いえ、「聖女マリー・ルイスの肖像」の中でも、イーサンがミミにこの絵本を買ってきて、マリーもまた「この絵本、大好きなんです」みたいに言うシーンがあった気がするんですけど……今回の↓に関しては、若干「ビロードのうさぎ」の内容について軽く触れておかないと、意味わかんないかな~と思ったりして。。。
そこで、ですね、『シンプルな豊かさ』という本の中に、この「ビロードのうさぎ」のお話のことに触れている箇所があったので、その部分(11月3日の記事)をちょっと抜き書きさせていただきたいと思いましたm(_ _)m
>>一度本物にになったら、もう本物でなくなることはできない。
それはいつまでも持つ。
マージェリー・ウィリアムズ
あるクリスマスの朝、ヒイラギの小枝を前足で抱えたウサギの縫いぐるみが少年の靴下から顔を覗かせていました。それは実にかわいらしい光景でした。ウサギはふっくらと適度に太っていて、茶色と白の斑点のある柔らかな毛に、糸の頬ひげ、ピンクのサテンの耳をしていました。少年はウサギに夢中になり、丸二時間もそれで遊びましたが、とうとう家族がクリスマスツリーの下にある他のさまざまな贈り物に少年の注意を向けました。そして新しい贈り物をわくわくして見ているうちに、少年はウサギをすっかり忘れてしまいました。
長い間ウサギは子供部屋の玩具の一つにすぎませんでした。しかしウサギは年老いたやせ馬と長い、哲学的な会話を交わしていたので、少しも気にしませんでした。その賢い老齢の馬は子供部屋の魔法の不思議なやり方を心得ていました。ウサギの好きな話題は、「本物になる」ことでした。1927年に書かれたマージェリー・ウィリアムズの『ビロードのうさぎ』という愛が変える力を説いた神秘的な物語で、ここが核心部分です。
やせ馬はウサギに辛抱強く説明します。「本物は初めからつくられているのではない。それはあるとき自分の身に起こるのだ。子供が長い間かわいがってくれたとき、ただ遊んでくれただけではなく本当に愛してくれたとき、おまえは本物になるのだ」
本物になるのは、玩具にしろ人間にしろ、一晩でなれるものではありません。「おまえが本物になるころには、なでられすぎて毛が抜け落ち、目がなくなり、関節がゆるんで見るも哀れな姿になっている。だがそんなことはどうでもいいのだ。本物になると、理解できない人は別として、醜くはなくなるからだ」
玩具が本物になるためには、子供の愛を受けなければなりません。わたしたちが本物となるためには、複雑で不安な現実世界を愛さなければならないのです。縫いぐるみのウサギのように、わたしたちは本物になることを憧れ、真の自己とはどんな感じなのか知りたいと思います。ときにはそれは苦痛を伴います。頬ひげをなくすか、しっぽが破れたままになるか、と思うと恐ろしいのです。外見が判断される世の中で、鼻のピンク色がはげてしまうのは恥ずかしく思えます。不愉快なみっともない思いをしないで本物になりたいと望むのは、縫いぐるみのウサギだけではありません。
(『シンプルな豊かさ~癒しと喜びのデイブック~』サラ・バン・ブラナック著、延原泰子さん著/早川書房より)
ええと、絵本ナビさんにある「ビロードのうさぎ」の紹介文によりますと……。
>>ある日、ぼうやのもとにやってきた
ビロードのうさぎ。
たくさんのおもちゃにかこまれて
部屋のすみで小さくなっていたうさぎは
「子どもに愛されたおもちゃは いつかほんものになれる」
ことを知ります。
やがて、ぼうやといっしょにすごすようになった
ビロードのうさぎに まほうがおとずれて……。
とありますm(_ _)m
あの、ほんっとーにすっっごくいいお話なので、もし読んだことのない方で、ここをうっかり読まれてしまった場合、激しく恐縮なのですが(滝汗)、↓の本文との兼ね合いから、エミリーという女の子が「ビロードのうさぎ」を読んで何故「天国へいったら本物になれる」(ほんとうの存在になれる)と信じているのか、わたしの書いた文章だけだと意味不明かなと思いまして。。。
絵本の中に出てくるうさぎは、最後、妖精さんの魔法によってほんとうのうさぎになります
個人的に思うに、「ビロードのうさぎ」の核心部分はここだと思うんですよね(^^;)
わたしは単純な人間なので、最初に一読した時には、「妖精さんの魔法によってぬいぐるみのうさぎはほんとうのうさぎになった」と思いました。
けれど、次に読んだ時には、「子供から心から愛されたぬいぐるみだったから」、ぬいぐるみのうさぎは本物のうさぎになれたのだと思いました。つまり、妖精が魔法をかけることが出来たのは、うさぎのぬいぐるみが、「心から子供に愛された特別なぬいぐるみだったから」こそ、ぬいぐるみからほんとうのうさぎになることが出来たのだろう、と……。
そして、↓のエミリーの気持ちとしては、もし自分が病気で死んでも、その時こそ自分はそのように「ほんとうの存在」、「本物の存在」になると信じていたということなのだと思います。
ユトランド共和国はキリスト教国なので、エミリーがそうしたように考えていたのは、「イエス・キリストのよみがえり」と同じように、彼を信じる者はイエスさまの天国で憩うことが出来るとの思想によるものでもあると思うんですけど、エミリーは死への恐怖、無意味に思える病気の苦しみ……について、そのように考えて耐えていたのではないかと思います
それではまた~!!
灰色おじさん-【7】-
グレイスがその後、三階の小児病棟へ移ると、そこには毎日のように友達がやって来ました。グレイスが入院していたのは、ほんの一週間ほどの間でしたが、ケイトやヴァネッサ、キム、ケリー、ローラといった友達は、その一週間の間中ケーキやクッキーを持ってやって来ては、きゃあきゃあ騒いで帰っていったものです。
おじさんはその間、同じ部屋の子たちを庭へ連れだしたりして、病室が騒がしいことの償いに、売店で本やお菓子など、彼女たちの欲しそうなものを買ってあげていました。グレイスはまったく気づいてませんでしたが、こうした子供たちのところへは同級生が来るということが滅多にありません。入院して、長くなればなるほどそうです。ですから、グレイスが友達と楽しそうにはしゃぐ姿というのは、彼女たちに寂しい思いをさせるかもしれないと、おじさんにはわかっていました。
「おじさんって、優しいのね。どうしてわたしの気持ちがわかったの?」
グレイスの部屋は四人部屋でしたが、一人はアンバーといって、グレイスと同じく交通事故で足を骨折していますが、それでも二か月後には退院予定でした。他の二人はボニーとエミリーといって、小児ガンの子たちでした。
「そんなことないよ。ただ、うちのグレイスが何かと迷惑をかけると思ってね。何か、食べたいものはないかい?」
おじさんは、一階のカフェテリアまでやって来ると、店の前にあるメニューのほうを指でさし示しました。フルーツパフェやチョコレートパフェ、ホットサンドなど、そこには色々な種類のメニューが並んでいます。
「わたしね、薬のせいであんまり食欲がないのよ。でも、飲み物だったらちょっと飲んでみたいわ」
そのカフェテリアはドリンクのメニューも豊富でした。そこでエミリーはおじさんと一緒にアンティーク風のテーブルにつくと、色々と迷った果てにホットオレンジティーを頼むことにしました。おじさんはコーヒーとワッフルを頼んだのですが、これはもしかしたらエミリーがワッフルを食べたそうにした場合、ひとつ分けてあげるためでした。
「あら、わたし、ホットオレンジティーなんて初めて飲むけど、魔法みたいに美味しい味がするわ」
「そうか。それは良かった。もし良かったら、この苺のアイスがのったワッフルも、食べてみないかね」
「まあ、ほんとう?隣で見ていてとても美味しそうだなって思ってたの」
ボニーはこの午前中から、二日ほど家へ一時帰宅するために外泊中でした。アンバーの元にはちょうど家族が来ているところで――それでおじさんは、エミリーのことをカフェテリアまで連れてきていたのです。
「病院の食事って、ほんと味気ないのよね。でもこのワッフルは、とても美味しいわ。それに、アイスを食べるのも久しぶり」
「そうかね。じゃあ他にも何か頼んでみてはどうじゃな?たとえば、このロイヤルミルクティーアイスとか」
おじさんがメニューブックの写真を指でさし示しても、エミリーは首を振ります。
「大丈夫よ。だってもうお腹いっぱいですもの。それより、おじさん本当にありがとう。わたし、あなたの姪のグレイスのこと、好きよ。院長先生がね、回診で来ていなくなったあと、物まねしたりして笑わせてくれるの。すごくそっくりなのよ」
そう言ってエミリーはくすくす笑っていました。エミリーは今九歳なのですが、体も小さく、グレイスと同じくらいの年に見えます。茶色い髪の綺麗な顔の子供でしたが、その顔色は白というよりも青白く、生命力のない弱々しい様子をしています。
「そうか。しかし、グレイスめ。おじさんの知らないところでそんなことをしているとはな」
ちなみにこれは、学校の通信簿にも、大体先生の言葉として似たようなことが書いてありました。『時々、休み時間に先生の物まねをしてみんなを笑わせているのを、先生は知っていますよ』と。
このあと、おじさんはエミリーと本の話を色々しました。というのも、エミリーのベッドの横にある床頭台には、いつも数冊の本が積んでありましたから。
「おじさん、『ビロードのうさぎ』って知ってる?」
「ああ、知っておるとも。その本の初版本を持っておるがな、永遠に売ったりすることはないじゃろう。どんなに高値がついてもな」
エミリーは、来週(その頃にはグレイスは退院しているでしょう)ボニーと一緒に(ふたりは仲良しでした)、小児ガンの専門病院へ転院する予定だという話をしたあとで、この話をおじさんにしていました。
「あの本の中のぬいぐるみが、最後、妖精の力で本物のうさぎになるみたいに……わたしもね、死んだらきっと、本当の世界へ行くんじゃないかって思ってるの」
「そうじゃな。わしも四十一の時、大腸がんになって、手術後に死ぬ思いをした。ステージ2だったんじゃが、抗がん剤治療とか色々……つらくて大変じゃった。医者の奴は、わしが少しばかり泣き言を洩らすと『あなたよりもっと病状が重くて大変な人など山のようにいる』とかなんとか、あたたかい言葉をかけてくれるしな。その頃はまだグレイスもうちに来ていなくて、わしはひとりぼっちで孤独だった。見舞ってくれる家族も友もなく、ひとりぼっちで病院に入院して、色んなことに耐えたんだ」
「まあ……」
エミリーは(それは可哀想に)とは言いませんでしたが、悲痛な同情をこめてテーブルの上のおじさんの手をぎゅっと握りました。
「そして、その時に思った。医者は『死ぬことはないので心配せんでよろしい』と言っていたが……いっそのこと、このまま死にたいとな。だが、とにかくその間中ずっと思っていたんじゃよ。もし死んだとしたら、少なくとも今よりはずっといい、死んだパパやママのいる素晴らしい世界へ行くことになるんじゃないかとな」
エミリーのママはシングルマザーで、母ひとり子ひとりでした。そして、この「ママを残していく」ということが、エミリーにとって一番心残りなことだったのです。
グレイスが退院するまで毎日、おじさんはエミリーとこのカフェテリアでワッフルを食べながらお茶しました。そして、グレイスが退院した翌日も、おじさんは病院にエミリーを訪ねていきました。正確には、エミリーのお母さんを、ということでしたが、おじさんはエミリーが検査で病室からいなくなると、自分の書いた『宇宙のゆりかご』というお話にグレイスとふたりで挿絵をつけた本を――彼女に渡すことにしたのです。
お話の内容的に、エミリーに直接渡すのではなく、お母さんのシャーロットのほうに渡したのには理由がありました。今エミリーに読んで聞かせてあげるというのではなく、もしそういう時が来たら――「そんな時は来ないことをわしも祈っています」とおじさんは言ったあとで話を続けました――この本を渡してあげて欲しい、と……。
「それで、こっちの『不思議の国のアリス』のタペストリーは、わしが世話になった礼と言っておったと、そうお話しになっておいてください」
この時、実をいうとエミリーのママのシャーロット・ウィレムは、おじさんのことを(なんておかしな人かしら)と思い、随分訝っていたようでした。もし、同室のグレイスのことを知らなくて、突然こんなことをされていたとしたら――小児科病棟をうろつくロリコンの変態か何かだと勘違いしていたかもしれません。
けれども、家に帰ってから、おじさん作の『宇宙のゆりかご』という本を読み、シャーロットは感動して涙を流しました。そしてまずはおじさんに対してお礼の手紙を書き、その後、八か月が過ぎて、エミリーが亡くなった時にも……「あのお話のお陰で自分とエミリーがどれだけ救われたか」といった手紙をおじさん宛てに書いていました。「あの本を渡した次の日、エミリーの暗く沈んだ顔がすっかり変わっていたんです。そして最後には、『先におじいちゃんやおばあちゃんと一緒に、どこか遠くの惑星で、ママのことを待ってるわね』って、それがわたしが最後にエミリーに会った時の言葉でした」――おじさんはその後、シャーロット・ウィレム宛てに、お悔やみの手紙の中で、「あれからずっとエミリーの病気が治るように教会でも、また個人的にも神さまにお祈りしていた」ということを書きました。また、エミリーが『ビロードのうさぎ』のように、死後は「ほんとうの世界へ行く」のだと思う、ということを自分にも教えてくれたということを……。
また、おじさんにとって、あれからもエミリーが「ワッフルだけは美味しそうに食べていた」ということも、とても嬉しいことだったかもしれません。グレイスが家にやって来る前までは、おじさんは世間から「変わった独り者」とか「どうということのない、つまらない地味な人」といったように受けとめられていました。そして、変わり者の常として「利己的な人間」といったように見なされることもありました。つまり、結婚もせず子供もなく、自分だけの快適さや利益だけを求めているので、それで他人を求めないのだろう、といったように……。
けれども、おじさんのような人は実は世の中にたくさんいるのです。単に与える機会がずっとなかったというだけで、機会さえ与えられたら、ありあまるほどの愛情をおじさんのように持っているという人は、実は世の中にわたしたちが思っている以上にたくさんいるのではないでしょうか。
>>続く。
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