生物にはES細胞というものがあります。ES細胞は分化前の(心臓や血管などの細胞に変わっていくことを分化といいます。)細胞でどんな細胞にでもなれる細胞です。ですからこの細胞があれば傷ついた体を再生できる可能性があるのです。(たとえば心臓を作って移植するとか) ところがこのES細胞は、受精卵が分裂し分化していきますが、その分化前の細胞のことですから、育てれば人(人の受精卵の場合)になることを考えると自由に実験に供することができないのです。しかし京都大学の山中伸弥教授がマウスの体細胞からES細胞と同じ機能を持つ細胞を作り出したのです。これをips細胞といいます。これで倫理問題は一挙に解決しました。自分の体細胞をips細胞にし、心臓を作って自分に移植することを悪いことだと思う人はほとんどいないでしょう。これは奇跡的なことでした。誰もがそんなことができるとは思っていなかったのですから。ところが山中教授が実現すると瞬間的に広まってしまいました。山中教授が成功した時はすべては山中教授が握っていたのですが、今ではips細胞の研究フィールドの0.1%も握れていないでしょう。しかしこれからどれだけ技術が進歩しようと貢献度は山中教授が最大です。はじめてやった人が貢献度が一番大きいのです。特にそんなことができないと思っている中にあっては。その多くの研究フィールドの中でがん細胞からips細胞を作ることに成功したところが出てきました。ハーバード大学の森口尚史さんが属しているチームです。(がん細胞の正常化のところで書いたチーム) 森口さんのチームは、がんのできる原因を追究し、がん細胞の正常化と、がん細胞からips細胞を作り出すことに成功したのです。大きな「夢の技術」の宝庫の扉を開いたのは日本人なのです。 そしてさらにがん細胞の正常化という新しい治療分野を開いたのも日本人です。誇らしい限りです。
森口尚史(ハーバード大学研究員)が所属するチームががん細胞を正常化する手法を開発しました。マウスに肝がん細胞を移植して肝がんにした後、アデノウイルスにがん抑制効果のある遺伝子を組み込み、がんの正常化を進める物質とともに患部に投与したところがん細胞の85~90%が正常化したということ。今までの治療ではがん細胞を取り除くか、殺すということしかやっていませんでした。それが元に戻すという治療法が視野に入ってきたわけで画期的なことです。もともと細胞には遺伝子を修復する作用があって、傷ついたDNAに対して、酸化したところは還元し、変な化合物が付けば取ってしまい、切れたところは繋ぎ、欠損したところは反対側のDNAをコピーして挟み込んだりといろんな方法で修復し、細胞が異常化することを防いでいます。修復が及ばないとその傷ついた細胞が増殖しないようにしますし、それができないと自殺させて生体を守っています。しかし、それもかなわないと細胞ががん化してしまいます。この修復作用は精神の影響を受けるらしく、くよくよしたり、悩んだりすると弱まるらしいので人生を楽しむことががんにならない秘訣かもしれません。それはそれとして、がん細胞を90%まで正常化できたということは100%できる可能性が高いということです。正常化できなかった理由を取り除けばよいだけです。それだけでもかなりうれしいニュースなのに、またまた日本人が絡んでいてとても誇らしい気分です。