医学書のベストセラーに「病気がみえる」シリーズがあって、既刊は全部で10巻。メジャー科に加えて産科、婦人科、今後は小児科なんかも発刊されると本の「そで」の部分には書いてある。需要が低い医学書業界で1冊10,000円が常識という中で3,000円台という小売価格を誇るから、やはり売れているのであろう。浅学菲才の私は「病みえ」の持っていないシリーズも結構あって、本棚に並ぶ「病みえ」は10巻に満たない。医学生としてはヤバめな事態かもしれないが冊数だけは私の本棚で「病みえ」を上回ろうとしている作家がいる。今日はその新作のご紹介をば。医大生・たきいです。
![]() | 真夜中にシュークリーム |
はあちゅう | |
毎日新聞出版 |
勘のいい「医大生・たきいです。」の読者の皆様はお気づきでしょうけれど、はあちゅうさんの新作のご紹介。初のエッセイ。
帯の「自分に甘い夜」という気になるフレーズは、82頁の一節で、確かにこれはよかった。ヒット作「半径5メートルの野望」の作者と同じ人が書いたとは思えない人間的な一面で、ますますはあちゅうさんのファンになってしまいそう。他人に対しては真夜中のシュークリーム的思考、自分に対しては半径5メートル的思考でいくのが今風な生き方な気がする。
![]() | 半径5メートルの野望 |
はあちゅう | |
講談社 |
エッセイのいいところは、作家さんの日常に入り込めるところだろう。万城目学のエッセイが好きだが、どうでもいい日常の機微がとてつもなく心地よい。「真夜中にシュークリーム」は彼氏さんとのいちゃいちゃの描写が多すぎるところがはあちゅう好き男子の私としては少し気にかかったけれど、これがはあちゅうさんの日常なのだからこれはこれでよい。
「私、何者でもないこんな時間も大好きなんだよな」
(p.113)
半径5メートルには書かれていなかった、ありのままのはあちゅうさんがここにはありました。
はあちゅうファンはこれだけでもこの本を買う価値がありますが、実はこの本、「あとがき」が一番の読みどころです。ネット時代に「作家」として生きる30歳女性の覚悟と決意表明が。はあちゅうさんの今後に今後とも目が離せません。エッセイ中に出てきた執筆中の小説が手元に届く日も楽しみにしております。
(後輩に暗記力の違いを見せつけられた人(笑))