ジカウイルス感染症のリスクコミュニケーションが他のパンデミック(orそうなるかもしれないと思われたもの)と異なる難しさ。この週末開催された日本渡航医学会、meet the expertsという企画講演にて”つかみ”の部分で管理人が話させていただいた部分です。
Worse than thought
Scarier than thought
Risk higher than thought
More dangerous than thought
これらはジカウイルス感染症の報道に出てくる大見出しです。繰り返される比較級。
なんでジカの報道に比較級が多いのか。話題が小さく生まれて、どんどん大きくなるからです。頭の小さな赤ちゃんから、視覚を含め多彩な神経系先天性異常の話になる。蚊対策をやれば良かったはずが、性交感染が、さらに♀⇒♂も、はたまた濃厚接触者の感染@ユタ州とどんどん話が拡大します。これは、H5N1やH1N1やエボラやMERSやSARSやらとは明らかに正反対の方向性です。これまでパンデミック(あるいは、そうなるかもしれないと思われたもの)は、最初にガツン!とパニック状況が出て、その後だんだん話が落ち着いてくる方向性でした。H5N1で64万人死ぬことはなく、エボラが日本国内でバタバタ拡大することはなく、MERSも日本国内に入ってはこなかった。対してジカは・・・
ここにジカの難しさがあります。従来のパンデミックでは最初に世間の注目がガンと集まり、その関心のなかでわかってきたことをちぎっては投げ式にきめ細かく伝えてゆけばよかった。でもジカでは最初の”つかみ”の部分が弱い。世間の関心が小さく始まってしまったところに、関心もたれにくいところに、当初より大きな話を伝えてゆかねばならない。
この「世間の関心がもたれにくい」とは、ある業界の言葉では「数字がとれない」とも言います。ジカの危うさ、身の守り方を伝えるべきメディアで、ジカの話が報じられるべきとき、それが「数字のとれる三面記事的話題」に吹き飛ばされるという弱さ軽さがあります。
こういう話はふつうオモテには出てきませんが(自分の出番が吹っ飛んだなんてカッコ悪い話はふつう黙ってしまっておく)、ぶっちゃけますと、ジカ啓発の節目節目で、大事な紙面や尺(放送時間)が清原ヤク中オヤジに吹っ飛ばされています。逮捕のとき、常習をゲロしたとき、初公判のとき、節目節目でジカの大事なときとかぶってくるのです。管理人が関与しただけで2回。ある全国ネットでは尺が8分⇒5分の4割減(それでも現場ディレクターの極めて迅速な判断でCM後最後にまわり最小限の被害で済んでいる)、ある東京ローカルFM番組ではリオ五輪に行かれる方へのワクチン含めた話が全部吹っ飛んだ。おそらく、日本中で全局あわせて、VTRがお蔵入りしたり企画書段階で吹っ飛んだりの総計はものすごい時間になるはず。バングラテロやブレグジットや生前退位クラスならともかく(実際、これらの出来事は時期的にはそんなにかぶってなくて実はあまり被害は受けていない)清原ヤク中ごときで飛ばされるのはかなり悲しい話。
理由は簡単、清原ヤク中オヤジの方がジカの啓発より数字がとれる(高い視聴率が期待できる=大衆の関心がひける)からです。では、渡航医学の話題をヤク中オヤジごときに吹っ飛ばされない「強い話題」にする見せ方はどうするか・・・ 名案はありませんが、この日の講演でちょっとささやいたのは、「(H5N1のときの)岡田晴恵氏の再評価」でした。8年前のあの頃、H5N1への大衆の関心をぐいぐい引き付けていたアクティビティ、上品な医師たちからはあまり積極的評価しない声もぱらぱら聞こえてはいました。「煽っている」と。ただ、「煽る」というネガティブな響きをもつ言葉ではなく、「ヤク中ダメ男ごときに吹っ飛ばされない強い話題にする見せ方」というのは、我々渡航医学界の人間あげて考えてみる時期なのかもしれません。
本講演は地元山陽新聞にて取材いただきました。
講演自体はリスクコミュニケーションのキホン・WHO・CDC・名(迷も)場面・メディア関係者の生の声などいろいろ話させていただきました。「講演内容を渡航医学会誌のペーパーに書くこと」 という宿題を宣告(笑)されておりますので、いずれ誌面でお目にかけることにはなるかと思います。
取材記事のURL
山陽新聞
http://www.sanyonews.jp/article/386373/1/
共同通信
http://www.47news.jp/localnews/okayama/2016/07/post_20160723223728.html