世界銀行が「次」のパンデミック前提でシュミレーションをやっています。
- 今月ワシントンで開催された年例会で、いつもと毛色が異なる議題。
- 新たなパンデミックのシュミレーション。詳細不明の感染症が驚異的なスピードで拡大し、抗生剤の効かない病原体に大臣たちが直面している。人口呼吸器の必要な患者も発生している。1週間以内に主要な学校や病院を閉鎖し数千人を検疫している。近隣国にも犠牲者が出てパニックが広がっている・・・・という想定。
- 2014年西アフリカで11000人が犠牲になったエボラで発生し,その初期の混乱と恐るべき機能停止が今回のシュミレーションの触媒になったと関係者談。あの時のようなパニックの時代ではなく、あらかじめ準備できるものは完全に備えるようにと。そして次のパンデミックはおそらく、我々が思っているよりはやくやってくるであろうと。かつてに比べて、より速く、より想定外に、生命の脅威となる疾患が広がるようになっている。
- マダガスカルでは、通常みられない規模でペストが広がり、8月以来106例の犠牲がでている。その70%は肺ペストで、咳や痰やくしゃみで感染し抗生剤が投与されなければほぼ死亡。
- ウガンダではマールブルグ病が発生し、1例の犠牲者のほか、保健施設や伝統的葬儀で何百人もの濃厚接触者を出した。マールブルグはエボラ同様の出血熱で、最も病原性の高いもののひとつ。(日本では一類感染症)
- 世界銀行のシュミレーションは、架空の国で起こったパンデミックで、旅行と観光業がいかほどの打撃をこうむるかを予測するもので、数十カ国から財政・保健・運輸責任者が、また、WHOやCDCやIATAからの参加をえておこなわれた。その内容は非公開となっているが、参加者によれば、そこで示された理論にもとづくシナリオはリアルなもので、発生時の速やかな情報共有や協力の必要性を認識したと。
- 現代、情報は極めてはやく、SNSなど非公式な手段で拡大する。政府から情報を出す際にはこれを十分意識して、正確な情報をリアルタイムで出さなければならない。
- シュミレーションのなかで、ある架空のSNS投稿も示された。客船クルーズのなかで発生した、研究職についている乗客の出来事がインスタグラムに投稿されるという仮定。国境警備隊のヘリが飛び、客船の乗客からサンプル採取へ向かう。当該乗客は19日前に、2014年にEVDの犠牲となった患者のサンプル病原体のバイアルを扱っている。この乗客に症状はなく、血液検査結果はエボラではないことが判明する。世界銀行は昨年初めてパンデミックシュミレーションをおこない、1月にはダボス会議でゲイツ財団と協働でシュミレーションをおこなっている。
- これまでのパンデミックで、政府が事実を公表することに消極的で発表が遅れることがあった。観光と貿易に与える影響から政治経済的プレッシャ。特に観光に依存している国では、政治的・経済的プレッシャーがかかってアクションをとりにくいことがある。国境閉鎖や検疫措置は、無症状で通過しうる疾患に対して有効ではないかもしれないうえに、政治社会的影響は同様にあるから。
- 政府内でも、保健当局と財政・観光当局は協調しなければならないが、実際には国内的にも国際的にもタコツボ的である。
- 我々はパンデミックに対して十分備えがなってない。来年は1918年スペインインフルエンザの100周年にあたるが、まだ中規模のパンデミックに対しても充分ではない。
世界銀行も、これまでの政治経済分野から一歩でてパンデミック対策に目を向けはじめ、昨年からパンデミックシュミレーションをやっています。しかしながら、不十分なことも多々あり、政府体制のこと、そしてリスクコミュニケーション・クライシスコミュニケーションについて強調されています。パンデミックにおける流言と社会不安について、管理人自身がSARS@北京で身に染みて(当サイトをはじめて10年以上継続している動機のひとつにもなり)、ここ最近はMERS・EVD・デングジカ・ヒアリと毎年のように経験しています。そしてSNSの登場で、それはSARS当時よりより対処は難しくなり、世界銀行もそれを認識して架空のインスタ投稿がシュミレーションのなかに含まれてきています。ここらへんはいたちごっこの様相も呈していますが、流言対策には、たとえば熊本地震でライオン脱走流言の発信主が逮捕された如く、(世界銀行が言っている保健当局と財務・観光当局だけでなく)、情報当局・警察当局との協調も必要でしょう。
次のパンデミックのとき、日本国内の状況は過去に比べてベターなことになっているのかいなか、”その時”どうだろう・・・
World leaders rehearse for a pandemic that will come ‘sooner than we expect’
The inside track on Washington politics.