朝のテレビニュースで,棚田の田植えが報じられていた。「オーナー」の人たちが手植えに取り組んでいた。
棚田からわたしが連想するのは,「耕して天に至る。」という文言である,中国の李鴻章が言ったとも,孫文が言ったともいわれ,由来ははっきりしないらしい。その後に「以て貧なるを知るべし。」あるいは「以て辛なるを知るべし。」が続くと聞いている。
棚田は山間の傾斜地の,およそ水田適地とはいえないところに位置し,農民の隠し田として,あるいは,領主が領地の石高を増やそうと農民に強制したものとして開発されたものであろう。
わたしにはネガティブなイメージが付きまとう棚田が,ポジティブなものとしてもてはやされていることに違和感を覚え,「オーナー制度」などというものが果たしてうまく行くのか疑問を持っていた。そんな思いから,棚田の現状を知りたくなり,ネットでいろいろ検索してみた。農水省のホームページ棚田地域の振興について:農林水産省 (maff.go.jp)が大変役に立った。
農水省の定義では,1/20以上の傾斜地に作られている耕作地で,これに合致したところの保全にはいろいろな法的裏付けを持った支援が行われている。棚田の総面積は15万(20万とも)haで,耕作者の高齢化・後継者不足でこの10年間で4割が消滅したといわれている。こうした棚田の荒廃に危機感を抱いた各地の農民が,農地の保全と休耕田の回復を目指してNPOなどの組織を作り,公的援助を受けながら事業に取り組んでいる。
この事業の中核となるのが「オーナー制度」である。年3~5万円の会費を払い,田植えと稲刈りをはじめとして,事情と能力に応じて稲作の作業に取り組み,収穫物を受け取る。オーナーの中からはインストラクターや定住者が出ているという。都会人は農作業のつらさに耐えかねて長続きしないだろうというわたしの心配は,どうやら杞憂のようである。
貧にして辛の歴史を背負った棚田が,人々を癒す景観を構成し,人間性回復の場として現在の文化の中で新たなニッチを得て息づいてていることに,わたしは感慨を覚えた。多くの棚田保全事業に共通する悩みは,中核となる地元農民の高齢化と後継者の問題である。地域・国が一体となって支援し,棚田を永続的な文化拠点として保持することを願っている。
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