「俺達の子供の頃はハモニカだって買ってもらえなくてさ」
「毎日毎日働いてさ」
ここで私のスイッチがぱちんと。
「戦後の日本なんてさ そりゃ貧しくてさ」
「一生懸命 働いて 働いて だだ働いてさ」
<ハモニカ>
「一生懸命働いたって 同じように働いたって
金持ちになるもんもいりゃぁ 貧乏人は貧乏人のままでさ」
<ハモニカ>
「気がつきゃ 70越えちゃって」
<ハモニカ ハモニカ>
「昭和30年代の日本なんてずいぶん暮らしが楽になったってさ」
「戦後に比べりゃずいぶん豊かになったよってさ」
「あの頃そう思ってたけどさ」
<ハモニカ>
「映画観てみりゃ なんだいあの頃あんなに貧しかったのかい
なんて思ってさぁ」
<ハモニカ ハモニカ ハモニカ>
「でもさ」
「貧しかったけど 豊かだったんだよな」
<ハモニカ ハモニカ ハモニカ ハモニカ
ハモニカ ハモニカ ハモニカ・・・・・・>
個展3日目
カウンターに座った70代の男の人が話してくれる。
「オールウェイズ」の映画の事を話していた時に。
・・・。
私は忘れてはいけないと思う。
日本をここまで豊かにしてくれたたくさんの人たちを。
裸電球ひとつ ちゃぶ台ひとつ。
「手元が暗くちゃ勉強も出来ないさ」って
働いて蛍光灯ひとつ買う。
「家の中 ぱぁーと明るくしよう」って
また働いて働いてマイホーム。
明るい我が家。
働いて 働いて もっと明るく。
働いて 働いて 子供は高校 大学へ。
気が付いたら家の中は昼間みたいに明るくて、
真夜中だっていうのに部屋の四隅のゴミまで見える。
そんな暮らしにちょっとの疑問。
ランプを なんて 私言ってますけど。
働いて 働いて 働いて
こんなに明るくしてくれた人たちがいる事を
忘れちゃいけないって自分に言い聞かせて
明るすぎるのに何が悪い。
働いて働いて働いて明るくしたのが何が悪い。
振り子のように心は動くけど。
だけど やっぱり 私は 小さい電球の
ランプを ひとつ。