【死の天使】イヴリン・ド・モーガン
ええと、引き続きここの前文に書くことがありませんww
というわけで、いつもどおりなんかどーでもいい話。。。(まあ、いつも??笑)
夏といえば制汗シート!!
この制汗シートなるものが発売されてから、夏には絶対手放せない!(笑)
いえ、最初にビオレのこれ使ってから、これが一番好きで気に入ってたので、浮気する気とかなかったのですが。。。(大袈裟だな!)
でもその後、軽く飽きたというのがあって、他の制汗シートも試してみようかな~と思い、
Banの爽汗さっぱりシャワーシートを買ってみることに。。。
いえ、某ドラッグストアにて色々迷ったんですけど、わたし、基本的にせっけん系とかフローラル系とかが好きくない人なので、それを外した中で、一番気になったのがウォーターリリーという名前♪(^^)
「え?ウォーターリリーってどんな香りなの?」と、軽くドキドキし、これを選んだものの――わたし的に「これならビオレのシトラスのほうが良かったかな~☆」という印象だったかもしれません。
何分買ったの相当前なもので、どんな香りだったかってあんまし記憶にないものの(汗)、なんかあんまし自己主張しない男の人……みたいなイメージだったような(違ったかな)
んで、その後、あいんず&とるぺ☆にて、アユーラのウェルフィットボディシートが売られてるのを見かけ。。。
いえ、前から@コスメさんにて、評価高かったのを見て、「いい香り」みたいにも書いてあったため、制汗シートとして軽く高めかなと思ったものの、買ってみることにしたんですよね。
確か、森林浴の香りみたいに書いてあった気がしたものの、「アユーラは香りで絶対裏切らない」という思いこみがあったにも関わらず、これはちょっと裏切られました
まあ、香りってかなりのところ主観的な問題ですから、「え~と、これって一歩間違うとおっさんくさい感じの匂いに自分が巻きこまれるような……」と、個人的にはそう思いました
いえ、もったいないのでもちろん使い切ったんですけど、シートが大きいほうが好きな方はたぶんこのくらいないと物足りないだろうな……というくらいの大きさがあります。
たぶん、ビオレのあの小さいサイズより、大きいシートのほうがいいっていう方のほうが多いと思うんですけど、わたしの場合はこんなに大きくなくてもビオレのあのくらいでも十分かな~というのがあって、結局今はまたビオレのシトラスのやつ使ってます
あと、百均で買った制汗シートは「う~ん。確かにこれは百均やな」という感じだったんですけど、まあ、出先などで、「わ!制汗シート切れた。買わな!」みたいになった時に慌てて買った時は、それでも結構重宝しました(確かオレンジの香りの、三十枚くらい入ったやつでした)
んで、今ネットで軽く制汗シートのオススメとか見てみると、シーブリーズとか結構人気なんでしょうか。。。
そんで、ランキングとか見ていて自分的に一番気になったのが――生活の木さんの、ミント&レモン!!
これ、めっちゃ気になります!!
ので、そのうち生活の木さんの近くを通りかかることがあったら、ちょっと買ってみようかと思います♪
ミントとレモンって、どっちも好きな香りなので、これはちょっと期待しちゃうかも(笑)
いえ、夏は特にミント系のものが色々でるので、個人的には嬉しい限りなんですけど……わたし、毎年夏になるとスーパーで出回るチョコミント系のものが大好きなんですよ(^^)
でも、この間大好きなカントリーマアムのチョコミント味がどこでも売り切れになってて、愕然としました
通年で売ってくれないかな~っていつも思うんですけどねー、ほんと、ミントは夏だけ色々出回るみたいな感じで……毎年もう、中毒になったみたいにぶぉりふぉり☆食べまくってるんですけど。。。
あ、話それちゃいましたが、なんにしても、いつも通りのどーでもいいお話でした(^^;)
それではまた~!!
灰色おじさん-【3】-
グレイスがおじさんの灰色のズボンを引っ張りながら、しきりと「お願い、お願いよ、おじさん!」と頼みこみますもので、とうとうおじさんは根負けして、グレイスと一緒に出かけていくということにしました。
移動のほうはまたタクシーです。グレイスはその間もちっともじっとしている子ではなく、窓から見えるものを指差しては何か話したり、かと思えばノースルイスはどんなところかしらとおじさんに聞いたりしていました。また、話のほうはしょっちゅうあちらこちらへ飛び、おじさんはグレイスが思った以上に落ち着きのない子らしいと、この時初めて知ったのでした。
けれども、不思議とグレイスのそうしたところ――見方によっては欠点のように見えるかもしれないところも、おじさんには不思議と愛おしいもののように思えました。もしかしたら、グレイスのそうしたところが死んだ弟の小さい時にそっくりだったからかもしれません。
『まあ、どうしてあんたはそうじっとしてられないの、ジャック。もう少しお兄ちゃんを見習って静かにするようにしたらどう!?』
『そう言うなよ、グレイス。俺がこんなにまとまった休みを取れるのなんか、一年に一度あるかどうかだからな。ジャックが釣りをしたくて今からうずうずしているのも無理はないよ』
両親の愛情といったものは兄と弟、どちらに対しても平等なものではありましたが、それでも母のグレイスはどちらかというと兄のジョンを、父のほうは弟のジャックとより気のあうようなところがありました。
ジョンが中学三年、ジャックが中学一年の時に両親が亡くなるまでの間……夏に一週間か十日ほど、母親の故郷のヴァニフェル町というところまでバカンスへ出かけるというのが習慣でした。そして、行きの車の中でジャックは、いつでも今のグレイスのように落ち着きがなかったものです。
そんなふうに今は亡き家族との思い出に浸っているうちに――おじさんの瞳にはまた涙が滲んできました。そこでおじさんはグレイスに気づかれぬよう、手の指で涙を払い、なんでもないふうを装っていましたが、グレイスはそのことがわかるなり、初めて大人しくなったのでした。
けれども、法律事務所の入った立派なビルの前にタクシーが到着すると、グレイスはまた小鳥のようにかまびすしくおしゃべりをはじめました。「わあ、なんて立派なビルかしら!」とか「こんなとこ来るの、あたし初めてよ!」ということにはじまり、鏡面のように磨き上げられたエレベーターに乗る間も、ぴょんぴょん飛んだり跳ねたりしています。
やがて、<アビントン&クラーク法律事務所>の入った九階のフロアへ辿り着くと、入口のところに『ご用の方はベルをお鳴らしください』とあったため……「ねえおじさん、あたしこのベル押してもいい!?」とグレイスにしきりとせがまれ、おじさんは彼女のことを抱き上げると、ベルを押させてあげました。
「やあ、これはどうも。もしかしてそちらがグレイスお嬢さんですかな?」
電話で、親切な牧師御夫妻が児童養護施設よりグレイスを引き取ってくれたことを、おじさんはクラーク氏に伝えてありました。
「どうぞ、こちらへお座りください。お嬢さんはお飲み物のほうは紅茶でいいのかな?」
「んー……紅茶よりもメロンソーダとかないのかしら?」
ここでクラークは少し太り気味の体を揺らして笑いました。
「じゃあ、ちょっとここでおじさんとふたり、待っていてもらってもいいかな。廊下をちょっといった先に、自動販売機があるんでね。確かそこにメロンソーダがあったはずだ。そういや、いちごソーダもあったと思うが、本当にお嬢ちゃんはメロンソーダでいいのかね?」
「うん。いちごソーダよりメロンソーダのほうがずっといいわ」
おじさんはポケットから小銭を出そうとしましたが、ふとっちょの弁護士クラークさんは、そんなおじさんを見ない振りをして応接室から出ていきました。三分ほどして戻ってきたクラークさんは、自分とおじさんには缶コーヒー、そしてグレイスにはメロンソーダを買って戻ってきました。
まだ六月とはいえ、今日はなんだか湿度が高く、妙に空気が蒸しむししていましたので、おじさんにしてもホットコーヒーを出されるよりはこのほうがずっと良かったのですが――おじさんは小銭のほうは引っ込めたほうがいいのだろうと思い、「ありがとうございます」と言いながら、隣のグレイスの頭をなでました。
「それで、ですな。こちらのグレイス嬢の後見人となるための書類のほうが……こちらとこちらになります。そして、サインしていただくのがこことここですな。一応御一読いただいて、御署名のほう、お願い致します」
そう言ってクラークさんはテーブルに備えつけてあった万年筆をおじさんに渡しました。おじさんは綴られた数枚の書類に軽く目を通すと、万年筆でジョン・グレイとサインしました。そして、書類をクラーク弁護士に渡しながらおじさんはこう聞き返しました。
「弟のジャック・グレイが経営していたレストランのほうなのですが、店のほうは借りていたと聞きました。それと、アパートのほうも……家賃など、滞納しているとか、あるいは何か店の中の調理器具をレンタルしていたり、その契約を解除したりお金を支払ったりといったことはないものですかな?」
「とりあえず、弟さんに借金はないようですよ。調理器具をレンタルしていたりといったこともなかったと思いますし……むしろ、店のほうは家賃のほうを四か月ほど前払いして借りていたようですから、こちらのお金のほうは戻ってきます。アパートのほうは前払いしているのは二か月分ですね。あそこの大家のばあさんは強欲だから、契約云々でなくてお金が戻ってくるかどうかがちと難しいかもしれませんなあ。色々ごねるようでしたら、私が間に入って仲介してもいいですが……」
ここでおじさんは少しだけくすりと笑いました。(確かにその条件でなら、グレイスの身の振り方が決まるまでは荷物を置いておいてもいいと言うはずだ)と、そう思ったのです。
「いえ、そうしたお金は戻って来ても来なくてもどちらでもいいのです。ただ、何かわしが支払わなくてはならない費用などがないかと思ったものですから。たとえば、こちらに対する顧問料ですとか……」
クラークは体を揺らしながら「はっはっはっ!!」と感じよく笑っていました。
「そうですな。レストランの経営に関することで、毎月決まった顧問料のほうはグレイ氏のほうからいただいておりましたからな。その点については、あなたからまでぼったくるつもりはありませんので、ご心配するには及びませんよ」
「その……弟のレストランのほうはそれなりにまあまあ繁盛しておったんでしょうか?」
両足をぶらぶらさせながらメロンソーダを飲むグレイスのほうを、おじさんは気遣うようにちらと眺めてそう聞きました。おじさんは弟のレストランが儲かっていたのなら、それなりに遺産のほうもあるはずだと思っていたのではなく――ただ、弟が自分の店を持つという夢を叶えて、幸せだったのかどうかを知りたかったのです。
「まあ、まあまあ以上に儲けのほうはあったと思いますよ。平たくいえば繁盛していたと言いますか。いえ、私は皮肉を言っているというわけではなくね、弟さんご夫妻の作る料理のメニューはどれも美味しいものばかりでしたし……言い方を変えればもっと流行ってもいいくらいじゃなかったかと思うんですよ。確か二年くらい前でしたかな、一本通りを隔てた近くに、リーズナブルな値段でイタリア料理を提供するフランチャイズチェーンが出来まして。あれは結構なところ痛手だったのではないかと思いますね。弟さんのお店も比較的安い値段で高級な味を楽しめるといった店だったとは思いますが、フランチャイズチェーンの安さには流石に敵いませんからなあ」
「あたし、<デイリーリリー>なんて大っきらい。味のほうも値段と一緒でいかにも安っぽいんですもの」
「…………………」
グレイスがいかにも不機嫌そうにそう言うのを聞いて、おじさんは黙りこみました。弟はおそらくシェフとしてはきっといい腕を持っていたに違いありません。けれども、そうした経営上の悩みというのが弟夫婦にはあったのだろうと思うと……おじさんはまた胸が苦しくなってきました。もっと店の流行りそうな大通りに移りたくてもそうするだけの貯金や資産というものが弟にはなかったのかもしれません。
(もしわしに一言相談さえしてくれていたら……少しくらいなら金を出してやることも出来ただろうに……)
――このあと、弟夫婦の残した資産的な事柄について少しの間話しこむと、おじさんはグレイスの案内で、<ヒースクリフ>という店の外観だけでも見にいくことにしました。お店の名前の由来は、小説『嵐ヶ丘』の登場人物ヒースクリフでしょうが、ジャックは文学小説など読むようなタイプではありませんでしたから、奥さんがブロンテ姉妹のファンか何かだったのかもしれません。
(もしそうだったのなら、わしとも小説のことなんかで色々話が合ったかもしれんの。本当は、あの時ジャックの言ったことのほうが正しかったのじゃろう。本格的な言い争いになる前、ジャックは確か『一度会ってもらいさえすれば兄貴にもレイチェルの良さがきっとわかってもらえる』といったようなことを言っておったっけ……今にして思えばきっと、そのとおりだったのじゃろう)
おじさんはまさか、その時のことがこんなにも尾を引いて、三十年以上も弟と関係を断絶させることになるとは、思ってもみませんでした。また、弟のジャックが一時的にカッと頭に血の上りやすい質であり、自分のほうから折れてさえいれば、弟のほうでもつい口走ってしまったことについて恥じ、「自分のほうこそ悪かった」とあやまってくるであろうことは、わかっていたことでもあったのに……。
『兄貴は女とまともな恋愛ひとつしたことがないからわからないんだ!!』
『郵便の仕事なんか、馬鹿にでも出来るような単調な仕事じゃないか。独創性のカケラもない。ただ、兄貴みたいな退屈でつまらない人間にはお似合いな職業だっていうそれだけさ』
『そんなこと言うんなら、俺にだって兄貴に対しては売った恩が随分あると思うね。小学生の時なんか、いじめっ子から随分庇ってやったじゃないか。まったく、意気地のない兄を持つと、弟は苦労するよ』
――今、おじさんはペパーミントグリーンの外壁の、小ぢんまりとしたレストランの建物を覗きこみながら……(過ぎ去ってみると、すべてがなんとくだらないことばかりだったことじゃろうな)と、そのことばかりが悔やまれました。また同時に、自分もジャックの言ったことが事実であったればこそ腹を立てたのですし、もっと寛容に兄として弟のことを受け止めてやれば良かったというそれだけのことだったのだと思うと――「たったそれだけのこと」が何故できなかったのかと、がらんとした店の様子や奥のキッチンのほうを見ながら思いました。
カウンター席のほうには十席ほど、またテーブルもおそらく十くらいセット出来そうなくらいの広さがあったでしょうか。おじさんは想像力を働かせて、常連客がカウンターでジャックと軽口を叩いたり、あるいは奥さんのレイチェルがジャックとキッチンへ一緒に立ったり、忙しくテーブル席のほうに料理を運ぶような場面を思い浮かべてみました。昔、ジョンの父親が経営していたような、ぬくもりのある橙色の光が夜には店の外までもを照らしていて……それだけでちょっとこの店に立ち寄ってみようかという気になる、そんな素敵な雰囲気のレストランです。
「おじさん。おじさんもきっと、今あたしと同じ気持ちなのね」
――そろそろあたりは日も暮れて、うら寂しいような切ない空気があたりには立ちこめはじめていました。おじさんはまたタクシーに乗ると、今度はネットで調べて一番安かったビジネスホテルのほうへ向かいました。もしグレイスも一緒になると最初からわかっていたら、そんなケチケチしたような場所は選ばなかったかもしれません。けれども、おじさんひとりで宿泊する分には、それで十分と思っていたのです。
「あたし、パパとママの店がこんなに早くなくなってしまってとっても悲しいの。スティーブン牧師もノアやテイラーのママもそりゃとってもいい人よ。パパやママとも親しかったから、とても泣いて慰めてくれたわ。だけど、これは<あたしの>悲しみなの。ねえ、わかる?これはね、おじさんとあたしにしか理解できない、ほんとうの悲しみなのよ」
「そうだの。それにグレイス、わしよりもおまえのほうがさらにもっと悲しかろう。そりゃわしだってもちろんつらいさ。この世に残ったただひとりの肉親を失ったのだからな。じゃが、わしもジャックも中学生の頃に両親を交通事故で亡くしておるから……あの時の悲しみをもう一度繰り返せと言われたら、わしは自分なぞもう死んだほうがマシだと思うことだろうな」
「そうなのね。パパも、そのお話はしてくれたことがあるわ。もしパパのパパとママが事故に遭わずに今も生きていたら、パパのお兄さん……つまり、おじさんのことね。おじさんは郵便局へは務めずに今ごろ大学へ行ってて人生が全然違ったんじゃないかって。その時はあたし、パパが何を言ってるのかよくかわからなかったの。ええとね、おじさんがパパのためにギセイになって、パパのことを調理師になるための学校へ行かせてくれたってことはわかってるの。でもパパはそのことで、おじさんに『つぐなえないことをした』って言ったの。それでね、そのことをとても後悔してるって」
おじさんは、グレイスの肩に手をかけると、彼女のことを自分のほうへ引き寄せるようにして抱きしめました。弟の娘の肩を抱く、おじさんの手の指は震えていました。おじさんが弟ともっと早く和解しなかったことをずっと後悔していたように……ジャックのほうでもきっと同じ気持ちだったに違いありません。
(三十八年も会ってなかったにも関わらず、それでも気持ちのほうは通じていたということか……)
そのことを思うと、おじさんは切なさで胸を締めつけられましたが、今泣くことだけはよそうと思いました。自分でもついさっき口にしたように、隣のこの小さな子のほうが、胸も張り裂けんばかりのつらさを抱えているのです。そしてその気持ちに一番近いところにいるのは、唯一の肉親であるおじの自分だけなのだともわかっていました。
クラーク弁護士のお話によりますと、グレイスのママのレイチェルは、児童養護施設のほうで育ち、血の繋がった親族がひとりもいないわけではないものの、そちらとは施設に入って以降一度も連絡を取りあったことがないということでした。つまり、グレイスのパパとママの資産的なものはグレイスが成人に達したらそのすべてを受け取るということであり、おじさんが後見人になるという、そうした形に落ち着くということになります。
(これからわしはしっかりせねばなるまいの。ええと、グレイスは今六つということだったから、この子が二十歳になるまでには、あと十四年……わしは今六十五じゃから、その頃には七十九か。ははは……わははは)
その頃まで果たして自分は生きておるかのう、何かそんなことを思い、おじさんはついさっきまで弟のことを思ってまた泣きそうになっていたにも関わらず、この時何か初めて笑いのようなものがこみあげてきました。
ですが、おじさんは今はもうこのグレイスという弟の大事な一粒種のことを自分の手許に置いておきたいという気持ちでいっぱいでした。もちろん、子育ての経験もない自分にこんなに元気でエネルギーの有り余ったような子を育てることが出来るのか、もっと言うなら育てきることが出来るのか……おじさんにも自信はありません。けれども、ふたりの関係がノースルイスのほうでうまくいかなかった場合、フォード牧師に預け返すということも出来るわけですし、おじさんは(なんとかなる)というよりも(努力してなんとかしよう)と考えていたのでした。
この世でただひとりの弟を亡くしたという悲しみはおじさんの心を透明な湖のように満たしていましたが、けれどもそこには何故か今、一筋の希望の光が差してもいます。それは死の暗い陰の国を照らす唯一の光、強い生命力の光のようなものでした。
(この子を見ていると、わしはなんだかほっとする。わしはもともとガキなんぞという生き物は少しも好きではないのだが、この子は不思議とすがすがしくて気持ちのいい子のように思う)
それは血が繋がっているからというよりも、グレイス自身が何かそうした力を発していたからでした。クラーク弁護士も大体そのようにグレイスのことを受けとめたようですし、それはフォード牧師夫妻など、他の大人にしてもまったく同様の態度であったように感じました。
(フフフ。わしが小さかった頃なんぞ、大人が紅茶が飲みたかろうといえば、仮に蒸し暑くとも黙って紅茶を飲んでおったろうな。それで、いちごソーダとメロンソーダか。わしはもし仮にいちごソーダなんぞ飲みたくなくとも、大人がそれを期待しとると感じたら、メロンソーダは誰か他の子に譲っていちごソーダを飲んでおったろう。確かにわしは、そういう子どもじゃった……)
そしてこの時おじさんは、両親が亡くなってから預けられた先の伯母夫婦の家で、「おまえのそのビクビクした他人の顔色を窺う様子が気に入らない」とか、あるいはただ単に「目つきが気に入らない」、「顔つきが気に入らない」とよく言われていたことを思いだし――少しだけ暗い気分へと落ち込みました。
「どうしたの?おじさん」
駅前通りにある<ビジネスホテル、モーニングスター>というところにタクシーが停まっても、おじさんがぼんやりしているもので、グレイスはおじさんの顔を覗きこんでそう聞きました。
「おお、すまんの、グレイス」
おじさんは小さな灰色のカバンの中から灰色の財布を取りだすと、そこからユト・ドル紙幣を取りだして支払いを済ませました。
「まあ、おじさん!タクシーっていうのは随分高い乗り物なのね。たったあれっぽっちの距離を走っただけで十ドルちょっとも取るだなんて、イカレてるわ」
「昨今タクシー業界も厳しいからの。仕方ないじゃろ」
そう言いながらおじさんは笑いました。灰色のパッとしないスーツを着たおじさんは、どう見てもお金持ちであるようには見えません。けれども、この時グレイスは尊敬の眼差しでおじさんのことを見上げていました。グレイスはパパのことがもちろん大好きでしたが、それでもこういう時、彼女のパパであれば「チッ、そんなに取るのか」といったことを必ずつぶやいていたことでしょう。
(パパの言ってたとおり、パパのお兄さんのこのおじさんは、物惜しみをしない人なんだわ。それに、とっても心が広い感じがする……)
そう思うとグレイスは何かが嬉しくなり、また自分のほうからおじさんの手を握りしめました。フロントのほうで鍵を受けとると、おじさんはクリスタルのキィホルダーのついたそれをグレイスが持ちたかろうと思い、そうさせてあげました。部屋のほうは七階で、部屋番号のほうは7117号室です。
「わあ、おじさん!なんて素敵なお部屋なんでしょう!!」
グレイスは自分で鍵を開けると、まるで弾丸のように狭い部屋の中へ飛びこんでいってそう言いました。実をいうとおじさんは、フロントのところでグレイスもベッドで眠れるようにと、ツインルームが空いてないかどうかと聞いていました。グレイスはまったく気づきませんでしたが、おしさんはこの時、若いフロントマンが不審そうな顔をしたように感じ――「この子は姪なんですよ。弟の娘です」といったように慌てて付け加えていたものでした。
「この程度で素敵とは、おまえさんもまた随分ええ子だの」
「そんなことないわ!ねえ、窓からの景色を見てよ。サウスルイス駅やまわりにあるデパートとか、ビルとか、とても高い建物が並んでるわ。わたし、高いところ大好き!!」
部屋のほうは、なんの変哲もないベッドが二つ、それに備えつけのテーブルの上に小型のテレビが乗っており、その下には小型の冷蔵庫。あとはテーブルがひとつと椅子がふたつあるという、おじさんの目にはどうということもない部屋のように思われました。
「今回は、グレイスが一緒に泊まるとは思ってなかったからの。こんな大したことのない部屋で申し訳ないが……まあ、またこんな機会のあった時には、もう少しばかりゴージャスなところにグレイスのことを連れていってやろう」
「まあ、本当に!?おじさんったら随分親切なのね。さすがはパパのおにいさんだけのことはあるわ。でもおじさん、こんなにお金を使って大丈夫なの?あたしはね、見てのとおり健康元気なほうだし、<けんやくする>っていうこともわかってるわ。何故って、パパがよくそう言ってたからなの。『けんやくすることは大事なんだぞ、グレイス』って。ママもよく言ってたわ。『お金は大事にしなくちゃね、グレイス』って」
「…………………」
おじさんは、(子どもは金のことなんぞ心配せんでええ)と言おうかとも思いましたが、ジャックと奥さんのレイチェルの言うとおりでもありましたので、とりあえず一旦黙りこみました。それから、冷蔵庫の中を覗きこんで、ビールとジュースが何本か入っているのを確かめると――まずは腹ごしらえしようと思いました。教会の庭でバーベキューを少し食べてから、弁護士事務所で飲み物を飲んだ以外、何もお腹に入れてませんでしたから。
「まずは何か夕食でも食べにいくか、グレイスや。おじさんはこのへんの店のことに何も詳しくないからの、ここのホテルのレストランでの食事でも構わないかね?」
「もちろんいいわ。でもここ、お子さまランチなんてあるかしら」
(お子さまランチなぞはまずあるまい)と、おじさんはそう思いました。何故といって、こうしたホテルというのはサウスルイスに商用のあるビジネスマンが主に利用するような、そうした手合いのホテルでしたから。
そしてそう思ったおじさんは、フロントへ電話をかけると、「このあたりに子どもが喜ぶような……たとえばお子さまランチが置いてあるようなレストランなんかはないかね?」と聞いてみることにしました。すると、親切なことにフロントの紳士は、「そのような店はこのあたりにたくさんあるので、リストアップして地図も印刷しておきましょう」と言ってくれました。「二十分くらいしたら取りに来てください」ということで、おじさんがグレイスを連れて出ていくと、先ほど宿泊の手続きをしてくれたフロントマンは「このホテルのある駅前通りだけでも、軽く五~六軒はありますよ」と言って、子どもを連れていくのに良さそうなレストランをいくつも地図に記してくれていました。どうやら、先ほどおじさんが『この変態のロリコンめ!』と言われているように感じたのは、まったくおじさんの気のせいだったようです。
「グレイスはお子さまランチがいいんじゃったな」
それぞれのレストランのネット評価についてまで印刷してくれていたので、おじさんはそのちょっとしたファイルをロビーの椅子に座ってグレイスに見せることにしました。
「まあ!あのフロントの人、ずいぶん親切じゃないこと?」
「おまえが可愛いからじゃろう。おじさんがもし一人でこのへんにいい店はないかなんて聞いていたら、『うちのレストランが一番いい店です』と言われて終わっておったろうな」
おじさんは足を組むと、口許に手を置いて笑いました。実はこのポーズは、おじさんがよくする姿勢でもありました。
「あら、そんなことないわ。おじさんがさっきタクシーぎょうかいについて言ってたみたいに……ホテルも戦争がげきかしてるとかって聞いたことあるもの。この世はじゃくにくきょうしょくなんですって。ようするに、強いものが生き残るってことね」
「グレイス、おまえさんは随分難しい言葉をその年で知っておるのう」
おじさんは感心して言いました。
「うちでいつも、動物のテレビ番組とか見てるもの。大体ライオンとかとらとかー、そういうもうじゅうが出てくると、その言葉も一緒に語られることが多いの。おじさん、おじさんはライオンととらとどっちが好き?」
「ま、その話はあとじゃ。今はこの中からおまえが好きな店を選びなさい」
結局グレイスは、ハンバーグ定食を専門にしているレストランを選ぶと、そこでお子さまランチといったキッズメニューではなく、上にチーズののった、一番小さいサイズのハンバーグステーキを注文しました。そしておじさんは、それよりひとつサイズの大きい同じ物を注文しました。
「ほら、グレイス。デザートにアイスはどうじゃな?なんだったら、他にジュースを頼んでもいいし……」
「あら、おじさん。そんなに最初からあたしを甘やかしてはいけないことよ。それに、このハンバーグ定食だけで、きっとお腹はいっぱいになるもの」
「おじさんに遠慮する必要はない。じゃが、よく考えたら昼はバーベキューで夜はハンバーグというのはちょっとよくなかったかもしれんな。付け合わせに野菜もちょろっとはついてくるとはいえ……」
「えー!あたし、野菜だいっきらいー!!」
グレイスのこの言葉を聞いて、おじさんはただくすりと笑っただけでしたが、もしグレイスが野菜嫌いだとしたら……その点は料理で少しばかり工夫する必要があるかもしれませんでした。
「じゃがグレイス、おまえのパパは腕利きの料理人じゃったし、おまえが野菜を食べなくてもママは何も言わなかったのかね?」
「んー……何も言わないってわけじゃないけどー、鼻をつまんで人参食べたりとかー、何かそんな感じー?」
グレイスがどこか決まり悪そうに言ったため、優しいおじさんはそれ以上の追及はやめました。そのあと、おじさんは疲れたせいもあり、窓の外の行きかう人などをぼんやり眺めていましたが、珍しくグレイスも伏し目がちになり……ただ椅子の下で足をぶらぶらさせていました。
やがてチーズバーグ定食のSサイズとMサイズが運ばれてきますと、おじさんとグレイスは特になんということもないような会話をしながら食事をしました。まるで本当の家族みたいに……。
おじさんは誰かとこんなふうにレストランで食事をするなんて、本当に久しぶりのことでしたので、そのことをとても嬉しく思っていましたが、グレイスのほうではこちらもやっぱり自分の家以外のレストランで食事をするのは久しぶりでしたから、そのことをとても喜んでいました。
そしておじさんのほうでは、(今日わしとこうしてレストランでハンバーグを食べたことなんぞ、グレイスのほうではすぐ忘れてしまうことだろう。じゃが、わしのほうでは弟の墓参りのことも含めて、今日あったことは全部、自分が死ぬ日まで忘れんかもしれんな)などと思っていたわけですが――実はグレイスもそのことは同じでした。
何故といって、自分のパパとママのことで、あんなにも身も世もなく泣いてくれたのは、この世でジョンおじさんただひとりきりでしたし、そのあともおじさんが何かの拍子に瞳を涙で濡らしているのにグレイスは気づいていました。そして、生まれて初めて訪ねた<法律事務所>という場所で飲んだメロンソーダの美味しかったことや、おじさんと一緒に泊まったビジネスホテルが素敵だったこと、夕食に食べたチーズバーグ定食のとても美味しかったことや……何より、おじさんがどんな時でも優しく自分を気遣ってくれたこと、こうしたこと全部をグレイスはいつまでもずっと忘れず、覚えていたのでした。
>>続く。
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