新型インフルエンザでカナダの市民社会、人心荒廃が深刻です。
- カナダ社会をおおう情緒的雰囲気ーフラストレーションにおおわれ、苦難、怒り、そして敵意へと発展。
- これをflu rageと呼ぶ。国中いたるところで、普段冷静なカナダ人がくしゃみを覆わない人を怒鳴りつけ、ワクチンクリニックで列を抜かそうとする人にキレ、政府やマスコミに怒りの投書を送りつけ、H1N1について意見が合わない友人を責め立てるということが起こっている。
- 「怒りの感情は、予防的行動につながることもある。しかし、破滅的にはたらくこともある。まさに、flu rageのように」とRegina大学心理学Gordon Asmundson教授。目の前の状況をコントロールできない無力感と、あいまい感(uncertainty)が組み合わさったような感覚である。不安とともに破滅的になる。
- 校正記者Tami Xanthakis氏は、ワクチン政策の基本的なところで憤る。「何をしたら良いか知らされずに岩の間に閉じ込められたようなものだ。政府はただ「黙って言うことを聞いて打て」と言ってるようなものだが、安心できるような知識は何ももっていない。
- 年金生活者Carlson氏いわく「いま2009年だ。なのに、迷信にとりつかれた人々がいっぱいだ。『生のタマネギを切って、家のまわりの溝に浮かべたらH1N1よけになるよ』といった類のメールをいくつ受け取ったことか。『ネズミの死骸をあんたの首のまわりにかけておいたら同じだけ効果があるぜ』と返してやったらギャフンと言ってたがね」と。
- カルガリー郊外の小学校長Dan Hoch氏は、特にワクチン接種サイトで、「心を萎えさせる(mind-boggling)」不足から親たちも教師たちも頭に血が昇っていると主張する。「生きるか死ぬかのような・・・なんで地方政府はちゃんとワクチンをやらないんだ!」「体育館を1日だけ貸切にしてワクチン接種すればいいじゃないか。お絵かきの日に出来て、なんで出来ないんだ」
- そして、健康に過敏になったカナダ人は、ジムで鼻をおおわずくしゃみする人から、おしゃべりしながら手洗い場を通りすぐる人に至るまで、怒りがとまらない。
- Lindsley Harris氏2児の母はこうブログに記している。「人口200万人の街にワクチン接種できる場所が10ヶ所だって! なんて頭の良い人(brilliant thinker)が考え付いたことでしょう。私の夫は、ワクチンクリニックの開店からたった90分後(!)に、品切れといわれて退散する羽目になりました」と。
なんとも気の重い話です。
ワクチン政策など、いくらかの部分は「カナダ政府・保健当局のトホホなお粗末ぶり」から来ているのは確かではあるものの、市民どうしがいがみ合う姿は悲しいです。迷信メールが飛び交ったり、学校で興奮したり、どうも日本人よりカナダ人の民度は低いのではないかと思わざるを得ない面も確かにありますが、教訓となる点もあります。
政府はただ「黙って言うことを聞いて打て」と言ってるようなものだが、安心できるような知識は何ももっていない。という発言には、リスクコミュニケーションの大切さが教訓として浮かび上がります。
社会心理学の初歩的な部分に、オルポートとポストマンの法則というものがあります。
流言・噂の量は、「重要さ」と「あいまいさ」の積であらわされるというものです。
http://blog.goo.ne.jp/tabibito12/e/03493b66c6bcd974b47aa5571eca4cec
「あいまいさ」が増えると流言が増え、ひいては社会不安の増大につながる。
だから、わかった事からちぎっては投げ式にどんどん情報発信してゆくことが重要だ。
これまで管理人を講演に呼んでいただけた地方自治体いくつかの皆さまには繰り返し呼びかけてきたところでありますが、日本人の民度の高さに安心するのでなく、しっかりとリスクコミュニケーションに取り組み、カナダ社会のような事態を招かぬよう引き続き気を引き締めていただければと思います。
ソースは10月30日付The Gazette↓
http://www.montrealgazette.com/health/Temperatures+rise+rage+explodes+across+Canada/2164557/story.html
Temperatures rise as 'flu rage' explodes across Canada