Truth Diary

爺ちゃんのたま

  実家の母が歳で動けなくなったので炊事洗濯など家事のお世話に行って来た時の話。
  何時もいる猫が居ないので聞くと、昨日、飼い猫のタマが道路で血を流し倒れていると人に教えられたが、90になる年寄りのこと、曲がった腰で一輪車を持ち出してそれに乗せて家まで運んできたとのこと、口から血を流し息絶え絶えだったが、一晩介抱翌日死んだとのこと。
  道路で看取られることなく絶命したのでなく、好きだった爺ちゃんの顔も婆ちゃんの顔も見て死んだので良かったと言っていた。畑の端に穴を掘り丁寧に埋葬したという。
  タマは特に爺ちゃんが好きで、畑に行こうとすると、一緒に付いて来て野良仕事が終る頃までじっと待っており、帰りは一緒に家に戻ってくるという、かわいい猫だった。
  腰の曲がった90歳になる年寄りが、死にかけた愛猫を一輪車に乗せ家まで連れてくる姿は想像すると、哀歓迫るものがあるが、その話を表情を変えずに淡々と話すところが、齢90年間の人生で、数多くの別れを経験してきた年寄りの達観か、あるいは子等に、余計な心配させぬようとの心配りか
 「新しい猫をもらったら」と勧めたたが、もう飼わないという。
  老親にとって生き甲斐だったはずの猫が車禍によって奪われても、臆せずに清浄として生きる年寄りのひたむきさを感じた。
  このような事ことがあったことは、猫を撥ねたドライバーには知る由も無かろう。せめてタマの冥福を祈ろう、ありがとう合掌。

優しい眼をして老親を和ませ、元気付けてくれた、在りし日のタマ

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