読書の記録

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鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

2017年04月26日 | サイエンス

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

川上和人
新潮社

 神保町にある三省堂の1階には、ジャンル別のベストセラー本が棚に飾られているのだが、なんと理工書部門で、このミもフタもないタイトルの本書が第1位であった。

 著者は鳥類学者である。著者によると、鳥類学者はこの日本に1200人しかいないそうだ。10万人に1人。つまり、10万人のお友達をつくらないと鳥類学者というものに巡り合えないことになる。著者曰く「タレント年鑑」に登録されているタレントないしモデルが11000人で、つまりはタレントよりも希少とのこと。

 そんなレアな鳥類学者による鳥エッセイというか、鳥学入門なのだが、その中身たるや著者のアニメ好き、マンガ好き、オカルト好き、神話好き、日本史好きを総動員させたサービス感満載の抱腹絶倒である。かなりあちこちにネタがしこまれており、その細部までの芸の細かさからみるに、僕が気が付かなかったものもたくさんあったに違いない。中学や高校の授業でも、これくらい面白おかしく講義してくれたら、もっと理科が好きになったかもしれないのに。

 しかし、あっけらかんと書いているようで、著者が研究のためにくりだしている地はかなりハードでアグレッシブなところだ。近代以降の記録では人類が3回しか上陸していないとされる超難度の南硫黄島では、なんと山頂まで到達しているし、海底火山の噴火によってできたてほやほやの西ノ島新島の上陸メンバーに入っていたりしている。こういう未踏の地に先んじておもむくのは探検家・冒険家のイメージが強いが、案外に鳥類学者というのは、先んじて海を越え山を越え谷を越えていくものらしい。そういえばダーウィンは生物学者でもあったし、南極探検のスコットやシャクルトンも生物学者を同行させている。生物学者というのは探検家でもあるのだ。

 それでも動物学者でも昆虫学者でも植物学者でもなく、鳥類学者というのは、やはりニッチだ。
 もっとも、日本というのは世界の鳥類愛好家にとっては聖地なのだ、という話も聞いたことがある。日本でしか見られない鳥類というのもけっこうあるのだそうだ。まあ、国土条件的には世界の国々の中でも地勢や気候ふくめて珍しいのかもしれない。だから、日本の場合は、動物学者や昆虫学者よりも鳥類学者のほうが、アカデミズムとしても期待しやすいのかもしれない。たとえタレントやモデルより数が少ないとはいえ、わが日本では、鳥類学者が川口探検隊よろしく先陣をきって未踏の地へ突入していくのだ。




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