読書用の眼鏡を購入した。普段かけている眼鏡は遠近両用で,矯正視力は1.2くらいあるので,日常生活には差し支えないが,数年前から本やパソコン画面を見るのに不自由を感じるようになった。そこで,美人のお尻に敷かれても壊れないというコマーシャルに惹かれて,ハズキルーペを購入し,読書用に使っていたが,最近目が疲れるようになって,読書専用の眼鏡を処方してもらい,購入した。甚だ調子がいい。
眼鏡をかけだしたのは,42歳の時だった。生来視力はいい方で,1.5くらいはあったのだが,明るさが落ちると手許が見にくくなっているのに気づき,眼科医の診察を受けた。
この先生,わたしの年齢を聞いて,老眼というのは45歳くらいから始まるものだから,あなたの場合はそれに当たらない,と検査をせずに宣告し,疲れ目でしょうと薬を処方してくれた。
家に帰って調べると,ATP(アデノシン三リン酸)がその成分だった。ATPは生体エネルギー代謝のキー物質で,細胞間の移動は困難と習っていたので,消化器系から眼球まで果たして届くものかと疑問に思い,処方してくれた眼科医に不信を抱いて,近所の眼鏡屋さんを訪れた。
眼鏡屋さんはちょっと検査して,老眼ですねと診断を下し,眼鏡を勧めてくれた。仕事柄,手元の資料と遠くを見ることが同時に必要なことがあるので,遠近両用の眼鏡を作ってもらった。
大変便利な眼鏡だったが,馴れるまでに目が充血したりすることがあった。しかし,何よりも驚いたのは,正方形がひし形に見えることであった。眼鏡をはずすと正方形である。眼鏡を通して網膜に結ぶ像がひし形ということだったのだろう。
ところが,いつの間にか正方形は正方形に見えるようになった。方眼紙の升目や折り紙は正方形であるという既成観念があって,脳の中で結ばれる像をそれにそぐえるように修正したのだろう。
認識するというのは,どういうことだろう。時々,見ているものの形が,本当の形かどうかと,考えることがある。