困窮してる人には住む家を与えますよ。仕事が見つからない人には半永久的に生活保護をだしますよ。子どもができたら人数分の補助金をあげますよ。の英国は、その福祉システムのもとで死ぬまで働かず、働けずに生かされる一族を産み出してしまった。
働かずに生かされているアンダークラスの人たちは、都市の一角に集住させられている。その環境で育った子どもたちには、労働という概念そのものが欠落してしまう。
決まった時間に寝て、決まった時間に起きるとか、朝起きたら顔を洗って歯を磨くとか、外に出るときは見苦しくない服をきるとか、近所の人に会ったら挨拶をするとか、そういう基本的な生活習慣そのものが身に付いていない子どもたちが集団的に生まれて来た。
彼らに社会的上昇のチャンスはありません。第二次世界大戦後、英国労働党は、「ゆりかごから墓場まで」というスローガン掲げて手厚い社会福祉政策を推し進めた。
マーガレットサッチャー首相が「自らを助けようと意欲ある者しか政府の支援を期待すべきではない」と、政府から支援を求めるなら、「自分がこんな貧乏になったのは自己責任で、政治が悪いわけでありません」と誓言させて恥じ入ることを強いたのである。
自分で自尊心を棄てた人たちに、周囲の人間が敬意や親愛を示すわけがありません。サッチャー政権以後、福祉の受給者たちはそうして国民的な差別と蔑視の対象になった。
英国のアンダークラスというのは、この「自己責任で貧乏になりました」とカミングアウトする代償に生活保護を受けて、それによって国民的な差別と蔑視の対象になった階層のことである。彼らは労働していないので「労働者階級」でさえない、そのさらに下に位置付けられている。
前回述べたベーシックインカム制度を論じるときに、忘れてはならない論点なのである。『アンダークラスを決して生み出さないような社会福祉制度を整備すること』が重要なテーマです。
米国でも、コロナによる失業者救済のために、現金支給をする法案が連邦議会で議論されている。でも、いずれも条件付けがあり、継続的ものではありません。これはベーシックインカムとは言わない。
それに、アメリカ人の人たちの議論を読んでいると、悪いけれど、福祉制度が人間の心にどういう影響を及ぼすかを考えている人はいません。金と費用対効果の話しか出てこない。
だから、仮に米国でベーシックインカムが導入されてもうまくゆかないと思う。「自己決定、自己責任」を世界一重く見る人たちに「福祉制度の受給者に屈辱感を与えてはならない」という話の筋道を理解させるのは至難の業だと思う。
長くなったので、また次回はドイツとフランスの話をしたいと思う。