難病進行性骨化性線維異形成症(FOP)という難病がある。筋肉や靭帯が骨に変わっていく病気である。遺伝子がおかしくなっているために起こる。そこで患者の細胞から作製したiPS細胞を使い、病気の原因遺伝子を修復することで治療しようというものである。京都大や名古屋市立大のチームがこの研究に取り組み成果を上げている。修復された細胞は軟骨組織ができにくいことが確認できたそうである。
妻木範行 iPS細胞研究所(CiRA)教授の研究グループは、松田秀一 医学研究科教授の研究グループと共同で、ヒトiPS細胞から軟骨細胞を分化誘導し、そして硝子軟骨の組織の作製に成功しました。これまでは軟骨細胞の分化までは報告されていました。しかし硝子軟骨の作製はできていませんでした。この硝子軟骨組織を免疫不全マウスへ移植して3ヶ月間安全性を確認したそうです。さらに、免疫不全ラットの関節に移植して、隣接する生体内の軟骨と融合することを検証されました。また免疫抑制剤を投与したミニブタの関節で1ヶ月にわたり生着し続けることも確認されました。
関節の軟骨が傷ついたり、すり減ったりして膝関節痛を起こすことがよくあります。軟骨は再生しないため、傷ついたり、すり減ると自分の他の軟骨を移植したり、人工関節にするという治療をします。今回の成果はこれらの治療に代わる可能性があります。日本で生まれたiPS細胞、ずっと世界の研究をリードして行って欲しいものです。
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iPS細胞から心筋細胞などが作られている。その一歩先は臓器を作り出してしまうことだ。日本ではアプローチのステップとして、臓器全体ではなく、その一部つまりいろんな細胞を集めて機能する組織の作成に成功している。横浜市立大学先端医科学研究センターの谷口英樹教授がその人で肝臓組織を作った。すごい成果ではあるが、その作成方法がずいぶん粗っぽい。iPS細胞から肝細胞の前駆細胞を作り、そこへ血管となる内皮細胞、接着剤の役割を担う間葉系細胞の細胞を混ぜて培養する。すると、48~72時間で増殖し、網目状の血管構造を持つミニ肝臓組織となったのである。言葉に表れていない困難があったことが予想されるが、必要そうなものを一緒に培養したらできちゃった、という感じがする。科学の進歩は、論理的な思考より行動の方が速いということがよくある。これもその一つのような気がする。まずやってみよう、から始まるのだ。これで再生医療が全く変わってしまいそうだ。
国立成育医療研究センターは10日、ヒトのiPS細胞から「軸索」と呼ばれる神経線維を持つ視神経細胞を作製したと発表した。これは世界初のことである。この視神経細胞を使って、緑内障に伴う視神経の障害や視神経炎などの治療薬の開発が可能となる。
発表によると、iPS細胞のかたまりを培養し、約1カ月で視神経細胞に分化させる方法を確立したと言う。どういう刺激をどのように与えたら視神経に分化するのか興味深いところである。すべて外的な刺激で分化をコントロールできたのならまたノーベル賞だな。でも違うだろうな。そんなことができたのならそこが発表の中心になるはずだ。たしか報道では、平面的な培養とか立体的な培養とか書いてあったが、そんなことで特定の分化が選ばれるとはとても思えない。
でも視神経細胞ができたのだから、再生科学の方へ発展させてほしい。
英ケンブリッジ大とイスラエルのワイツマン科学研究所の研究チームが、人のES細胞、iPS細胞から精子や卵子の作成に成功したと「CELL電子版」に発表した。因みにマウスでは京都大の斎藤通紀教授らが成功している。研究チームの話によると、人の場合には、マウスの場合と違って、SOX17という遺伝子が重要な役割を担っているとのこと。
生物の体験が進化を促すという立場をとると、経験しているのは普通の体細胞であるので、それを生殖細胞に伝える必要がある。遺伝子によって、体細胞が生殖細胞に変わるのであれば、遺伝子によって体細胞の経験を生殖細胞に伝えるのもそう難しくないはずだ」。僕の立場を少しサポートしてくれたような気がする。
筋ジストロフィーは、遺伝子異状によってジストロフィンという筋の膜機能を維持するたんぱく質を作れないために筋繊維の収縮と筋力低下が起こるという病気です。ですからジストロフィンを作り出す遺伝子を患者の遺伝子に組み込んでやれば治ることが予想されます。言うのは易いと言われるかもしれませんがこれに成功した人がいるのです。鳥取大の押村光雄教授、香月康宏助教授らです。若干違うところは遺伝子に組み込むのではなく、筋ジストロフィー患者の皮膚細胞にジストロフィンたんぱく質をつくる遺伝子を組み込んだ染色体を入れ正常に働くことを確認したのです。さらに患者のiPS細胞を作りだし、ジストロフィンたんぱく質をつくる染色体を入れ、そのiPS細胞がジストロフィンたんぱく質を作れる筋肉細胞に分化誘導されうることを確認したのです。今まで有効な治療法がなかった筋ジストロフィーですが治療法が確立される可能性が高くなってきました。
東京医科歯科大の安田賢二教授と山梨大の杉山篤准教授らはES細胞から作成した心臓細胞に電極を装着し、電気信号を計測できるようにした上で不整脈を引き起こす薬剤を投与し、不整脈を引き起こすかどうかを判定できる波形の検出に成功したそうです。不整脈を引き起こす薬かどうかを人体で実験するわけにもいかないので従来は動物実験に頼っていたのですが、やはり人間と動物とは違い臨床試験や販売時に不整脈を引き起こすことが分かり、ストップがかかることなどがあったらしい。これを人のES細胞から作った心臓細胞で事前チェックできれば副作用の危険性回避や経済的なリスクを低減できる。またES細胞のかわりに人の体細胞から作成できるips細胞を用いて心臓細胞を作れば倫理問題を回避するとともに飛躍的に実験数を増すことができ、多くの副作用の事前チェックが可能となります。なかなか楽しみな研究です。
重症心不全患者の治療は心臓移植や人工心臓の装着が主要な治療であった。これに対して京都府立医大の松原弘明教授の研究グループは心臓幹細胞の心臓への移植という新しい治療法の臨床試験に年内にも入ると発表した。心臓肝細胞というのは心臓の細胞を作り出す細胞で、臨床試験においては本人の心臓幹細胞を取り出し、約1ヶ月培養後注射により心臓に移植し、それに心筋細胞へ分化を促すたんぱく質を加えるというものである。これによって心筋の収縮力を10%増大させることを目標としている。目論見通りに心臓が機能を回復すれば、移植や人工心臓などより安全で治療費の安い治療法になる。豚の臨床試験では心臓の収縮機能が14%改善したということである。人間においても早く成功してほしいものである。