小さな明かりが灯った。ろうそくの上で、頼りなく炎が揺らめいている。
「さあ、話を始めよう。これは、昔々のお話さ。
あるところに、双子の兄弟がいた。兄は誰よりも美しく、誰よりも神に愛されていた。弟も兄に負けないぐらい美しく、兄の次に神に愛されていた。
兄は周りの者達にもてはやされ育ったため、傲慢になり、自分なら神に成り代われると考えた。そして、彼は神に戦いを挑んだ。神は多くの使者を兄と戦わせ、兄は一人の使者との戦いの末、ついに敗れた。
兄を倒した一人の使者と言うのは、彼の弟だった。弟は兄を倒したことによって、誰よりも美しく、誰よりも神に愛されている存在になった。だが、弟は傲慢にはならなかった。なぜなら、本当に一番美しくて、誰よりも神に愛されていたのは、自分の兄だったからだ。
兄は幸せ者だ。堕ちてもなお、一番であったという事実があるから、永遠に一番でいることができるのだ。今も、ずっと幸せ者だ。」
炎が顔を照らした。微笑んでいるようだ。
「今も、幸せだろう?」
ろうそくが近づけられ、今度は自分の顔が照らされた。表情を窺っているのだろう。残念ながら、彼のように顔を綻ばせることはできなかった。
「そうかい。おやすみ、兄さん。」
ろうそくの火が消え、再び暗闇の中に閉じ込められた。