(昨日の続きです)
楳図氏は1980年代後半から1990年代にかけて週刊ビッグコミックスピリッツに読み切りのSF短編漫画を発表していました。その中に今でも忘れられない作品があります。正確な掲載時期もタイトルも忘れてしまったのですが、原子力発電所から発生する高レベル放射性廃棄物を扱った作品でした。原子力発電に伴って発生する使用済燃料を再処理し、取り出したウランやプルトニウムを抽出した後に(このプロセスを再処理と言います)生じる放射能レベルの高い廃液を高温のガラスと溶かし合わせて固体化したものが高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体とも)です。高レベル放射性廃棄物の放射能レベルが低下するには長い時間がかかります(様々な核種の一つのプルトニウムの半減期は24000年!)。現状では最終処分地を決めて地下300mに埋設することになっています。これを地層処分と言いますが、どこを処分地にするか現時点では見通しは立っていません。
この厄介な高レベル放射性廃棄物をどう処分すべきか、様々な検討がなされてきました。例えばロケットで宇宙へ廃棄するなどです。しかし打ち上げに失敗すれば空から高レベル放射性廃棄物が降ってくることになるのでさすがに、どこの国も実行しようとはしません。検討された案の中に、マントル対流の中に埋め込んで、地球の奥深くに廃棄するというものがありました。日本近海の日本海溝の底に高レベル放射性廃棄物を埋め込めば、マントル対流に巻き込まれて自然と地底の奥深くに埋め込まれていき二度と地上に姿を現すことはないという算段でした。高レベル放射性廃棄物は上記のガラス固化体をステンレス製容器に詰めた状態で保管されています。この容器はキャニスターと呼ばれています(上の図です)。2023年現在、日本には、こういうキャニスターが約27000本もあるそうです。
前置きが長くなりましたが、楳図氏の漫画で、このマントル対流に埋め込んだ大量のキャニスターが富士山の大噴火によって大量に神奈川県民と東京都民の頭上に降ってくるという地獄図絵の未来予測をしたものがありました。ちなみにマントル対流が日本に大地震を頻発させる原因の一つでもあります。
もちろん、これは漫画でそんなことは起こらないでしょう。しかし人類の管理の手を離れた高レベル放射性廃棄物の挙動がどうなるか、本当の所は誰にも分からないのです。本ブログでもたびたび取り上げておりますが、高レベル放射性廃棄物それ自体を「資源」として捉えて利用する方法を考えるべきだと思います。このような検討も専門家によりなされていますので、また別の機会に紹介させていただきます。