こじらせ女子ですが、何か?

心臓外科医との婚約を解消して以後、恋愛に臆病になっていた理穂。そんな彼女の前に今度は耳鼻科医の先生が現れて!?

惑星シェイクスピア。-【55】-

2024年05月23日 | 惑星シェイクスピア。

【あんたのこと、一生絶対許さない】

 

  ええと、今回本文のほうが短くて、次が少し長めなため……次回の章を半分くらい入れて>>続く。にしようかなと思ったものの――例によって「どこで切ればいいやら」問題があったため、今回は短い文章だけ入れて、次回は長くても全文入ったので、こうした形に落ち着きました。。。

 

 まあ、「何を言ってるやら」という話ではあるのですが、簡単に言えば今回、ここの前文に使えるスペースがいつも以上にいっぱいあるという話(そのかわり次回はあんまりない・笑)。なので、こういう時にこそ長めになりそうな言い訳事項か、全然関係ない映画の感想文入れるとかすればいいわけなんですけど……あらためてそうした文章書きはじめるとが遅れてしまうため、少し前に書いておいたものでも入れておこうかなと思います(^^;)

 

 もし同じセミナー映像(でいいのかな?)を見た方がいらっしゃった場合――「あ~あ、有名なあの人のやつ」とすぐわかると思うのですが、とりあえずお名前伏せさせていただきたいと思ったり。なんでかっていうと、その映像の内容大体のところ覚えてるものの、細かいところの正確性までは記憶にないため(汗)、はっきり書いちゃうと確認のために見直さなきゃならないので

 

 というわけで、以下はわたしがその某有名ソーシャルワーカーさんのセミナーを見たあとに書いた感想というか、メモ書きとなりますm(_ _)m

 

 

 >>「恨み」とは、「羨望」の一種である。

 

「恨みま~す、恨みま~す、あんたのこと死ぬまで。恨みま~す、恨みま~す、あんたのこと死ぬまで」……という中島みゆきさんの歌のことではないのですが、それでも「恨み」という感情について、今までの人生で一度も経験したことがない――という方は、人生二十年か三十年も過ぎればいらっしゃらないのではないでしょうか(^^;)

 

 もしかしたらそれは、韓国人の方のいう「恨」ということにも多少通じるところがあるのかな、という気もするのですが、このセミナーの主催者の方がアメリカ人なので、まあそちら側からの理論として「恨」というのは「羨望」の一種だ、ということでした。

 

 これ、最初に聞くと「は?何言ってんのかさっぱりわからん☆」ってなりますよね。ここからはわたしがそのセミナー映像見て感じたこと、それをわたしなりにわかりやすく説明するとこんな感じのことになる……といった形のお話となりますm(_ _)m

 

「恨み」――「あなたは今、誰か恨んでますか?」なんて聞くと、何やら暗い話題ですが、今誰かを恨んでなくても、昔、別れた彼氏/彼女、あるいは別れた旦那さんや奥さんのことなどを死ぬほど恨んでいた、お父さんやお母さん、あるいは兄弟姉妹の誰かを一時期本気で殺してやりたいと思うほど恨んでいた……ということに、心当たりのある方はいらっしゃると思います。

 

 あ、あと、相手が友達や親友ということもあるかもしれません。とにかく、「恨み」という感情は、一度物凄く親しかった人との間に生まれやすい感情なのではないでしょうか。あるいは、お父さんやお母さんが再婚した相手などで、「物凄く嫌いだ」と感じていたにしても、他にどこにも行くところもないので、嫌々ながらでも長く一緒に居続けなければならなかった……など、とにかく、長く同じ時間を共有して、相手の裏も表も、大体のところ知っている相手。

 

 セミナーの中で使用されていた映画、わたし見たことない映画だったので、あらためて説明したいんですけど、ある姉妹がいて、上のお姉さんは結婚して家を出ていった、妹は、年老いてかなりのところ心身ともに衰え、ボケてきつつある両親の世話をしている。そして、感謝祭の日、姉夫婦がやって来て、妹のことを酔っていたせいもあってちょっとからかった。でも、その感謝祭の料理の準備をすべてしたのは妹であり……姉妹はこのことで大喧嘩。とりあえず、わたしが切り取られたその部分を見た限りにおいて、ふたりが今後何かをきっかけに再び姉妹仲を取り戻すといったようには一切見えないような感じです。

 

 これは、セミナーの中で詳しく語られていたことではないけれど、簡単にいえば、「そんなに誰かを恨む前に、どうにか出来る道はなかったのだろうか」という話。もちろん、介護の経験のある方なら誰でもわかるとおり――「他に道はないからこそ、妹はずっとひとりで両親の面倒を見ている」わけですよね。この点、この妹のほうが姉よりずっと正しく見える。何より、自分を犠牲にしている人には誰も何も言えないから……でも、ちょっと視点を変える必要があるんじゃないかっていう話なんです。「そんなにも誰かや自分や状況を「深く恨む」くらいだったら、その「恨み」のエネルギーを別に振り分けるか、再評価する必要があるのではないだろうか、という。

 

 まあ、「再評価だって?」、「一体何が再評価だ!!」という話ではある。でも、「自分はこんなに大変で可哀想な人間だ」とか「こんなにも自分を犠牲にしていることに対してなんの報いもない」と、心に毎日ふつふつと「恨み」の感情を貯金し、いつか大爆発するまでそれを貯めに貯めるくらいだったら――その「恨み」という感情を手放すために、誰かに助けを求めたり、相談したり、何か他に方策はないのかと、別の道を探したほうが絶対にいい。

 

 それで、何故「恨み」が「羨望」という感情に分類されるかというと――このセミナーの主催者さん自身がどうも、小さい頃から他人との比較において「恨み」を抱きやすい性格だったらしく、それで他の心理学者の方に聞いてみたところ、「小さい頃からの経験や体験は関係ない。何故なら、「恨み」とは「羨望」が形を変えたものだから」みたいに言われたということなんですよね。

 

 つまり、「羨望」とは……自分がもしこんなにも介護に時間や労力を取られていなかったら、「こうなれていたはずだ」ということに対する「羨望」だということでした。あの時、もしお母さんがあんな奴と再婚してなかったら、自分はこんな惨めな状態じゃなかったとか、あいつがエースストライカーとして転校なんかして来なかったら、自分がこのチームではナンバーワンのままだったろうに……などなど、それぞれ隠し持っている表と裏の顔がある。そして、そんな複雑な感情を味わわせた人物に対し持つ感情が「恨み」ということ。

 

 そして、ここからがこのセミナー映像の面白いところなのですが、このあと、ふたつの言葉が出て来ます。ドイツ語で、シャーデン・フロイデという言葉と、フロイデン・フロイデという言葉。

 

 シャーデン・フロイデは、↑の例で言えば、エースストライカーが監督からこっぴどく叱られる場面を見て、言ってみれば「ざまあみろ!」とばかり、暗い喜びを味わうことだそうです。ドイツ語、びっくりですね。こんなぴったりの言葉があるだなんて!!

 

 まあ、簡単にいえば、自分が「恨み」の感情を持つライバルなどが沈む姿を見て、表では「あらあ~、大変だったわねえ。でも頑張って!次があるわ!!」などと、優越感に満ちた喜びを押し隠しつつ、相手のことを慰めたりしてるわけで……でも、人間である限り、こうした感情を今まで一度も経験したことがないという方もまた、いないと思うわけですよ(^^;)

 

 そして、次の言葉がフロイデン・フロイデ。これは、相手の取った行動や言葉その他のことを賞賛する感情だそうで(つまり、他者の幸運をともに喜ぶこと)、簡単にいえば、サッカーチームで活躍したチームメイトのことを褒めたたえたりとか、シャーデン・フロイデとは真逆の行動や態度のこと。

 

「恨み」という感情に振り回され、シャーデン・フロイデ系に自分が寄っているように感じたら……たぶん、「何かが間違ってる」として、フロイデン・フロイデ的に自分がなれるためにはどうしたらいいのだろうかと、ちょっと立ち止まって考える必要がある、ということなんだと思います。

 

 また、これは同じシリーズの別の回で語られていたことなんですけど、「ちょっとわたし今忙しいから、手助けしてくれない?」と言える時と、「わたし、もう限界だわ!!」という時には当然、大きな違いがある。多くの女性におそらく心当たりのあることとして――大抵、「わたし、もう限界だわ!!もう何もかも滅茶苦茶なんだもの!!」というくらい、ためにためておいて……本当に本当の限界の大津波がやって来た時になってようやく吐き出す、ということ。

 

 でもそれも、普段から「お母さん、忙しいからちょっとこれやって」とか、小さい頼み事を家族に頼むとか、仕事でも「これ、ちょっと頼んでもいい?」と言えないから、全部自分でやろうとすることから生じる結果だという意味で、「どうして誰も察して助けてくれないの!!」と、大体多くの人がそんなふうになってる。でも、自分からサインを出して、「恨み」が大きくなる前に普段から小出しにしていく――ということが大切なのかな、と思いました。あくまで理論としては(^^;)

 

 セミナーの主催者さんは、「恨み」が「羨望」の一つの形態だと気づいてから人生が百八十度変わったということなんですけど、わたし、このシリーズ見てて「物凄く学びになる!!」と感じつつ……でも、自分に関して言えば「ああ、だから人を恨むことになるんだな」とか、そういうことは分析できても、じゃあ実際本当に恨みを普段から小出しにしていくとか、明日からそう心がけようとして出来ることでもないあ……と思うのはやっぱり、わたしが日本人だからなのでしょうか。。。

 

 あ、ここまで書いた文章読み直してみて思ったんですけど、わたしこの主催者のソーシャルワーカーの女性が、心の底から大好きですなんか、お名前伏せてしまったせいで、文章的に冷たく突き放してる感が出てしまったのですが、このセミナー映像を見た方の中で、彼女のことを愛さないでいることの出来る人のほうが非常に稀であろう――と感じるような、本当にそんな素晴らしい方と思い、心から尊敬しております

 

 それではまた~!!

 

 

 あ、こうやって動画貼ってしまうと誰のことだか丸わかりやんけ!という話ですね(笑)。TED他で超有名な方とは思いますが、もしご存知ない方がいらっしゃったら……彼女の言葉は人の人生を変えるくらいパワフルで力があり、と同時に他に類を見ないほどの繊細な優しさで満ちていると思うので――参考として、貼らせていただくことにしました。字幕出ると思うのですが、もし出なかったら日本語訳の字幕ボタンをチェックしてくださいませm(_ _)m

 

 

 

 

       惑星シェイクスピア。-【55】-

 

「一体どうしたのよ、フランソワ?いつになく浮かない顔しちゃって……」

 

 巫女姫マリアローザ……いや、ただの女のマリアローザは四輪馬車の中で、恋人の騎士団長の顔を自分のほうへ向けさせた。彼とこうした関係になって、約一年ほどにもなるだろうか。初めての出会いはもう何年も昔のことになる。聖ウルスラ祭にて、フランソワ・ボードゥリアンは巫女姫である彼女の警護につく、一騎士だった。今までの間も祝祭に相応しく正装した騎士たちに守られつつ、何がしかの祭事において騎士に警護されたことは何度となくある。けれど、その時だけ一体何が違ったというのか、マリアローザ自身にも思い出すことは出来ない。ただ、彼ひとりだけが多くの人々の中にあって、不思議と浮かび上がって見えたのだ。その時、マリアローザとフランソワの眼差しと眼差しは出会い、お互いに何か、特別な結びつきを感じた。とはいえ、巫女姫とただの一介の騎士とでは、滅多に会うことすらままならない……だが、ふたりは今もこうして何度となく逢瀬を重ねている。マリアローザは、フランソワと会うために神殿に多額の寄付を納めているウリエール卿の名前を使った。実はマリアローザは当人がそうと望めば、俗世における彼女の生家といえる貴族街にある屋敷のほうへ時々戻ることが許されていた。とはいえこれは、マリアローザ以前の巫女姫が一度として行使したことのない、特例中の特例の権利であった。あくまでも、彼女がメルガレス城砦、引いてはこのメレアガンス州の有力者であるセスラン=ウリエール卿の娘であるからこそ許されていることだったのである。

 

 平民の娘の平服を来てヴェールを被り、神殿に詣でている人々の群れに混ざりこめば、彼女が巫女姫であるだなどと気づく者は誰もいない。実は聖ウルスラ神殿にはいくつか、火急の際などのために神殿の外へと通じる通路がある。マリアローザは自分に忠実な巫女のひとりを替玉にして、そのような形でも市井へ飛び出すということが幾度となくあった。

 

「浮かない顔にもなるさ」と、フランソワ・ボードゥリアンは思案顔で言った。ふたりは神殿の外で出会うと、いつでもこうして箱馬車に乗り、カーテンを閉めきった中でキスをし、それから体を重ね愛しあうのだった。「おまえも俺も、いつまでもこんなことはしてもいられないだろう?俺にしても、騎士団長ともあろう者が身を固めていないのはまずいと、父がうるさいものでな。『いつかそのうち』という言葉も、近頃ではとんと効き目がない。これで、俺が巫女姫さまと通じているなんていうことがわかったら……手打ちにされてジ・エンドといったところだ」

 

 フランソワが自分の首を刎ねる仕種をするのを見て、マリアローザは笑った。

 

「馬鹿ね、今さら……そんなこと、そもそも最初からわかりきってたことでしょう。わたしたち、もう心中でもするしかないんじゃない?」

 

「嘘つけ。俺となんか、死ぬ気もないくせに……」

 

 真紅のベルベットのクッションの上にフランソワは恋人のことを押し倒した。マリアローザの体からはいつも、神殿で焚きしめた特別な香の匂いがする。

 

「でも、いざとなったらそうなるかもしれないってことは、いつも頭のどこかにあるつもりよ、これでも……」

 

 馬車の御者は、ボードゥリアン家に代々仕える従者で、口の堅い信頼のおける者だった。もっとも彼は、マリアローザについて「やんごとなき貴族の姫君」といったようにしか聞かされてなかったが。

 

 いつもふたりは、同じ馬車と方法によって、メルガレス城砦内を一~二時間ほども走らせ、お互いの近況や政治的企みのこと、あるいは愛の囁きを交わしては愛しあい、離れ難い気持ちを抑えたまま別れ、再び会いたいという気持ちを抑えきれず、何度となく罪ある関係を続けてきた。

 

「今年も聖ウルスラ祭の季節がやって来るわね……そっちのほうの首尾はどう?」

 

「首尾はどうって、どういう意味だ?こちらには特に何もないさ。例年通り、馬上試合トーナメントに向け、聖ウルスラ騎士団として恥かしくないよう武芸に励む日々といったところだ」

 

 馬車のほうは彼らふたりが足を折らずとも横になれるよう、改造してあった。マリアローザはこの日も、フランソワの胸にもたれつつ、「ただの女の振りごっこ」をしている。つまり、普通の市井の女といったものはこんなふうに男の恋人に甘えるのだろうという振りだ。

 

「馬鹿らしいことね」マリアローザは挑発するようにフランソワの体の上を指でなぞりつつ、軽やかな笑い声を上げる。「だって、あんたたち騎士団のご立派な騎士さま方がいくら武術に励もうと、結局のところ勝利するのはメレアガンス伯爵のボンクラ息子ってことにシナリオ書きが決まってるんじゃないの。まったく、滑稽だったらありゃしないわ。エレガンの奴、本人は美青年でもなんでもないってのに、自分を着飾ることしか頭にないような奴なんですものね」

 

「まあな」と、フランソワもまた笑った。そして、その笑いの振動は、マリアローザにもはっきり伝わってくる。こんな冴えた会話の出来る女は、彼は自分の恋人以外誰も知らなかった。「州一番の権力者の息子として生まれたとしたら、そんなものだろうさ。俺だって、自分がもし『お鏡の中のフランソワさまは十人並み以下のご容姿でございます』と誰も言ってくれなかったら……自分の男ぶりはそう悪くないと信じて疑うことはなかったろうしな」

 

「あら、あんたは違うでしょ」

 

 マリアローザは(十人並みだなんてとんでもない)という顔をして、恋人の顔をぴたぴたはたいた。確かにフランソワ・ボードゥリアンは、生まれつきの金の巻き毛の中に、凛々しい眉、その下の憂いを帯びたサファイアの瞳、それによく通った高い鼻梁を持つ――いわゆる少々濃い目の、またそれゆえに男らしい顔立ちをした美青年であった。

 

「自分でもわかってるくせに……」

 

 そう言って、マリアローザは薄い茶のドレスのボタンを自分からぷちぷちと外した。それから、恋人の手にたわわな白桃のような自分の胸を触らせる。フランソワは彼女の胸を優しく包みこむように揉みながら、マリアローザの紅い唇に何度となくキスした。『この刺青を入れた時、とても痛かったのよ』と言われた時の衝撃を、フランソワは今も忘れることが出来ない。だが、実は彼女が本物の巫女姫でないとわかった時、心のどこかでほっとしたのもまた事実だった。

 

 フランソワはいつも、マリアローザの左の胸にある竜の青い刺青を何度となくしつこいくらいなめる。まるで、今も彼女がその部分に痛みを感じ続けていることを癒すように……。

 

「神殿の巫女さま方は相変わらずか?」

 

 石畳に揺れる馬車の中で激しく交わったあと、再びフランソワはマリアローザのことを優しく抱いた。お互い、汗をかいたせいだろうか。マリアローザの体からは、神殿の香の匂いがより強く立ち上っていた。小さな頃からこの香りの中で暮らしてきたせいで、この特殊な香の香りは、まるで彼女の体の一部のようになっているのだろう。

 

「わたしのほうは、毎日起きることと言えば同じことの繰り返しだっていうのは、あんただってわかってることじゃないの」

 

 ただの女に戻れた喜びに震えつつ、マリアローザは恋人の体にぴったり寄り添ったまま言った。いつまでもこうしていられたらいいのに、何故楽しい時というのは鳥の翼のようにあっという間に過ぎ去っていってしまうのだろう。

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

「ああ、ディミートリアのことね。毎日、下働きの女みたいに一生懸命神殿で働いてるわよ。あんた、そういえば一度恐ろしいことを言ってたわよね。あの子のこと、市井に連れだして、誰か適当な男にでもレイプさせて神殿から追い出せばいいんじゃないか、なんて……」

 

「おまえこそ、人のことが言えるか」と、フランソワは笑った。彼らは恋人同士であると同時に、ある種の共犯関係にもあるのだ。「俺が何故今こうして聖ウルスラ騎士団の騎士団長なんてものになってると思う?そもそもは、おまえがそそのかしたそのせいじゃないか。この小悪魔め!」

 

 マリアローザのほうでも、恋人の胸の中でくすくす笑った。そうなのである。彼女はフランソワと恋人関係になると、キスの次の段階へ進む前に、あるひとつの条件を出したのだ。すなわち、聖ウルスラ騎士団の騎士団長になることが出来たら、という。だが、マリアローザは自分の恋人が対戦相手が毒によって倒れるよう仕向けたことまでは知らなかったし、フランソワにしてもサイラス・フォン・モントーヴァンが、まさか落馬して首の骨を折るとまでは想像してもいなかったのである。

 

「次は、おまえの嫌いないかがわしい娼館にでも行って、ゆっくりするとしようか?」

 

「ふふっ。まあ確かにね、いつもこう窮屈な馬車の中でだなんて、あんたもつらそうですものね。それに、そんな場所にまさか巫女姫さまがいらっしゃるだなんてこと、誰も思わないっていうのもあるけど……大丈夫なんでしょうね?フランソワ、そんなことであんたが弱味を握られて、相手の言うなりにならなきゃいけないだなんてことにならなきゃいいけど……」

 

「大丈夫さ。そもそも、向こうが俺の弱味を握ってるんじゃなくて、俺のほうがあいつらの弱味を握っているんだからな」

 

「もう、フランソワ!あんたったら、ほんとに悪い奴ね!!」

 

 愛しあう恋人たちは子犬のようにじゃれあい、その笑い声も喘ぎ声も、馬車の軋む音や石畳の上を走る車輪の音にかき消されていった。だが、それでいてふたりとも、頭のどこか片隅ではわかっているのだった。背徳の悦びと共犯の鎖に繋がれているからこそ、相手のことが恋しい。けれど、もしお互いに巫女姫でもなく騎士団長でもない、ただのひとりの男と女、それも貴族でもなければなんの財産も持たぬ男と女になったとすれば――彼らはそんな相手のことなどあっさりと捨て、すぐにも忘れ去ってしまうに違いないということを……。

 

 

 >>続く。

 

 

 

 

 


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