大槻雅章税理士事務所

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№39 法人税:役員退職金の損金算入時期

2012-03-03 | ブログ
2012.1.26 役員退職金の損金算入時期

平成18年3月31日までは、法人が役員に支給する退職金で適正な額は、損金経理を条件として損金算入が認められていました。しかし、平成18年4月1日以後に開始する事業年度からは、損金経理をしなくても、損金の額に算入されるようになりました。では、損金経理と損金算入とはどう違い、それによって役員退職金の損金算入時期はどう変わるのでしょうか?

「損金」とは、法人税法上の概念で、法人税を計算する場合の支出又は損失の金額をいいます。企業会計上の費用であっても損金にならないものがあるため、損金算入や損金不算入という法人税法上の申告調整をします。

「損金経理」とは、法人税法第2条第二十五号において「法人がその確定した決算において費用又は損失として経理することをいう。」と定義され、企業会計において費用又は損失として会計処理することをいいます。そして、損金経理が条件とされる場合には、企業会計の費用処理を変更して法人税法上の申告調整をすることは認められません。

「損金算入」とは、企業会計において費用又は損失として処理していないが、法人税法上は申告調整をして損金の額に算入することをいいます。したがって、法人税法上の課税所得は、「企業会計上の利益+益金算入-益金不算入-損金算入+損金不算入」という算式で計算します。

以上3点を踏まえて解説すると、平成18年4月1日以後に開始する事業年度からの損金算入時期は、法人税法基本通達9-2-28のようになります。

(法人税法基本通達9-2-28)
役員退職金の損金算入時期は、原則として株主総会の決議等により退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度となります。ただし、法人が退職金を実際に支払った事業年度において、損金経理をした場合は、その支払った事業年度において損金の額に算入することも認められます。

法人税法基本通達9-2-28を分解して説明すると、損金算入時期は次の(1)~(3)のようになります。

(1)原則=決議した日
役員退職金が損金の額に算入されるのは、株主総会で退職金の支給を決議した日の属する事業年度となります。会計処理は、決議した日に未払金として総額を費用計上し、支払った時に未払金を消却することになります。

(2)前事業年度に支給した場合=支給した日
前事業年度の途中に役員が退職し、役員退職金支給規程に基づく適正額を実際に支給し(注1)、かつ、損金経理をしたときは、前事業年度において損金の額に算入することが認められます。役員退職金支給規程で、株主総会は支給の承認だけを行い、支給金額や支給日は取締役会に一任している場合は、取締役会の決議を経て支給しても有効です。ただし、次の役員が就任するまでの期間は旧役員が地位を引継ぐので、退職の証拠として新旧役員の就退任の商業登記が必要です。

(注1)実際に支給せず、未払計上した場合は損金不算入となります。この場合は、株主総会で支給が確定した事業年度又は実際に支給した事業年度の申告調整で損金算入します。

(3)翌事業年度以降に支給する場合=支給した日
株主総会で退職金の支給を決議した日の属する事業年度に未払計上すると、多額の欠損金が発生する場合があります。また、資金繰りの都合で一括支給できない場合もあります。このような場合には実際の支給を分割して、損金経理のタイミングを翌期以降にずらすことも可能です。この場合は、次の法人税法基本通達9-2-29で示すとおり、支給すべき事業年度の損金算入となります。ただし、具体的に確定した事業年度以後の事業年度に支給したときに仮払い経理をした場合には、損金算入されません。
なお、分割支給する場合、分割期間が3年程度であれば全額を未払計上できるという説もありますが、法令の定めはありません。

(法人税法基本通達9-2-29)
法人が退職した役員又は使用人に対して支給する退職年金は、当該年金を支給すべき時の損金の額に算入すべきものであるから、当該退職した役員又は使用人に係る年金の総額を計算して未払金等に計上した場合においても、退職の際に退職給与引当金勘定の金額を取り崩しているといないとにかかわらず、当該未払金等に相当する金額を損金の額に算入することはできない(注2)ことに留意する。

(注2)退職年金の支給が確定した事業年度に年金総額を未払計上した場合は、法人税の申告調整で未払総額を損金不算入し、実際に支給した事業年度の申告調整で損金算入します。

(完)