったく人間としてまだまだじゃな)との思いを新たにしていたものでした。
学校からの帰り道、グレイスはおじさんと並んで歩きながらも、一言も口を聞きませんでした。もちろんおじさんにはその理由もわかっているつもりでしたから、グレイスが口を聞かないのも仕方のないこととして、おじさん自身、黙ったままでいたのです。
家に帰って来る途中、はらはらと突然雪が降ってきて、その時グレイスは初めて口を聞きました。
「わあ、おじさん!雪よ。今年初めての雪だわ!!」
「おお、雪じゃな、グレイス。何かお願いごとをしたらどうかね?初雪に願いごとをすると叶うというからな」
「あら、それほんとう、おじさん!そんなのあたし、初めて聞いたわ」
そう言ってグレイスは、目を瞑ると雪の降ってきた灰色の空に向かって願いごとをしました。
(パパ!ママ!今日、グレイスは悪い子でした。でもどうか許してください。そしてグレイスをこれからどうかいい子にしてください。そして、グレイスにはこんなに素敵なおじさんがいることを感謝します。どうもありがとう、神さま!)
グレイスはこのあと、(これからもずっとおじさんと一緒にいられますように!)と付け加えて祈り、少し先のほうで待っているおじさんの元までたたっと走ってゆきました。そして、自分からおじさんの手をしっかりと握りしめます。
「一体何を願ったのかね、グレイス?」
「あら、それは秘密よ、おじさん!だって、願いごとを人に教えたらその願いごとは叶わないってよく言うでしょ?」
グレイスは大好きなおじさんのことを見上げてそう言いました。どうやら今回のことでおじさんはさして自分のことを怒っているわけではないらしいと、グレイスにはわかっていました。でも、家に帰ったらまず最初におじさんにあやまらなくてはいけないということは、グレイスにもよくわかっています。
「確かにそうじゃな。グレイスや、今晩は何か出前でもとらないかね?何かおまえの好きなものでいいよ」
「おじさん、それほんとう?あたしね、てっきり今日はお夕飯は抜きで自分の部屋に閉じこもっていなさいって言われるかと思ってたわ」
「そうじゃなあ。グレイスが自分でそうしたいと言うなら、おじさんは止めないがな。そしたらおじさんは今晩はピザでも取って、ひとりでムシャムシャ食べるとするよ」
おじさんがさも愉快そうに「ハハハハ」と笑っていたため、グレイスもおじさんと一緒になって笑いました。
「ねえ、おじさん。今日はわたし、とっても悪い子だったわ。おじさんが学校へ来た時、全然そう見えなかったでしょうけど、一応あれでも反省してたの。パパとママがもしここにいたらって思ったら、こんなところ見られたくないって思ったんですもの。そう思うってことはやっぱり……あたし、フランクにしてやったことは今もあんまり後悔してないけど、でも先生には叱られちゃった。鼻血が出て気を失った程度だったから良かったけど、もしフランクが入院するくらいの大怪我をしていたら、流石に罪悪感を感じるだろって言われて……そう言われたら確かにそうだなって思ったの。でも不思議ねえ、おじさん。どうしておじさんはこんな悪い子を叱らないのかしら」
「ハハハ。そうじゃのう……そもそも元はといえば、おじさんが悪かったんじゃなと思ってな。あの坊主、わしのことをしなびたピクルスとか言ったらしいな。まったく子どもというのはうまいたとえを思いつくもんじゃわい。もしおじさんがもっとシュッとしてそこそこ格好いい様子をしていたら、グレイスもあのクレイグと喧嘩することもなかったろうにな。そう考えた場合、これはおじさんの責任じゃ。グレイスはそんなに悪うない」
「まあ。ダニエル先生、そんなことまでおじさんにお話になったの?でもね、確かにわたし、前から一応なんとなく思ってはいたのよ。いつか必ず誰かママとパパがいないことでからかってくるに違いないって。だから、ある意味良かったわ。フランクみたいなクズ……あ、もうこういう言い方しちゃいけないんだっけ。じゃあ、ブタ?それもダメよねえ。まあ、あいつはこれからもスモウレスラーでいいわ。あいつみたいのに言われて良かったわよ。あのくらいの奴に何言われても屁でもないけど、むしろ仲のいい子や自分が好きだなって感じる人に言われたりして、哀れまれたりするよりはずっといいもの」
「…………………」
グレイスはもともと、同年代の他の子供に比べて口も達者だし、少しばかり進んでいるようにおじさんは感じていましたが、それでもまだまだずっと子供だと思っていました。けれどももう八つにしてそんなことまで考えているのだと思うと――おじさんはやはり胸が痛みました。
「ねえ、おじさん。わたし、今日はピザじゃなくて、オムレツが食べたいわ。出前でとったりするのよりも、おじさんのオムレツのほうが本当は美味しいけど……おじさんはどうするの?」
「そうか。オムレツか。そんならおじさんが作ってやろう。そんなに手間のかかるようなものでもないし、家にある材料だけで作れるからな。よしよし、グレイスはいい子じゃ。おじさんの年金が今月分は少し早めに入るから、また日本食でも食べにいくかいの」
「わあ、本当!?おじさんは本当にいい人ね。あたし、おじさんに美味しい日本食のレストランに連れていってもらって、オスシとテンプラが本当に好きになったわ。特にテンプラね、あんなに美味しいもの食べたの、生まれて初めてだったもの!」
――おじさんは、毎月一日に年金のお金が入るのですが、この年金の入った日には、おじさんが毎月必ず豪華なものを食べにレストランなどへ連れていってくれます。おじさんは、郵便局員時代から、お給料の入った日だけ美味しいものを食べにいくという習慣がありましたので、色々なお店を知っていました。それでグレイスは毎回そのことでも感心しきりでした。日本食だけでなく、中華やタイ料理、インドカレーの美味しい店など、本当に色々なお店をおじさんはたくさん知っていましたから。
クリスマスが近いので、おじさんは去年グレイスのために買った少々値の張る樅の樹を、今年も出してグレイスとふたりで飾りつけました。おじさんはもう、グレイスのためのプレゼントも買ってあります。そして、グレイスのほうでも毎月もらうお小遣いの中から、おじさんのプレゼントのほうは決めてありました。
グレイスはちょっと変わった子でしたので、ぬいぐるみやお人形なんかをもらっても、少しも喜ぶような感じの子ではありません。そこでおじさんは考えに考えて、グレイスが隣のケビンから『キャプテン翼』を借りて以来、すっかり夢中になっている日本のマンガの、グレイスが欲しがっていたのを全巻買ってあげることにしました。一方、グレイスのほうでは、おじさんの好きそうなもの――アンティークな雰囲気の本屋さんで売られていた、素敵なブックエンド――を、近く買いにいく予定でいます。
クリスマスの日は、隣のマクグレイディ夫人が気を遣ってくれて、グレイスとおじさんのことを食事に呼んでくれましたので、おかしな話、ふたりは嫌々ながら隣家まで出かけていくことになりました。グレイスは「あたし、おじさんと二人きりのクリスマスがいいわ」と言いましたが、「わしもじゃ。じゃがグレイス、これも近所づきあいの一貫と思ってつきあうしかないの」とおじさんは答えていたものです。
グレイスとフランクとの例の一件があってから、ティムとグレイスの関係も元の良好なものに戻りました。今はまたふたりで学校へ登校するようになりましたし、ティムもフランクに変に絡まれなくなったので、今は晴れ晴れとした顔をして毎日学校へ通うようにもなっていました。その年の冬休みは、12月23日から一月七日までの15日間でしたが、グレイスは今年も隣のマクグレイディ家と一緒にスキーやスケートをしに行きましたし、クリスマスもお正月もおじさんと面白楽しく過ごしました。
そして年が明け、楽しかった冬休みも終わると、グレイスはまた元気に学校へティムと一緒に通いはじめました。グレイスはこの時、とても幸せでした。フランクとは相変わらず、顔を合わせれば「スモウレスラー!」、「ブスゴリラ!」と互いに罵りあっていましたが、お互いどこまでのことをしてはいけないか、あるいは言ってはいけないかが今はお互いよくわかっています。あのあと、おじさんは一度、手製のパンをたくさん焼いて、見舞いがてらクレイグ家を訪ねていました。この翌日、フランクは「おまえのしなびたピクルスおじさんのパンがうまかったから、あのパンに免じておまえのことも許してやるよ!」などと言っていたものです。
おじさんも、べつに「しなびたピクルスおじさん」と言われたことがショックだったわけではないのですが、グレイスが馬鹿にされてはいけないと思い……あのあと、少々イメチェンを心がけるようにしていたかもしれません。まず、いつも行っている床屋ではなく、別の理容店へ行って訳を話し、「まあ、わしは見てくれのことなんぞどうでもいいんですがね、姪が恥かしい思いをしてはいけませんので、何かそんな感じでお願いします」と頼んでいたのでした。この日、学校から帰ってくるとグレイスは、実に喜んでいたものでした。リビングに入って来るなり、ドサリ、と手に持っていたカバンを落とし、「まあ、おじさん!まあ、おじさん!!まああ、おじさん!!!」と、大きい瞳をいつもの二倍にして驚いていました。
「なんだかとっても素敵になったわ!どこかどう、とはうまく説明できないけど……でもとにかくとっても素敵よ。どうしたの?そのうち誰かとデートでもするの?」
お節介なマクグレイディ夫人が、以前、お見合いのようなことをおじさんに勧めていたことがあり――女手のあったほうが、グレイスのためになるとかなんとか――グレイスはそのせいかもしれないと思っていたのでした。
「アホ!そんなことあるわけなかろうが。単にな、フランク坊やがわしのことをしなびたピクルス呼ばわりしたもんで、グレイスがそんなおじさんを人に紹介するのは恥かしかろうと思って、いつも行ってる床屋じゃない理容店へ行ってみることにしたんじゃ。いつもの倍金をとられたぞ」
「まあ、そうなの。でもこっちのほうが断然よくってよ、おじさん。なんだかまるで、ロマンスグレイっていう言葉は、おじさんのためにある言葉みたいですもの」
こののちグレイスは、おじさんのクローゼットをチェックし、「おじさん。ついでに言うならね、ここにあるの全部、みんな似たり寄ったりの灰色のスーツばかりじゃない?だから、もう少し違う色のも着てみたらどうかしら?だっていつも似たようなのしか着てないから、いつでも同じ服を着てるように人からは見えてしまいますものね」と進言しました。
そこでおじさんは、グレイスの強い勧めで、一緒にスーツを買いに行くことになりました。スーツと言っても、そんなに堅苦しくないタイプのもので、教会へ着ていくのにちょうどいいといったような、ネイビーブルーとブルーブラックのスーツです。おじさんは「ちと派手じゃないかのう、グレイス」などと言っていましたが、「そんなことないわ。とっても似合ってると思うわ!」と言って、強硬にそれをおじさんに勧めました。おじさんは「やっぱりわしはこういうののほうが……」と言って、灰色や茶色っぽい地味なスーツを手に取っていましたが、グレイスがきっぱり「そんなの全然似合わないわ!」と言ってやめさせていたのです。
この帰り道、おじさんはグレイスにも服を買ってあげたのですが、相変わらずグレイスはワンピースといったスカートのほうは絶対に買おうとしませんでした。おじさんはしきりと「ジーンズなんか、もう何本も持っとるだろうが。たまにはスカートも履いてみたらどうかね?」と勧めてみましたが、グレイスのほうでは頑として首を振っていたものです。
「あたし、スカートってほんとは嫌いなのよ。ただ、ママがね、女の子らしい格好が好きって人だったの。だからママの趣味に合わせてそんなのも着てたけど、ほんとはパンツルックが一番しっくりくるって、自分ではずっとそう思ってたわ」
そんなわけで、グレイスのほうはブラックジーンズを一本と、タンガリーシャツ、それにブランド物のロゴが入っていて半額になっていたTシャツを一枚買っていました。
(またそんな、男の子みたいな服を買って……)と、おじさんはがっかりと溜息を着きましたが、まあ、グレイスがそれが一番いいと言って譲らないのですから、仕方ありません。
ふたりはこの日も、買い物が終わると軽く外食して帰ってきたのですが(この日はおじさんお薦めの台湾料理店でした)、おじさんは心の中でたまに、(この子は一体いつまでこのしなびたおじさんと一緒にあちこち出かけてくれるもんかのう)と思ったりしていました。大体女の子というのは、思春期に差し掛かる頃になると、親とでも一緒にいるところを友達に見られたくないようになる……といった話を、以前聞いたことがありましたから。
おじさんはグレイスと一緒にいられるだけでいつでも幸せでしたが、いつかグレイスにとってはそうでない日がやって来るだろうと覚悟していました。ですが、それも娘(正確には姪ですが)の成長の過程と思い、自分はおじとして受け止めなくてはいけないな……と、そんなふうにおじさんは時々思ったりするのでした。
子供というのは本当に不思議な生き物で、おじさんも極たまに、グレイスが早く大きくなって色々心配したりハラハラしたり、何かあったら自分の責任になる……といったことから逃れたいと思うことがあるのですが、それもほんのたまのことで、大体は(いつまでもずっとこのままのグレイスでいてくれたらいいのだがなあ)と思うことのほうが多かったかもしれません。
グレイスはこのような形で小学二年生の学年も無事に終え、小学二年生の時に起きた一番大きな事件といえば、フランク・クレイグとの間に起きた例の喧嘩事件だったといえたでしょう。そして三年生に進級すると、またクラス替えがありました。今度は、三年生と四年生のクラスは持ち上がりとなるため――おじさんとしては少々心配だったかもしれません。というのも、一年生と二年生の時は、<もし仮に何かあっても>一年我慢すればどうにかなるかもしれない……とおじさんはぼんやり思っていたのですが、三年生と四年生、それに五年生と六年生とは持ち上がりとなるため、最初の一年目に何かあっても、残り約二年、あるいは一年半とかそのくらい、そのクラスにい続けなくてはいけない……ということになるでしょうから。
もっともおじさんは、グレイスに新しい友だちが出来ないのではないかとか、いじめにあうのではないかとか、そういった種類の心配はしていませんでした。ただそのかわり、グレイスは「まるで台風の目のような子だな」と思っておりましたので(そしてこれはおじさんだけでなく、学校の先生たちもそのようにグレイスのことを認識していました)、また、一年生の時のスケートボード事件や、二年生の時のフランク・クレイグとの喧嘩流血事件の時とは別の何かが姪の周囲には起こってくるのではないかと、そんなことが心配だったのです。
そして、三学年に上がった日の、初めての登校日である九月一日、珍しくグレイスはしょんぼりした様子で帰ってきました。グレイスは、今度は三年A組になったのですが、二年生の時に仲良くしていた友だちとは全員別れ別れとなり、唯一知っているヴァネッサは二年生の時に仲良くしていた友だちと偶然一緒で妙にベタベタしており、グレイスは彼女たちふたりの間には入れないなと感じていました。そこで、登校一日目は特に誰かと仲良くするような機会もなく、ひとりで帰ってきていたのです。
>>続く。
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