知的生産の技術
梅棹忠夫
岩波新書
メモのノウハウ本はビジネス書の定番だ。最近だと「メモの魔術」とか「スマホメモ」とかある。
メモ本の歴史を紐解いたわけではないが、梅棹忠夫の「知的生産の技術」はパイオニアのひとつと言って間違いないと思う。昭和44年の刊行だからもはや古典文献だが、しかしこの本は岩波新書としていまだ現役である。大きな書店の新書コーナーにいけばあるはずだ。
そして驚くことに、現在の氾濫するメモ本のほとんどが本質的に「知的生産の技術」から一歩もはみ出ていないのである。
その極意は「とにかくなんでもメモっとけ」と「メモったものはすぐに探し出せるようにせよ」。そして「たまに見返せよ」なのである。これでレポート作成もビジネスもアカデミズムも人生もうまくいっちゃうのである。
昭和40年代はそのメモ台としてA6判の「京大式カード」というものが提案されていたが、その後の時代の流れや技術革新やさまざまなアイデアで派生種が広がり、現在みられるような書店に並ぶ各種メモ術本に至っているわけだ。その術はA4判ノートだったり、100均のメモ帳だったり、データベースソフトだったり、スマホのメモアプリだったり、Evernoteだったりする。また、メモ帳もロディアが良い、モレスキンが良いが良いと色々な派閥ができている。
つまり「知的生産の技術」はメモ術の開祖なのである。
というわけで今日、百人には百人のメモ術があり、我こそはというわけで百家争鳴のメモ術本がビジネス書コーナーで氾濫している。
しかし、このひとメモ魔だなー、と思う人は仕事の場でも意外に見かけない。もちろん会議の場とか取材の場ではみんなメモるが(最近はデスクの上にモバイルPCを開いてパチパチするパターンが多い)、いわゆる「なんでもメモる」ような人というのはこれだけメモ術本が溢れているわりに見かけない気がする。
手を変え品を変えてメモ術本が次々でてくるということはそれだけ買う人がいるのだろうけれど、けっきょく実践する人というのはほんの少しなんだろう。そして見果てぬ夢をみてまた新たなメモ術本に手を伸ばす。
実はメモ術本ビジネスというのは、ビジネスモデルなんだと思う。