
昨日は私が所属している職場内グループの年度末会議でサイエンスカフェが実演されました。サイエンスカフェのテーマは「手作りの装置で行うミューオンの観測」です。グループメンバーの素粒子物理学の先生に話題提供をしていただきました(上の写真です)。ミューオン(ミュオンあるいはミュー粒子とも言います)とは、宇宙空間から地球上に飛来する宇宙線の中に含まれている電荷を帯びた素粒子のことです。物質を透過する力が極めて強いため、最近は火山の内部構造透視やエジプトのピラミッドの内部探査に用いられています。つい先月も名古屋大学の研究チームが世界最大のクフ王のピラミッドの内部に謎の空間があることをミューオン透視で発見したというニュースがありました(注)。ミューオンは四六時中地上に降り注いでいて私たちの身体も通過しています。今回のサイエンスカフェでは新しいミューオン探知装置の実演がなされました(上の写真です)。この装置の画期的な点は100円ショップで購入した材料と3Dプリンターで制作した部品で、わずか900円で作れるということです。20秒に1回くらいの頻度で装置のLEDが緑の閃光を点滅させることで、今この瞬間にミューオンが飛来していることを知ることができます。
ミューオンは普通の電磁波が届かない地底でも海中でも届きます。このような実演を見ていて私が思ったことは海中の原子力潜水艦と地上の基地との通信に使えないかということでした。あるいは地底を透過して地球の対蹠点(地球の裏側の地点のことで、日本から見ると南米のブラジル周辺になります)との通信ができないかと思いました。私は、こういう新しい技術を目の当たりにするとすぐに軍事利用を思い浮かべてしまう悪い癖があります。
ただし・・・ミューオンの受信は900円でできますが、人工的にミューオンを発信することは結構大変です。ミューオンを人工的に発信させるためには超巨大な加速器が必要です。日本でこれができる施設は、私の知る限りでは筑波研究学園都市にある文部科学省の高エネルギー加速器研究機構(KEK)しかありません。KEKの円周3000mの巨大加速器を稼働させる必要があり、数十人の研究者が張り付く必要があります。当然稼働には膨大な電力が必要です。多分・・・900円では・・・無理そうですね。
(注)https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2303/04/news045.html