はじめに
蕎麦汁は、蕎麦屋の旗印だと思います。
その蕎麦屋の姿勢と店主の考えを、良くも悪くも表すのではないでしょうか。
以前は、一年を通し、蕎麦の状態を一定のレベルに保つ事はなかなかに難しく、特に夏場は粉の質に苦労したそうです。
そうした時期には、汁は粉を補う意味もありました。通年で一定の味と質を維持できる蕎麦汁は、その店の味を保つ為、今以上に重要な位置を占めていた事は想像に難くありません。
それ故、秘伝の味として、蕎麦汁だけは店主だけが、その材料、割合、製法を他の誰にも知らせない店も多くあったそうです。
現在でも多くの蕎麦屋に蕎麦汁を大切にする伝統は引き継がれ、多くの蕎麦屋が手間と経費をかけ、自分の店で鰹節を毎朝削り、出汁を取って蕎麦汁を取るという地道な作業をつづけています。
ここ近年は、手打ちや、自家製粉の店が増え、蕎麦汁の意味合いも変わってきました。
いい状態の蕎麦粉で打った蕎麦は、塩や水でも少量なら美味しく食べられるものです。
蕎麦汁の役割は、蕎麦に寄り添い、蕎麦本来の力を引き出し、更にはより美味しく食べる為の汁とい方向に向かう事となりました。更に塩分や糖分、自然素材等、人々の健康指向や、情報のオープン化といった社会的な影響もあります。勿論、営業的要素、つまりコストや価格、味の流行、地域や来客層の指向等も考慮に入れなければなりません。
まだ色々とありますが、だいたい上記の要素をふまえ、従来からの基本線はふまえつつ、現在の、そしてこれからの蕎麦汁の方向性は決まっていくと考えられます。
蕎麦汁の種類
蕎麦汁の種類は、大きく分けると、次の2っに分類できます。
◎冷たい(絡む)汁の系統…辛汁(つけ汁)
◎温かい汁(吸う)の系統…甘汁(かけ汁 ・種汁)
呼び名は、店により、また地域により異なります。
蕎麦汁の材料
汁の材料は、基本的には醤油と砂糖と味醂に出汁(江戸では鰹節のみ)といった単純な組み合わせで出来ています。 これも地域により、店によって割合は異なります。上記の基本材料
から何かを引いたり、また独自に何かを足したりして工夫して作られています。
次は、蕎麦汁についてもう少し具体的に、まず「かえし」について考えていきたいと思います。