新型インフルエンザ・ウォッチング日記~渡航医学のブログ~

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沸騰するかもしれないエボラ出血熱報道を読み解く基礎知識(管理人担当の日経BP連載)

2014-03-30 17:59:52 | マスコミでのコメント・取材・出演

 管理人担当の日経メディカル連載、今回はギニア発で世界中で報道沸騰しつつあるエボラ出血熱

ここのところ、エボラ出血熱の報道が賑やかになっている。ギニアで発生した後、シエラレオーネ、リベリアと続き、カナダでも「あわや!」というひと騒動があった1)(カナダのは結局否定された2)3))。

 2つも2つも国名が登場しているところに4)大流行かと打たれると5)相当大変な印象を受けパニックになる人も出て来るわけであるが、その理解の参考まで、私の前職、外務省医務官の経験から思いつくままいくつか紹介しよう。私のスーダン在職中には同国南部で、その後もコンゴ民主共和国で発生をみた。

国の名前が増えてゆくことについて

 最初A国で発生し、次にB国、さらにC国でも・・・となると、われわれ“島国の民”の感覚では、A国B国C国に日本・中国・韓国を当てはめたような感覚でいかにも大変なことが起こっているように感じてしまう。しかし、実際のところアフリカではそうではない。ジャングルやサバンナの中に、(旧宗主国が)定規で引いたような人工的な国境線を引いて、「はい、今日からこちらがA国、向こうがB国です」とやってしまっているのが実態だ。だから、実際そこにいる人々はあまり意識しないで行動していることが多い。国境管理ができないのだ(ここらへんの感覚は、google地図に“Sierra leone”と入れて拡大し空中写真を見ていただければ一発で実感が湧こう)。たとえばガボンやカメルーンの病院では、ナイジェリアの農民がバイト感覚で栽培する薬物が自由に国境を越えてきて依存症者が多い・・・と嘆く医師の声を耳にした6)。人間も薬物も病原体も、イミグレーションも税関も検疫も関係なく自由に移動するのだ。だから、A国・B国・C国と国名が増えること自体にそれほどの意味はない。

動物との微妙な距離感

 アフリカを歩くと、動物との微妙な距離を感じる。(一部誤解する人がいるが)街中を歩くと象さんキリンさんに遭遇するということはない。目に入るのはそれなりのビルに舗装道路の組み合わせだ。

 しかし、国によっては道端で思わぬ“商品”を目にすることもある。キンシャサを郊外に向けて走ると、農民が仕留めた猿をぶらんとぶら下げ車道に突き出してアピールしていた。「そこ行く旦那、猿は要らんかえ。美味いよ」と。これ一つとってみても、エボラなど猿がらみの人畜共通感染症の難しいことを感じざるをえない。

 今回はギニア政府が(やはりエボラウイルスの自然宿主とされる)コウモリの食用を禁ずるということをしているが、コウモリの食用は、森林の村では貨幣経済を経ることもなくゲリラ的に展開するから、中国当局が鳥市場を閉鎖して殺処分して鳥インフルエンザH7N9を封じ込めたようなわけには、当然ゆかない。

医療施設

 アフリカの村の医療施設。筆者が足を運んだコンゴやスーダンの施設の写真を紹介するが、おおむね同様のレベルだ。壁のない待合室、不揃いのベッドが並ぶ貧しい病室。出血熱のような体液で強力に感染拡大するものが入ってきてはひとたまりもなく流行拡大してしまう。逆にいうと、国境なき医師団が大量の資材を持ち込み隔離病棟を急ごしらえする7)という対策は、事態を良い方向に急展開させるだろう(写真1、2)。

 

 (写真はコピペではなく元原稿からのアップ、縦横比がちょっとおかしいですけどご勘弁を)

平和の大切さ

 今回話題にあがっている国々を外務省のホームページで見ると、散々な状況がうかんでくる。シエラレオーネの年表ではクーデタと暴動があわせて5回、リベリアではクーデター・政府転覆未遂・内戦・大統領殺害・蜂起・亡命といった単語が7回、ギニアでもクーデター・ゼネストが3回記載されている。こういう国々では、電気や水道といったインフラは極めて不安定、病院でも頻回に停電や断水が起こるし、人材も定着せず経験値が蓄積しない。感染症対策に大きな支障が起こる。

 今回のエボラ出血熱がどのような展開をするのか、だれにも分からないわけであるが、おおまかに上記のようなことを頭にウォッチしてゆけばと思う。万が一にも、これらの国々から日本への帰国者や入国者に重症者が出れば、上記のカナダのように(エボラ出血熱でなくとも)大騒動になるであろう。その際には、日本とこれら国々と、どのように条件が異なるのか考えながら冷静に対処してゆきたいものだ。

■参考
(1) Man critically ill in Saskatoon after travel to Africa(CBC)
(2)'No confirmed cases' of Ebola in Canada, health officials say(The Globe and Mail)
(3)Sick man in Saskatoon tests negative for Ebola(CBC)
(4)ギニアで発生のエボラ出血熱、隣国シエラレオネにも拡大か(AFPBB)
(5)エボラ出血熱大流行か ギニア、首都にも拡大(産経)
(6)勝田吉彰:ドクトル外交官世界を診る. P31-34 星和書店 2008 東京
(7)Guinea: MSF reinforces teams to help control spread of Ebola epidemic(MSF)

 


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