逝きし世の面影

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地震でバージニア州ノースアナ原発(ベント)水蒸気放出

2011年08月29日 | 社会

『米原子力規制委員会(NRC)が原発非常事態「警戒」宣言』

8月23日米バージニア州を震源とするM5・8の地震発生を受けて、震源から約20キロの距離にあるノースアナ原子力発電所(2基)で外部電源が全て喪失。
原発は自動停止してディーゼル発電機が起動したが、この非常用のディーゼル発電機4基のうち1基は、起動後に停止(故障)。
米原子力規制委員会(NRC)は、メリーランド州からメーン州に至るリージョン1地区の8ヶ所の全ての原子力発電所に対して、NRCで4段階の緊急事態の分類で一番低い『異常事象』を宣言している。
震源地に近い、ノースアナ原子力発電所に対しては、米原子力規制委員会(NRC)は原発非常事態を4番目のレベルの『異常事象』から、1段階上げて3番目の『警戒』を宣言する。

東部時間23日午後1時50分首都ワシントンに近いバージニア州を震源とする地震のマグニチュード(M)5.8、震源の深さは約5.9キロ。
米地質調査所(USGS)によると、東海岸で起きた地震としては67年前の1944年のM5.8、114年前の1897年のM5.9と並び過去最大級だという。

『ノースアナ原子力発電所1基がベント開始』

ノースアンナ原子力発電所は、冷却水用に人工湖を持つウェスチング・ハウス社製の加圧水型原子炉で、1号基は運転開始が1978年2号基が1980年で臨界後30年以上も経つ老朽原発だが、1979年3月28日のスリーマイル島原子力発電所事故以後に建設された原発は無いので、アメリカでは最も最新型である。
高さ120メートルの排気塔を別個に設置している日本の福島原発とは違い、格納容器の圧力を逃がすベントは格納容器本体から直接行う仕組みである。
水蒸気を放出するドーム様のものは原子炉格納容器の本体で、加圧水型(PWR)は放射能に汚染された一次冷却水が格納容器内に常時閉じ込められているので、沸騰水型原子炉 (BWR) のようにタービン建屋で遮蔽する必要が無いとされている。
ニュース報道の映像では、ノースアナ原発2基中の1基で、ベントによって50~60メートルの高さまで大量の水蒸気を放出している様が観察されている。
炉心停止後の緊急冷却装置が正常ではなくて原子炉圧力容器が加熱して圧力が急上昇、通常なら1気圧の格納容器内が圧力限界に近づく異常事態なので、水素爆発を避けることと減圧の為にベントしているので、何らかの緊急事態が発生している模様である。
勿論原子力発電所側は『現在放射性物質が漏れていないので安全である』としているが水蒸気を放出してもベントのフィルター機能が完備している為だろうか。
ただアメリカの老朽した原発では、今までも放射能の外部流出は頻繁に起きていた。
2010年2月のAP通信によればアメリカ国内の原子力発電所104基中少なくとも27基で放射性物質が地下に漏れていると報道していた。
アメリカの原子力規制委員会(NRC)によると、バーモント州にあるバーモント・ヤンキー原子力発電所( 65万キロワット73年2月28日運転開始 )ではアメリカの安全基準の3倍以上の1リットル当たり7万500ピコキュリーの放射性物質は地下のパイプや使用済み燃料プールから漏れ出している。

『沸騰水型原子炉 (BWR)マーク1の福島第一原発のベント』

日本の3・11の原子力発電所事故では、アメリカは20年以上前の80年代から福島第一原発の1~5号基に使われているアメリカGE(ゼネラル・エレクトリック)社製マーク1型の致命的な脆弱性は判っていた。
GE製マーク1型原発では経費節減の為に基本的に格納容器が小さすぎて、漏れた水素などを溜めておく余裕がまったく無い。
原発メーカーのGE社は水素爆発を避けるため、仕方無しに基本設計を変更してベントを新たに付け加えるのですが、勿論この危険情報は日本にも連絡する。
ところが日本の電力会社では、高温高圧に耐えうる放射能フィルターが高価なのと大きいので場所を食う(目立つ)との理由でベントの配管を設置しただけでフィルター装置の設置を省略して誤魔化す。
フィルター無しなので、実際にベントすると放射能が外部にダダ漏れ状態で大変なことになることを原発関係者は知っていた。
日本政府からのベント要請に福島第一原発側では『放射能流出で大騒ぎになる』と判っていたので、ただちに実施する決断がなかなかつかない。
結果、東電側は政府のベント実施要請にも躊躇(無視)して実施せずにやり過ごして、痺れを切らして怒った官直人自らが、ベント実行のために日本国の最高責任者の首相直々に福島第一まで出張っていく前代未聞の異常事態に発展する。
首相まで出てくるので東電は仕方無しにベントを行おうとするが、そもそもこのベントは、アメリカの様には使う予定が全く無い代物だった。
停電すると動かない仕組みだったのですから、無茶苦茶。
不真面目の極みである。
全電源喪失するからメルトダウンが起きるのでベントする必要性が生まれるとの、肝心な話が完璧に忘れられている。
日本の電力会社の設置したベントとはアメリカとは大違いで、『電源が原発に正常に供給されている』との、基本的にありえない認識(前提)でのベントだったのです。
これでは、世界に無く日本だけにあるレストランの本物そっくりの食品見本と同じで、見かけ上はベントなのですが実際に使うことは全く考えていない『何ちゃってベント』か『ベントそっくりの見本品』たったとは情けない。
日本では『ベントを使う』との発想が無いので、ベントの実施には社長や会長など東電最高幹部の承認が必要であったらしいのですよ。
ところがアメリカではベントは『使うために用意している』ので、その実施も現場の作業員の判断に委ねられている。
GM社に言われて日本側が設置したベントとは食堂の前に必ず飾ってあるが、絶対に食べることが出来ない料理見本と同じで、基本的に本物ではなくて紛い物のインチキであったのです。

『ハリケーンでも原子力発電所の非常事態宣言』

のんびりしていた昔は寺田寅彦の格言どうりに『天災は忘れた頃にやってくる』が、世知辛くて忙しい現在では『忘れる暇も無く連続して襲ってくる』から余計に恐ろしい。
米東部では23日の地震でバージニア州ノースアナ原発2基が外部の全電源喪失で緊急停止するトラブルがあったばかりだが、4日後の27日夜に東海岸を襲った大型ハリケーン「アイリーン」の影響で風に飛ばされた瓦礫が変圧器を直撃し、メリーランド州のカルバート・クリフス原発1号機(加圧水型、87万キロワット)が緊急停止した。
また、ニュージャージー州の現役ではアメリカ最古で42年前の1969年操業開始で福島第一原発と同じMark 1型の沸騰水型オイスタークリーク原子力発電所の原子炉を停止。
米原子力規制委員会(NRC)の広報担当官は『ニュージャージー、コネティカット両州の沿岸に近い原子炉では、必要な際に迅速かつ効果的に原発を停止できるよう、原子炉の出力を下げ始めた』と述べた。
NRCは前回23日に続き、4段階の原発非常事態宣言で下から2番目に低い『警戒』態勢を宣言する。
(『警戒』レベルではなくて一番低い最下位の『異常事象』との報道もある)
そもそも『原発非常事態宣言』は、滅多にないから非常事態と呼ばれているのであり、いくら最下位レベルでも原発非常事態宣言が連続するなどは本来有ってはならない。
32年前の1979年のスリーマイル島事故以前に建設されていて、原子炉配管が老朽化したアメリカの原発の寿命が、とうとう尽きかけているのだろうか。
数日おきに原発非常事態宣言が連続発令される異常事態に、NRC(米原子力規制委員会)は『フクシマとは違う。』と公式ブログで発表し不安を抑えるのに躍起になっている。




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4 コメント

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無謬の恐ろしさ… (青い鳥)
2011-08-30 07:03:49
>日本の電力会社では、高温高圧に耐えうる放射能フィルターが高価なのと大きいので場所を食う(目立つ)との理由でベントの配管を設置しただけでフィルター装置の設置を省略して誤魔化す。
>全電源喪失するからメルトダウンが起きるのでベントする必要性が生まれるとの、肝心な話が完璧に忘れられている。
どこの工場にも、『安全第一』と良く見えるところに書いてありますが、日本の原発は、人為的に危険に作られているんですね…。これは、まさしく、「官僚の無謬」と同じく、「安全神話(原発の無謬)」に、とり憑かれた‘恐さ…’ですね。『原発は安全なもの、万が一もありえないのだから、高額な安全装置など設置する意味がない。』という発想なのでしょうね…きっと。だから、一旦、不慮の事故が起きると、マニュアルがないし、飾りものの装置など役に立つ訳がない…、上層部は己に責任の火の粉が降りかかるのを恐れ、情報の隠蔽に躍起になる。手に取る様にわかりますね…。 やはり、一刻も早く、東電に司直の手を入れ、責任追及と更なる情報の隠蔽を防ぐべきと思いますね…。けど…昨今の日本の司法もあてにはならず…、どうしたものでしょうかね…この国は…。

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それでも世界は原子力を推進する様子を見せています (はむゆき)
2011-08-30 09:24:27
アメリカやフランスは原子力発電に限らずプランAやBやCというように幾つかの想定プランを配慮し、日本はプランAだけで良しとする傾向が強いといわれます。とはいえ、アメリカの原子炉104基やフランスの59基が事故を起こせば、プランがいくつあっても足りないと思いますが。事故前の傲ったリスク管理も世界に誇るハイテク国家、日本の事故後の情けない対応、特にがれき焼却や福島のこどもを避難させていないことにも失望という言葉しか浮かびません。隠蔽はどこの国でも多かれ少なかれあるでしょうが、うまく隠蔽されればされる程、一般にはあまり聞こえない為、「無いこと」と混同しやすくなるのだと思います。
こんなことになっても世界はまだ原子力を推進する様子を見せています。破壊できるところまで最後の最後まで突き進むのでしょう。
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100%の人災 (宗純)
2011-08-30 16:24:30
青い鳥さん、コメント有難う御座います。

福島第一原発事故ですが、段々事情が判ってくれば来るほど人災であることが明らかに成っています。
一番の問題点というか、事故原因ですが矢張りこれは『安全神話』自体ですよ。
ベントの放射能フィルターですが、巨大らしいのですね。実際に設置すると目立つのですよ。
フィルターやベントは過酷事故の発生は前提にしているのですが、日本で過酷事故は絶対に起きないとの大原則(原発安全神話)があるのでが、矛盾する。
ですから都合が悪い。
ベントは原発メーカーGEの指示なので従ったが、フィルターは絶対的な指示命令ではなくてオプション(各電力会社の責任)なので、これは原発安全神話から逸脱するので造られることはなかったのですね。
原発を見学に来た誰かに、起きる筈のない過酷事故発生時のベントの秘密を知られたくなかった。ベント配管自体は原発はそもそも配管の塊なので何とでも言い逃れできるが巨大なフィルターは無理があったのでしょう。
ノースアナ原子力発電所のベントで気が付いたのですが、福島第一原発にあった巨大な120メートルもある排気塔(煙突塔)が無くて、格納容器から直接排出しているのですね。
原発ですが、火力発電ではないのですから排ガスは絶対に出ないのですから本来この排気塔の意味は何だったのでしょうか。
多分原発メーカーに言われて設計図どうりに設置しただけで、本来の恐ろしい意味(メルトダウン時の排出)を判っていなかったか、一番最初には聞いたのですが時間が経って完璧に忘れ果てたののですよ。
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このままでは短期間で全廃に成るアメリカの原子力発電 (宗純)
2011-08-30 16:46:26
はむゆきさん、コメント有難う御座います。

何処の国でも原発の隠された目的である核兵器の誘惑に魅力を感じる困った勢力がいるのですが、実際問題として世界最大の原発大国であるアメリカでも、スリーマイル島原発事故以後新規の建設は1基もありません。
ですから最新式でも32年前の老朽原発であり、福島の惨状を見れば地元の反対で新規建設は絶対に不可能ですよ。
それなら自動的に日本よりも余程早く、10~20年程度全てのアメリカの原子力発電は停止します。
欧州でも25年前のチェルノブイリ原子力発電所事故以後は新規の建設は困難で、実質的に中国とか日本とかしか建設していないのですね。
スリーマイル島事故時点での我が日本国の原発の
数は21基でそれ以降に33基が建設され54基も増えて仕舞ったのです。
フランスが国策会社のアレバの1社だけなのですが、日本はアメリカの原発メーカー大手のウェスティングハウス・エレクトリック (WH)を東芝が買収するし、日立製作所とゼネラル・エレクトリック (GE)、アレバと提携する三菱重工業と3グループもある。
乱立状態といっても良いでしょう。
原発メーカーですが、これは合同して1社体制にして原発の建設ではなくて、今後は処理技術にこれからの活路を見出して欲しいものですね。
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