屋上のテロリスト
知念 実希人
光文社
架空歴史小説はいろいろあれど、ポツダム宣言受諾があと3か月遅れていたら、という目からウロコの設定で始まる、もはや出オチといってよいエンターテイメント小説。
正史では、広島への原爆投下、ソ連軍の満州侵攻、長崎への原爆投下ときて、8月14日に御前会議でポツダム宣言受諾の聖断がなされ、8月15日に玉音放送、9月2日に降伏文書調印となるが、8月14日から15日にかけて、聖断を覆そうと陸軍がクーデター未遂をしているのも「日本の一番長い日」などでよく知られている。
この小説では、そのクーデターが成功して玉音放送が成されずに戦争は続行し、当初の計画通りにソ連軍は北海道に上陸して占領してその後は東北地方へと南下、アメリカ軍は新潟に原爆を落とし、ついに伊豆から上陸して本土決戦へと至り、大日本帝国は11月に連合国軍に降伏したとされる。
戦後の日本統治の方針を決めたヤルタ協定では、戦後の日本は戦勝国のあいだで分割統治という案も出ていたから、この3か月の差は大きい。東西ドイツや南北朝鮮の例にもれず、11月に降伏した日本は、北海道と東北をソ連が統治し、関東以南をアメリカが統治する分断国となった。東が社会主義国の「東日本連邦皇国」で首都は仙台。西が民主主義国の「西日本共和国」で首都は東京である。
そして、本州を縦断する国境には、高い壁が延々と万里の長城のように続いている。
まさに北朝鮮から核だ、ミサイルだ、Jアラートだ、という時節柄に読むにぴったりであった。
SFでもミステリーでもなく、エンターテイメントなのであって、アニメでもみるような気分で読めばよい小説だから、ややご都合的な展開に目くじら立てる必要ないがひとつだけ言いたい。
テロの首謀者はなかなか強くて賢い女子高生なのだが、どんな修羅場でもセーラー服である。なぜかこの手の女子高生はセーラー服の黒髪と相場が決まっている(野崎まど「know」もそうだったな)。これの原型は「セーラー服と機関銃」にあるに思うのだが、これではどうしてもオッサンむけエンタメになってしまう。せっかくだから、物心ついた時から冷戦が終わっていた世代にも楽しんでほしい。もう少しいまどきを反映させてみては?