逝きし世の面影

政治、経済、社会、宗教などを脈絡無く語る

インフルエンザ問題(メモ)

2009年05月19日 | 社会
『健康観察の対象が東京都内で1万人』

舛添要一厚生労働相も出席した18日の全国知事会議では、大阪府の橋下徹知事が「休校をずっと続けるわけにはいかず、対応にかじを切らないと大阪はもたない」と主張。
感染者が未確認の地域からも「健康観察の対象が東京都内で1万人もおり、水際対策の担当者を国内対策に回したい」(東京都)、「新型インフルエンザは災害事象ととらえ、医療従事者の万一の手当てを考えてほしい」(鳥取県)などの要望が出された。



『人為的なミスで発生した可能性』

世界的に感染が広がっている新型インフルエンザのウイルスについて、オーストラリアの著名な学者が「人為的ミスによるもの」との仮説を主張し、世界保健機関(WHO)が否定する騒ぎとなっている。 

仮説を発表したのは、抗ウイルス薬タミフルの製造につながる研究に関わったエイドリアン・ギブス氏(75)。
ギブス氏は、ウイルスがニワトリの卵の中で研究用に培養されたときか、もしくは、ワクチン製造中に偶然出来上がった可能性が高いとして、「(感染が拡大したのは)研究所から流出したからだ」などと主張した。
新型ウイルスの激しい突然変異ぶりをみて、「人為説」を確信するに至ったという。
ドイツ通信(DPA)などによれば、ギブス氏はこれまでの39年間、首都キャンベラのオーストラリア国立大学などで、250本以上の専門論文を書いてきた。
ウイルス界の権威が主張する新説だけに、感染の原因などを調査してきた医学界は一様に色めき立った。

『WHOは否定』

この説を先週受け取ったWHOはその後、世界各地の研究機関関係者や科学者に照会。
その結果、「仮説は十分には立証されなかった」(WHOのケイジ・フクダ事務局長補代理)という。
フクダ氏によると、この研究者が信用できるウイルス専門家であることなどから「仮説」を受け取った先週末以降、日米欧などの五都市にあるWHOの「協力センター」や国連食糧農業機関(FAO)などの機関に、仮説に対する評価を依頼した。
その結果、新型ウイルスが、ウイルス培養やワクチン製造に使われる鶏卵で人為ミスにより発生した可能性があるとする、仮説の根拠は乏しいとの結論が出たという。(共同)









『インフルエンザワクチン用検体の提出を途上国は拒否』山本敏晴の日記2009年05月08日(抜粋)
http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65254930.html

今回の新型インフルエンザが、鳥インフルエンザ(H5N1)の蔓延している途上国に侵入した場合、人(または豚)に、この両者が同時感染する可能性があり、その時、細胞の中で、遺伝子の組み換え(遺伝子再集合)を起こし、強毒性の新型インフルエンザが誕生する可能性があること。
もう一つの問題が、今回の題名になっている、途上国が、鳥インフルエンザ・ウィルスの、ワクチン製造用の検体を、WHOをはじめとする先進国側に提出することをなんと「拒否」していることだ。
(最初、上記の話をきいた時、私は、とんでもない!、と思ったのだが、途上国の言い分を聞いてみたところ、納得せざるを得ない状況だった。
実は、とんでもないのは、先進国のほう、だったのである。以下、要熟読。)



★インドネシアのシチ・ファディラ・スパリ保健省大臣の言

『ワクチンを作る技術は、先進国しか持っていない』
『私たち(途上国)が、ウィルスのサンプル(検体)を提供しても、先進国の製薬会社で、先進国の人たちのためにワクチンが作られるだけで、私たち、貧しい途上国には、まわってこない。
WHOが、後で、ただ(無料)でワクチンをくれるわけでもないし、かといって、私たちで買おうにも、ワクチンが高額すぎて、とても買えない。
だから、絶対、WHOにワクチン製造用のウィルスの検体など、あげたりしない。
先進国にある製薬会社が、金儲け(かねもうけ)をするだけ。
それに協力する気なんか、さらさらない』

要するに、鳥インフルエンザが蔓延しているのは、
インドネシア、ベトナム、エジプト、などの途上国なのだが、そうした国には
ワクチンを製造する技術も、またできあがったワクチンを買うお金もなく、よって、WHOにウィルスの検体をわたしても先進国のためにワクチンが作られるだけで自分たち(途上国の人たち)のためには、なんの得にもならない、という状況が起こっているのだ。
(過去も、そうだったし、今も、基本的にそうである。)
だから、上記の、インドネシアの保健相・スパリ女史の言は、ごもっともである、とも言える。

もちろん、先進国側からみると、これは、とんでもないことである。
鳥インフルエンザ(H5N1)は、強毒性であり、死亡率60%以上を誇る。
特に、インドネシアの(ウィルスの)株は、死亡率80%以上だ。
もし、この鳥インフルエンザが、人から人への高い感染性を獲得し、また(今回のものとは違う)別の「新型インフルエンザ」となって世界を席巻した場合、人類は、とんでもないことになる。
スペイン風邪どころではない、1億を超える人々が亡くなってゆく可能性がある。
(これだけの被害が起きると、スペイン風邪の事例でもわかっているように世界経済も大きな影響を受け、株価も暴落する。)
などの理由で、鳥インフルエンザなどの人類の脅威となる「新興感染症」が発生した場合、WHOは、各国から24時間以内に、情報を受け取り、対策をたてるシステムを作った。
これを、「国際保健規則」(IHR)という。


1951年
WHO(世界保健機関)は「国際衛生規則」(ISR)作成。1961年、これを「国際保健規則」(IHR)と改称。
もともとは、黄熱病、コレラ、ペストの三つの疾患を対象としたものだった。
1997年
鳥インフルエンザの人への感染例が、香港で報告される。
以後現在まで、400人以上が感染、250人以上が死亡。死亡率60%以上。
2001年
アメリカにおいて、(アメリカ陸軍所有の) 炭疽菌を使った「バイオテロ」が起き、死者5人を出した。
2002年~2003年
中国などにおいて、SARS(サーズ)が流行し、約8000人が感染、約800人が死亡する。
2005年
WHO総会において、国際保健規則(IHR)改正案が採択。193カ国が参加した。





インドネシアの人口は、2億人以上で世界で第四位の人数を誇る。
で、鳥インフルエンザの人での発生件数は、インドネシアが一番多く、141例が感染、115人が死亡。
全世界における鳥インフルエンザの感染例は、人では、421例の感染、257人の死亡、なので、インドネシアの症例は、その3分の1を占める、ということになる。
また、死亡率も、8割以上と、非常に高い。

このため、WHOなどの諸機関は、インドネシアを非常に重要視しており、この死亡率の高い、H5N1株を、入手し、プレパンでミックワクチンなどを作る研究を
したいと思っていた。

しかし、2007年1月、インドネシア保健省の、スパリ女史は、WHOへのウィルス・サンプル(検体)の提出を拒否。

理由は、上述したように先進国にウィルス・サンプルを与えても先進国の人のために、ワクチンが作られるだけで途上国には、まわってこない。
(1)無料でワクチンをもらえることはなく、
(2)ワクチンを作る技術および資金をもらえるわけでもなく、(ワクチン製造工場を作ってくれるわけでもなく)
(3)高価なワクチンは、途上国の経済力では、買うこともできないのに、そのお金をくれるわけでもない。
(以上を、以下、スパリ女史の三つの条件とする。)

このような状況では、ワクチンの製造に協力することはできない、と言った。

2007年2月以降、WHOとインドネシアは、たびたびの会合をもち、上記の三つの条件をめぐって論議が続いていた。
なんどか、合意に達した、と報道がでたのだが、その後すぐに、「WHOは、約束を守っていない」として、インドネシアは再び、ウィルスサンプルの提出拒否の
姿勢をとるようになり、その後また、合意にたっした、という報道が流れる、でまた、やっぱり拒否する、ということが繰り返されていた。
で、なんとこれが、現在まで続いているのである。



『状況は、少しは好転』

2007年4月
WHOの事務局長、マーガレット・チャン女史は、スパリ女史の三つの条件のうちのいくつかを満たそうと、製薬会社たちと交渉を行った。

具体的には、ワクチン開発メーカーの大手である、グラクソ・スミス・クライン社(GSK)と、ノバルティス社を訪問し、ワクチンの開発に成功した場合、インドネシアを含む途上国への無償(または安価)での、ワクチンの提供を、お願いした。

(もし、このワクチンの製造に成功した場合、莫大なお金が、製薬会社に転がりこむので、そのくらいの出費をしても、「黒字」になるはずだ、という概算もあったはず。)
しかし、すぐには、良い返事は、もらえなかった。


すると、2008年6月、インドネシアは、今度は、もう、今後、インドネシア国内で、鳥インフルエンザの人での発症例がでてもWHOに、6か月に一度しか、報告しない、と言ってきた。

これは、発生した場合、24時間以内に報告しなければならない、とするWHOの国際保健規則 (IHR2005)に、明らかに違反する言動である。
このため、欧米などの先進国から、大きな反発があった。

『もし、鳥インフルエンザ(H5N1)のパンデミックが起こったら、明らかにインドネシアのせいだ!その時、どう責任をとるつもりなんだ。
しかも、2005年に、IHRを改正した時に合意した、193カ国の中に、インドネシアもいたじゃないか!
罰則がないとはいえ、国際社会のルールを守れ!
もしも、これが、ワクチンを無償でもらったり、ワクチン製造工場を作ってもらうための脅迫(政治的策略)だとしたら、逆効果だ。こんな、ならずもの国家に、協力する国は、逆にいなくなるぞ!』と、



『インドネシア側の言い分』

国内の鳥インフルエンザの発生件数を、WHOに報告しても(直接的には)インドネシアには、なんのメリットもない。
逆に、デメリットは、はっきり、ある。
WHOに報告すると、
1.インドネシアのイメージが悪くなり、観光産業や、その他の輸出に関わる産業も悪影響を受ける。
2.鳥インフルエンザに対してインドネシア保健省はかなりの努力をしてきているのに感染者や死亡者の「数字が多い」というだけで、国際社会から、ボロクソに言われ、非難を受ける。
『これらの死亡者数を発表して、いったい、我が国にどれだけ得があるというの?』


2008年11月、
ワクチン・メーカーの大手、英国の、グラクソ・スミス・クライン社などがワクチンを現物で途上国へ提供する、というニュースが流れた。
このためのワクチンの備蓄の量としては15~30億ドル分、あるという。

これで、状況は好転するかと思えたが、そうでもなかった。
一つは、上記の備蓄量は、途上国で発生が予想される被害と比べた場合、その必要量には、まったく足りない量だったからだ。
またスパリ女史の三つの条件のすべてがこれで満たされるわけではない。
このため、インドネシアの鳥インフルエンザ・ウィルスのワクチン製作用の、サンプル(検体)提出問題は、現在も続いている。




側面1
今回の、豚由来の新型インフルエンザA(H1N1)において、WHOの事務局長、マーガレット・チャン女史は、今回の新型インフルエンザを「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」である、と明言した。
これを言った場合、WHOの加盟国は、国際保健規則 (IHR2005)に従うことになっている。
つまり、各国は、24時間以内に、症例の報告を行わねばならず、また、知り得た情報をWHOと共有しなければならない。
さて、インドネシアは、どうでるのか?

側面2
今年(2009年)の5月中旬からWHOは、定時の総会を行うことになっている。
最近、台湾と中国が、対立を軟化し、始めて、台湾が、オブザーバーとしてWHOの総会に参加できることになった。(中国が、ようやく許可した模様。)
このため、これは政治的に大きな意味があるため、世界が、新型インフルエンザで混乱している最中なのにWHOの総会は、定時どおりやる、とのこと。

側面3
2009年5月6日、マリー・ポール・キニーWHOワクチン担当部長は新型インフルエンザA(H1N1)のワクチン開発に関して、発表した。
今後、予定だが、5月19日に、ジュネーブにおいて、WHOの事務局長、マーガレット・チャン女史の主催によりワクチン製造メーカーが集まる会議を行う。
途上国への公平なアクセス(無償配布または安価な提供)が求められる模様。
また、これを行う姿勢として企業の社会的責任 ( Coporate Social Responsibility : CSR ) にも言及する。

側面4
現在、(先進国)各国の国際協力機関は、インドネシア国内にワクチン製造工場を作る可能性調査、などを行っている。
インドネシアには、国営の製薬会社があり、ここで、受精鶏卵を用いたインフルエンザ・ワクチンの製造開発が検討されている。
WHOは、インドネシアやベトナムなどにワクチン製造会社を作るためのシードマネー(元になる資金)を与え、季節性インフルエンザに対するワクチン製造事業は、一応、軌道にのりつつあるようだ。(?)
また英国の国立生物学的標準及びコントロール研究所(NIBSC)からワクチン製造のための弱毒化したウィルス株を提供することが検討されている。
日本でも、国際協力関係の各機関が、インフルエンザに対する包括的な取り組みの一つ、としてインドネシア等へのワクチン製造工場の設置・設営を「有効性」 ( effectiveness )と「実施可能性」 ( feasibility )について、計画中である。





先進国側も、インドネシア側もそれなりに、一理あることを言っており、世の中、どちらが正しいということもない。

国際協力も同じで、何が正しいのか、何がまちがっているのか、よくわからない中で、いかに、多くの人や国の意見を調整していけるか、ということが、その仕事の本質なのかもしれない。

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2 コメント

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こんにちは (アキラ)
2009-05-22 21:57:27
いつもTBいただいて、ありがとうございます。

新型インフルエンザには、先進国・途上国の格差問題も絡んできてしまうのですね。。。
あの、せっかくなので僕のところへのトラックバック、最新のインフルエンザ記事にもう一度送って下さいよ。
その方が、まとまって読んでもらえるように思いますので。 (^o^)
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
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アキラさんコメント有り難う御座います (ブログ主)
2009-05-23 10:28:17
アメリカでの模擬国連から帰ってきて関東地方で初めて患者を出した高校では電話が鳴りっぱなしで、全てが抗議?とか嫌がらせらしいですよ。
校長が記者会見場で涙ぐんで謝罪する始末。
こんな不思議な事は人質事件の自己責任バッシングと同じで、日本以外では有り得ませんよ。
諸外国に比べて日本の民度は高いと思っているが、こればっかりは関心しませんね。
『もしも自分が当時者だったら』との考えが少しも湧かないのでしょう。想像力の貧困と言うか、物事全体をみるマクロな視点が無いと言うか。実に嘆かわしい話ですね。
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