さて、今回は変なところで切れてしまった前回の続きということで(^^;)
まあ、【2】のマキ視点が、今度は君貴視点になったという、何かそんな感じでしょうか。。。
そして前回は君貴の恋人であるレオンも出てきたので……この小説は大体のところ、この三人の三角関係を描いた恋愛模様といったところです
それはさておき、今回も特に前文に書くことないっていうことで――↓の中に、ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツのことがちらっ☆と出てきたので、そのことにでも少し触れてみようかな~なんて
かなりのとこどーでもいいことですが、クラシックのヴァイオリニストさんのCDで、わたしが生まれて初めて購入したのが、ハイフェッツさんのメンデルスゾーン・ヴァイオリン協奏曲だった気がします(わたしの記憶違いでなければ^^;)。
そんで、↓に出てくる文章のほうは、「NHK名曲アルバムCDコレクション9」からのものとなりますm(_ _)m
>>クライスラーをうならせた、天才少年ハイフェッツ。
偉大なヴァイオリニストと呼ばれる人はたいてい小さい頃から才能を発揮するものですが、ハイフェッツの場合は桁外れでした。
3歳の時に父親から4分の1サイズのヴァイオリンをもらって1週間でマスター。6歳で1000人を超える聴衆の前でメンデルスゾーンの協奏曲を演奏し、7歳で音楽学校を卒業してペテルブルク音楽院に最年少入学を果たしました。
さらに11歳でチャイコフスキーの協奏曲を名指揮者ニキシュとベルリンで共演して、聴衆を熱狂させました。その翌年、ライプツィヒで12歳の少年の演奏するブルッフの協奏曲を聴いたフリッツ・クライスラーは、若い同僚のジンバリストにこう言ったそうです。
「君も僕も、ヴァイオリンを膝にぶつけて壊してしまった方がよさそうだな」
(『NHK名曲アルバムCDコレクション9』デアゴスティーニより)
なんと言いますか、他に特に書くことなかった……ということもあり、引用させていただいた文章の出典元ということで(^^;)
それではまた~!!
ピアノと薔薇の日々。-【4】-
(しかし、なんだな。『葬式のように静々と』なんていう指示があるわけでもなかろうに――なんとも単調な、音色の乏しい演奏だな)
だが、『彼』の後ろから演奏する様子を眺めているうちに、君貴は気づいた。単に彼は、こうした場所に相応しく、人々の会話の邪魔にならぬよう、自分に注意の向くような演奏をしていないだけなのだ、ということに。
(ふうん。なるほど……)
ちなみに、このあとタクシーの中で、君貴が「才能なら、ないことなかろう」と言ったのは、嘘ではない。彼がもし、情熱的に、自分の本能の赴くがまま、自由にピアノを奏でたとしたら――きっと素晴らしい演奏をするに違いないと、そう思ったからだ。
このあと、君貴はボーイと同じ制服を着た若い青年の姿を見つめるうち、ふと世界的ピアニストである自分の恋人のことを思いだした。君貴はレオンと出会ったことで……初めてプロのピアニストになるという夢を断念した自分を肯定することが出来た。クライスラーはヤッシャ・ハイフェッツがブルッフの協奏曲を弾くのを聴いて、同僚のジンバリストに「君も僕も、ヴァイオリンを膝にぶつけて壊してしまったほうがよさそうだな」と言ったというが――それとまったく同じことが君貴にも起きたのだ。
今も、レオンのピアノ演奏を見、聴くたびに思う。『この才能に、俺は到底及ばない』と。エミール・ギレリスの再来か、とデビュー当時世界中の新聞が書き立てたように、高い位置から繰り出される正確な打鍵、深い思想性に裏打ちされた叙情性溢れる演奏……そんなものを、九歳からピアノを始めたという青年が、何故まだ十六歳という年齢で示しえたのか、レオン自身はインタビューで聞かれるたび、はぐらかしていたものだ。「ピアノというものは、ただひたすらに反復練習あるのみです」などと。
この時、君貴はレオンと出会った当時のことに思いが遡っていたが、マキの演奏が終わり、次の曲へ移ろうというその瞬間、君貴は彼に声をかけていた。
「おい、それは誰のなんていう曲だ?」
だが、マキは答えなかった。まるでプログラム通りにピアノを弾く、自動演奏人形のように、次の曲――『亜麻色の髪の乙女』へ移ろうとする。普段、人から無視されることに慣れていない君貴は、酔っていたせいもあり、この時あからさまにムッとしたものである。
「あんた、知ってるか?ドビュッシーのその曲は、果たして亜麻色の髪の乙女は下の毛も亜麻色なのか、といったような曲らしいぞ」
「あの……」
この時、マキが振り返ると、君貴は(どけ)というように、彼に身振りで示した。君貴の威圧する眼差しを恐れでもしたように、マキはすぐに座席を見も知らぬ客に譲る。君貴は誕生日にレオンから贈られた獅子のカフリンクスを外すと、腕まくりした。職務に忠実なピアノ弾きにかわって、『亜麻色の髪の乙女』をそのまま弾いてもいいはずだった。あるいは、他のドビュッシーの前奏曲でも……だが、君貴はベートーヴェンのピアノソナタ第23番、熱情を選んだ。選曲に深い意味はない。いや、もしかしたら、自虐的なまでに抑圧された演奏を弄する青年の、ピアノに対する熱情を呼び覚ましたいと、無意識の内にもそう望んだのかもしれない。
「ドビュッシーは、おそろしくピアノが上手かったというが……俺に言わせりゃただの、金髪好きのしょうもない自己中男だ」
君貴は、フロアにいる客全員が注目すればいい――とはまったく思わなかった。ただ、彼(マキ)の胸の奥にもまったく同じ熱情が眠っているはずなのに、何故こんなにも自分を押し殺したような演奏を続けるのか、聴いていてイライラしたというのがある。
それで君貴はつい、自分のピアノの技量を見せつけでもするように、気づくとべードーヴェンのピアノソナタを全力で弾き切ってしまっていた。何人かのホステスが『何事か』というように、衝立から顔を出していたが、君貴にはどうでも良いことだった。彼はとにかく、気の毒なアルバイトのピアノ弾きのために、熱情の第3楽章を弾き切ったに過ぎない。
「何か、他にリクエストはあるか?」
「ええと……じゃあ、リストの『ラ・カンパネラ』を」
ショパンの曲あたりを予想していた君貴は、マキが自分のさらなる技量を試そうとするかのように、リストの難曲を所望するのを聞いて、思わず笑った。
「チョピン先生じゃないんだな。だが、まあいい」
実をいうと、君貴は十六歳の時にCDデビューしたことがある。その中にはリストのラ・カンパネラの他に、メフィスト・ワルツ、ショパンの英雄ポロネーズなどの有名曲が含まれていた。選曲に関していえば、若気の至り――リストと同じく、自分のピアノの技巧を見せつけたいとの――としか言いようがないと、今もそう思う。
だが、君貴は極若い頃からリストの難曲を弾きこなそうと努力してきただけに――また、建築のデザインをする間、彼は行き詰まるともっぱらピアノを弾いてアイディアを絞りだそうとするため、今も気がつけばピアノに向かっている……ということがよくあるのだ。
とはいえ、流石に多少ミスるかと思ったものの、ほぼノーミスで弾き切った瞬間、君貴は自分でも少し驚いた。<昔取った杵柄>とは、もしかしてこういうことを言うのだろうか?
最初に拍手したのは、後ろに立っていたマキだが、次の瞬間にはボックス席のホステスらや客からも拍手の波が送られてきて、君貴はなんだか居心地が悪くなった。
「こいつを借りるぞ」
このフロアの責任者風に見える男が近づいてくると――君貴は髭を生やしたオールバックのマネージャーに、財布から二十万ほどの金を取りだして渡した。自分と岡田の酒の分を含めても、十分釣りがくるはずだと思ってのことだった。
「なんだ?たぶん、おまえの時給の分ならあれで足りているはずだぞ」
「そっ、それはそうかもしれないけどっ。問題はそういうことじゃないでしょうっ!!わたし、ここのアルバイト気に入ってるし……」
店の前に止まっていたタクシーにマキを強引に乗せると、君貴は『彼』のことをあらためてじっと見つめ直した。やはり、自分の好みのタイプだと、そのように再確認する。
「音大生か何かか?」
「……違います。ただの高卒の、しがない花屋の事務員です」
君貴はこの時、自分でもおかしな笑い方をしたと思った。「フッヒャハハハッ!」といったような、擬音で表現するのが少々困難な笑い方だ。
「ふうん。勿体ないな。音楽を本気で勉強しようとは思わなかったのか?」
「才能とかありませんし……何より、家にお金がなかったので、そんな高望みをしようともまったく思いませんでした」
「才能は、ないことなかろう。まあ、だがあれだな。あんなザルどもが聴衆というのでは、通夜か葬式かというような演奏の仕方をしたほうが、むしろいいのだろうな。なんにせよ、面白かったよ」
君貴はバックミラー越しに、訝しむような眼差しをこちらへ向けてきた運転手に気づき、「リュミエールホテルまで」と頼んだ。これまで、彼が声をかける相手は、外国人である場合が多かった。フランス人、イタリア人、イギリス人、ドイツ人、アメリカ人……今まで、少なくとも十数ヶ国の国籍の男たちとそうした関係になったことがある。
だからこの時、君貴はある種の新鮮さを味わっていた。自分と同じ日本人のことを選んだことは、これまで一度もない。だが、マキのことを男と信じている君貴には――彼がとても可愛らしく感じられていた。
(フランス人とイタリア人は性欲お化け、イギリス人は好きもの、ドイツ人は変態……そういや、カールがそんなことを言ってたことがあったっけ。あいつの基準でいくと、日本人はどういうことになるんだろうな。初心とか?)
君貴がそんなことを考えながら自分を見つめていると気づかないマキは、超高層ホテルに到着するなり、驚いている様子だった。しかも、一番上の55階で降りたとあっては尚さらだった。
「ここ、一体何階ですか?」
「55階とか、そのくらいじゃないか?そう大したこともあるまい」
「へえ……………」
ここで、マキと君貴の間で、意味の取り違えが起きた。マキとしてはただ、高層階から見る東京の夜景の美しさにうっとりしているだけだったのだが――そのきらきらした瞳の輝きに、君貴は彼女が考えている以上の、まったく別の意味を読み取っていた。(ああ、これはイケる)といったように。
「こういうところは初めてか?」
「普通、そうじゃないですか。ここ、一泊するだけでも結構するんでしょうし……」
君貴はいそいそとスーツの上着を脱ぐと、それをハンガーにかけ、クローゼットに吊るした。サイドボードにあるブランデーの瓶を掴み、グラスに入れて飲む。
「おまえも、何か飲むか?」
「いえ、いりません」
こういう時、君貴は酔っていない相手と寝たという経験がない。恋人のレオンは別としても――(やはり、日本人は真面目なのか?)と、君貴は自分も日本人だというのに不思議になった。
「帰るのか?」
「……はい。今日は、なんかありがとうございました。あなたのお陰で、仕事のほうも早く切り上げることが出来ましたし……」
(いや、これは日本人に特有の遠慮というやつだ。あるいは単に照れくさいのかもしれない)――君貴は都合よくそのように考え、マキに目で合図すると、彼女は彼の隣に来て座った。だから、君貴はこう思った。(ほら、やっぱりそうだ)と……。
マキのほうで自分のキスに応えてこなくても、君貴は気にしなかった。たぶん、経験が浅いのだろう。そのままソファの上でもいいことには良かったが、君貴は彼のことをベッドまで連れていった。(せっかくこんな豪華なベッドがあるんだから、使わないのはもったいないよな)と、そう思ったせいもある。
服を脱がされた時、君貴があからさまにがっかりするのではないかと思ったが――事実を知ったとすれば、マキはおそらく複雑な気持ちになったに違いない。彼女は自分でも(ブラジャーをする意味がわからない)というくらい、体が少年体型で真っ平らだった。ゆえに、ブラジャーはおろか、スポーツブラ的なものも着用していなかった。それでも僅かばかり胸の膨らみのようなものがないでもない。だが、人の思い込みとは怖ろしいもので、君貴はこの時点になってもまだマキが『女』とは気づいていなかった。
だが、そんな彼も流石に、マキが女物のパンティを着用しており、そこに男にあるべきものを見出せなかったとすれば……彼の相手を愛撫する手も止まろうというものだった。
「おまえ、名前は……?」
何かに耐えるようにじっと目を閉じていたマキは、この時ぱっと目を見開いて言った。
「えっ!?マ……マキです」
「そっか。可愛い、マキ……」
女だとわかっても、君貴はやめる気にはなれなかった。というより、彼女の反応が何故硬いのかの理由もわかった気がした。だがまさか、処女だとまでは考えなかったし、一切抵抗するでもなく、自分のされるがままになってくれる彼女が可愛らしくもあった。
ゆえに、マキがあとから思ったこと――(男はヤリたいとなったら、いくらでも嘘をつける人種なんだわ)との見解は、実は正しくない。君貴がマキのことを可愛いと感じていたのは事実だし、また、事実であればこそ、自分の良心を誤魔化すためでなく、何度も繰り返しそう言ったのだ。
だがこの翌日、先に目が覚めてパニックになったのは、まず君貴のほうだった。そう多量に、ということではないが、シーツに血痕が残っているのに気づき、彼は自分の性器から出血したのかと思い、慌てた。しかし、バスルームでシャワーを浴びるうち、君貴はあることにはっきり思い至った。「あ゛ーーーっ!!」と声にならない声で、思わず叫んでしまう。
マキはよほど疲れたのか、まるで死体のように起きる気配がない。酒が脳に及ぼす効果が朝陽とともにすっかり消えた今――君貴は焦りに焦っていた。土下座してあやまるべきだろうか?いや、それとも「責任は取る」と言って、賠償金を先に支払っておくべきなのか……。
(いや、ダメだ。金で解決だなんて、不誠実な男すぎるだろうがっ!!)
君貴はとりあえずコーヒーを飲んで心を落ち着かせようと思ったが、コーヒーを一口二口飲んだところでマキが目を覚ましたため――思わず吹きだしそうになったほど、慌てたものだ。
「ああ、起きたのか……」
君貴は自分の罪の結果を直視するように、マキのほうをおそるおそる振り返った。(間違いない)と、心の中で溜息を着く。確かにショートカットで、日本人の女性としては比較的背が高いとはいえ――こうして窓から差し込む陽の光の中で見れば、間違いなく彼女は『女』だった。
「きのうは、そのまあ、色々と……」
君貴としては、それだけ言うのが精一杯だった。彼は誰に対しても、相手の目をじっと見て話す癖があるが、この時ばかりは流石にマキの瞳を見つめることが出来なかった。きのうの夜は、黒曜石のようにキラキラ輝いて、あんなにも綺麗だと感じたというのに……。
マキのほうからなんの言葉もなかったことで、君貴はなんとも気まずい上、とても間が持たなかった。そこで、財布からそこにあった現金すべてを彼女に渡すということにしたのである。
「こんなものじゃ足りないと思うが、だが今、財布に手持ちがこれくらいしかなかったもので……」
一枚残らず数えたわけではないが、君貴は三十万ほどのお金をマキの手に握らせようとした。
「べつに、お金なんていりません……」
君貴のこのやり方に、マキはショックを受けたようだった。ここでも君貴は(やはりそうだ)と確信する。お金欲しさとか、そうしたことが彼女が自分に抱かれた理由ではないのだ。それなのに、自分は一体何をしているのだろう?まるで、娼婦にでも対するように、金で済ませようとするなんて……。
とはいえ、この時の君貴にはこれが限界だった。仕事があるというのはただの言い訳に過ぎないが、それでも自分のほうからロビーに下りていかなければ、秘書の岡田がここまで来てしまう。
「色々話したいことはあるんだが……」
君貴はソファの背にかかったスーツの上着を取ると、部屋から出ていこうとした。
「生憎仕事の打ち合わせがあるんだ。何か食べたいものがあったら、なんでもルームサービスで頼むといい。あとはいつでも自分の好きな時にチェックアウトしてくれていいから」
「…………………」
――この場合、どういう態度を取るのが適切だったのか、君貴にはやはり最後までわからないままだった。抱きしめて、きのうの夜のことを労うというのはおかしいが、とにかく何かそんなようなことをする……それから、小切手を渡して「好きな金額を書いてくれ」とでも言ったほうが良かったのだろうか?
「きのう、あのあとどうしたんですか?携帯の電源も切っちゃって、全然繋がらないし……心配したんですよ。ボス、結構なところきこしめしてらしたから」
「きこしめす、か。普段口語じゃあまり使わない言葉だな」
君貴は、そのまま秘書の岡田とホテル前からタクシーに乗り、成田空港のほうへ向かった。今度は別件で、アメリカのシアトルへ向かう必要があり、仕事の打ち合わせのほうは飛行機内で行う予定であった。
だが、君貴はこの日の夜にあったことを忘れなかったし、あの出来事は自分にとって、また彼女にとってどういった意味を持つものだったのかと仕事の合間合間に考え続け――その翌週の休日に、ニューヨークでコンサートのあった恋人のレオンと、彼所有のペントハウスで落ち合ったというわけだった。
「……おまえさあ、気持ちはわかんなくもないけど、そんな話、僕に聞かせて一体どうしようってのさ」
呆れ顔のレオンに対して、君貴はただ黙って俯いた。もちろん、こんな浮気話、そもそも恋人に聞かせていいような話ではない。だが、レオンは何かが違うのだ。いつでも、君貴が自分では気づかなかった視点から分析し、彼にとって有益となるなんらかのアドヴァイスをしてくれる。
「いつも僕が聞かされるのは、おまえが軽い気持ちで一夜限りの浮気をしたっていうようなことだけど……ようするにあれだろ?ヴァージンの子に手をだしちゃって、翌朝金を渡しただけで済ませたことで、今おまえは罪悪感に苦しんでるっていう、そういうことなんだよな?」
「そ、そうなんだ。もちろん、もっと金を渡しておくべきだったとか、俺が言いたいのはそういうことじゃないっ。なんていうかこう、あの場合における紳士的な態度というのはいかなるべきものだったのかという、そのことをずっと考えてるんだ」
「ふうん。紳士的ねえ……」
レオンは、ちらと軽蔑した眼差しを隣の君貴に向けた。もう彼らは長いつきあいになる――ゆえにわかる。ようするに彼は、もう一度その娘に会って彼女の本心というやつを知りたいということなのだ。
「なんにしてももう、ヤッちまったものは仕方ないよ。その子の処女膜は手術でもしない限り元には戻らないんだし――もしかしておまえ、処女膜再生手術の金をだすから、それで許してくれ、なんて言うつもりじゃないんだろ?」
「しょ、処女膜再生手術だって!?そんなものが本当にあるのか?けど、そんな手術、なんで必要なんだ?」
「さあね。色々あるんじゃないの?レイプされて処女を失ったけど、それは自分としては本意じゃなかった。本当に心から好きな男に処女を捧げたいとか……ま、イスラム圏の女性については、あえて説明するまでもない気がするけど」
「ほ、本当に好きな男と……」
君貴がずーんと落ち込んでいるのを見て、レオンは溜息を着いた。こうした彼のことを見るのは珍しい。ゆえに、腹は立つものの、レオンはいつものように助言してやることにした。
「おまえがそう責任を感じる必要はないんじゃないの?話として聞いていて思うに、その子は一切抵抗しなかったんだろ?ましてや、悲鳴を上げたわけでも、「訴えてやる」と罵ってきたわけでもない……まあ、その子の気持ちも僕にはわかんないでもないな。君貴はいわゆるイケメンの範疇に入るような男だし、ナンパされて、行った先がホテルのプレジデンシャル・ルームで、「この男ならいいかな」みたいに思ったっていうことなんじゃない?だから、べつにそう深刻にならなくても――同意の上ということなら、彼女にも責任はあるよ。初めてだっていうことを先におまえに伝えなかったという責任がね」
「…………………」
(こりゃ、まるっきりダメだな)
そう思ったレオンは、やはり今日はこのまま姿を消すことにした。とにかく、今彼はその自分がヴァージンを奪った娘のことで頭がいっぱいなのだ。そんな恋人のことを見ていてもイライラするだけで、レオンの精神衛生上、いいことなどひとつもない。
「じゃあ、僕はチャリティー・コンサートがイスラエルのほうであるから、このまま空港のほうへ行くよ。まあ、ここは君貴と僕のニューヨークの家みたいなもんなんだから、僕がいなくても好きに使えばいいし」
「レオン、ありがとう」
「…………………」
(のわーにが、ありがとうだっ!)というのがレオンの本音ではある。(これに懲りて、男遊びもほどほどにするようになればいいけど、それは無理だろうな)と、彼としては冷静に分析するのみだった。
だが、この翌月、今度はロンドンにある君貴所有の屋敷で――レオンは今度は腹が立つだけでなく、嫉妬で腸が煮えくり返る事実を聞かされることになる。なんと、君貴は再び日本へ飛ぶと、そのマキという女性に会い、話しあいの場を持ち、お互いの誤解を解き合ったというのだ。さらにその上、再び体の関係を持ったというのだから、開いた口が塞がらないとはまさにこのことだとレオンが思ったのも……まったく無理からぬ話である。
>>続く。