釣の棲家

終の棲家を求め千葉へ移住。旬の魚をすわぶるために迷釣する房総釣行記。

その7 寒ビラメが恋しくて、たまらない。

2009年03月12日 14時31分53秒 | 外房
フグ、ヤリイカが続いたため、ここらで旬の旨い魚が食べたい。
贅沢な理由をつけて狙った獲物は「寒ビラメ」。
今季のヒラメは、釣果が約束された10月1日の解禁日釣行でまさかのオデコを喰らって以来、
リベンジに挑戦する機会がなかった。それに「ヒラメ用鼻カン仕掛け」の効果も試したみたい。

というわけで3月7日、大原港・力漁丸に乗船した。
今シーズンもヒラメは好釣が続いているものの、
流行のしゃくり真鯛とヤリイカ瀑釣の煽りを受けたのか、
この日の釣り人は4人と少なく、大型船の右舷に並んでの大名釣りとなった。

港を出ると、前日に吹き荒れた南東の暴風雨の影響でうねりが半端じゃない。
波の谷間に船が落ち込み、僚船も陸も山のような大波に遮られてしまう。
外房独特の大うねりを久し振りに体験した。
釣り場は大原沖の水深15~20m。北西の風5、6mで逆潮が適度に流れているという。

当地のヒラメ釣りは、スパンカを下ろし風を船の真横から受けて流す「横流し」がメイン。
水深が浅いにも関わらず、風と潮の流れによってオモリは80号から120号までを使い分ける。
仕掛けはハリス6号120㎝~150㎝、捨糸4号50㎝が標準で、
3.3mのムーチングタイプの鯛竿を使用した。
件の鼻カン仕掛けはハリス長80㎝しか作ってこなかったため、
初めは標準仕掛けで臨むことにした。

活きエサのイワシは、大きからず、小さからずの15㎝程度の中羽サイズで申し分ない。
船は左横腹から風を受けるようにポイントを定める。船頭が指示したオモリは100号。
右舷トモに座した私は、やや強い風を背中に感じながらイワシを送り出した。

片舷流しの場合、道糸は常に引っ張られるように船底へ入っていく。
50㎝から1mほど底を切り、暫くして底をとり直そうとすると、
糸はどこまでも出て行くから厄介である。
反対側に釣り人がいる場合(乗合船は多くがそうだが)、
糸を伸ばしすぎると当然オマツリしてしまう。

何度が底を取り直し、底を切った瞬間、
「グッ、グッ、グッ、グッ」と素早く引き込むヒラメ独特のアタリがきた。

が、竿先が海中に引き込まれた途端、
くわえたイワシを引きちぎるような嫌な感触が手元に伝わった。

すぐに仕掛けを底まで落とし、2度喰いを狙ったが、それっきり。
仕掛けを上げると、当然、イワシは食い逃げされて跡形もない。

第一投からアタリがあるのは好釣の兆し、と期待する半面、
第一尾をバラスのは不釣の前触れ、という嫌な予感が頭の中で渦を巻く。

船中第一号を仕留めたのは左隣の釣り人。
常連さんのようで、難なく1.5㎏級のグルメサイズをゲットした。
この方はすぐにソゲクラスを追釣し、残り3人を奮い立たせる。

途中からオモリ120号に替え、仕掛けを安定させるように流してみたが、
第一投以来、アタリがない。
120号のオモリに引っ張られるイワシも難儀であろう。
仕掛けを上げてみると、裂け気味の口をだらしなく空け、疲労困ぱいの表情を見せる。
目は虚ろで、まさにイワシの腐ったような目をしている。

やがて、1、2番目の釣り人も片目を明けた。
とくに、硬めの中通し竿に電動リールの2番目の御仁は、
ガンガンと竿先を震わせ、ウィーン、ウィーンと電動を唸らせながら
ヒラメを海面に浮上させたのにはオドロキだ。

こうなったら、「鼻カン仕掛け」を試すしかない。
流し釣りにハリス80㎝は短すぎるが、この期に及んでそんな悠長なことは言っていられない。
鼻カンをイワシの鼻に慎重に通し、親鈎を背ビレの前に横から軽く刺し抜く。
孫鈎は通常通り背に打つ。

通常の仕掛けを身に纏ったイワシの場合、バケツの中で痛がるように疾走するのだが、
コイツは他のイワシと何もなかったようにゆったりと泳いでいるように見えたのは、
贔屓目だろうか。

「さあ、行ってこい」とエールを送って投入し、2度底を取り直した後だった。
「ガツ、ガツ」という魚信が竿先を叩き、直後に海中に引き込んでいった。
ゆっくりと、大きく竿を立てると、鈎掛かりし「グーン」と引く確かな手応えを感じる。

「効果覿面!! 一発必中!! 特製必殺鼻カン仕掛け」――してやったり!

「やっと来ましたか」
大きなタモを持って駆けつけてきた船頭が労ってくれる。
巻き上げ途中、ドラグが滑って軟調竿が大きく弧を描く。

「型が良さそうだね」
投げかけられた船頭の言葉に思わず頬が緩む。
竿尻を下腹部に当て、リーリングする間が心地よい。

次第に、海面下に黒い魚影が浮かび上がってきた。
が、その影はいつもでも細長く、平らになることはなかった。

「ダメだ。サメだ」

吐き捨てるように呟いた船頭は、踵を返して操舵室に戻っていった。
サメの頭をボコボコにしてやりたい衝動を抑え、海面でハリスを切る。
悠然と海中に戻っていくサメを見たときの虚脱感は
何とも言えず空しかった。

それでも、鼻カン仕掛けに一発で喰いついたのだから
水中でのイワシは元気に泳いでいたはずだ。
そう自分に言い聞かせるようにして、タガを緩めることなく次の機会を待った。

その後、スパンカを上げて「エンジン流し」に変更となった。
これもオデコの私に釣らせようとしてくれた船頭の配慮だったかもしれない。

そして、アタリが訪れたのは…、私以外の釣り人…。
この日の筋書き通りの展開だった。

件の2番の中通し竿氏は、置き竿一発鈎掛かりで追釣し、
終わってみれば5枚のヒラメを重ね竿頭に輝いた。
1番が2枚、3番が3枚、そして4番の私は…。

沖上がり15分前、私の竿が海中に突き刺さったのだ。
「最後の最後で来ましたね。またサメじゃなきゃいいけど」

船頭さん、お願いだから縁起でもないこと言わないでください。

ほ~ら、ほら、ほら。やっぱりサメに化けちゃった。

メバルやマトウダイ、ホウボウなど、いつも混じる外道は誰の竿にも掛からなかった。
この日唯一の外道となったサメ2匹は、私ひとりで引き受けた。

ああ、寒ビラメが恋しくて、たまらない。

※駄文、長文にもかかわらず最後までお読み下さったすべての人に感謝いたします。


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