水彩画と聞くと、水で滲ませた水彩画独特の味ということが思いつく。
そして、水彩画講座とか、水彩画教室と言うと、かならず、そのような薄らとした
軽い絵を教える。そこに、私は疑問符を打ちたい。
本格的な水彩画を知らない人があまりにも多いのである。
実は、水彩画でも油絵に負けない描き方ができる。それを多くの人は知らないので、私が教えている生徒の絵を見ると、みんな同じように「これ、水彩画ですか?」と言う。「油絵かと思いました」と。そして、「水彩画でもこのように描けるのですか?」と意外だという反応をする。
水彩画が、油絵のように描けるということを証明したのは、だれが最初だろうか?私は中西利雄さんという画家の絵を見て、油絵のような感じを知った。そして、その後の流れで、日展の水彩画家だった小堀進先生や古川弘先生を見ている。
私は古川先生の弟子だから、その流れで、単なるあっさりの水彩画ではない水彩画を当たり前のように知っていた。
しかし、世の中を見ていると、どうしてもお遊び程度の水彩画が大半を占めている。
そして、それらは、とても油絵には敵わない弱いものばかりである。
絵手紙、色紙、本の挿絵程度なら、それでいいのだが、本格的に絵を描きたいという人には絶対に適さないものある。それを知らないで、本格的に描いている気になっている人を見ると知らないということは、かわいそうだなあと思ってしまう。
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ただ、薄塗りでも、先日ここで紹介した中村先生の絵になると、油絵と変わらない。そういう名人みたいな人は確かにいる。中村先生の絵は近づくと割とあっさり塗っている絵がある。しかし、ものすごい迫力で迫って来る。だからあっさりお茶漬けというような絵ではない。
ということは、たんなる薄塗りではないということである。
私は、水彩画でもこのような描き方ができることを世の中の人に知ってもらいたいと思う。
どうしても、お遊び程度の絵が流行り過ぎている。
老後の暇つぶしにやるのだからとはっきりそう決めてやっているなら仕方がないが、私は60代70代の素人に本格的な絵画を教えている。水彩で油絵を負かしそうな絵を描いている。
私の考えは、どうせやるなら、本格的に教えてもらってほしいと思う。教える先生もお遊び程度で終わらせない指導をしてほしいと思う。
絵を楽しめればいいというのも、分からなくもないが、しかし、やり始めれば段々上手くなりたいとか良い絵を描きたいという気持ちが出てくる筈である。その要求に答えてやれる指導をしてもらいたいと思う。
水彩画についての、私の思いを描いてきたが、そんなに本格的にと言うなら、油絵を描けばいいじゃないかとおっしゃる方がいるだろう。確かにその通りである。
しかし、とっつきやすさ、扱いやすさという点では、水彩画は優れている。
手軽に外でのスケッチには、油絵よりも扱いやすい。油絵具は慣れないと衣服を汚す。洗っても落ちない。その点は水彩画は素人にはばっちりである。
私は、水彩でも油でもアクリルでも、材料が違うだけでみんな同じように描けるということが言いたいのである。
それを、水彩画はこういうふうにあっさり描くんだよと教えている人に、それが当然だという教え方をしてほしくないと言いたい。
また、そのあっさりの水彩画は、ほとんどが画面の端が抜けている。中央だけ描いて、周りは消えて行くような描き方を教える。だから挿し絵程度の絵になる。
本格的な絵画は画面の外まで描くくらいの描き方が必要だと私は考える。
最後にもう一つ、透明水彩の良さは、紙の白さを生かすことだと思う。それは、私も認める。いろいろごたごた塗ってしまうと、その絵具の発色の良さが出てこない。曇ってしまうのである。或る程度の密度を持った絵具で、白い紙の上に一発で着けた発色は、その後、重ね塗りをしたのでは、もう二度と出てこない。それを私は分かっている。
ただ、紙の白さを生かすということは、そういう意味であって、白い紙を塗り残すことではない。
どうも、あっさりの水彩画教室を見ていると、全体が白けている絵が多い。それは、全てに紙の白さが残っているからである。空にも、地面にも、木々の間にも同じ白さを感じてしまう。私が教えるなら、「それは、白けていると言うんですよ」と皮肉をこめて言ってやる。
薄塗りでも、油絵に負けない描き方ならいいが、どうも軽くて吹けば飛ぶような水彩画ばかりが、世の中の常識のようになっていて、私は不満である。もっと、本格的な水彩画があることを世の中の人たちに知らせたいと思う。