2018.11.20 複数の住居がある場合の課税関係
日本経済新聞の報道によれば、金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された日産のカルロス・ゴーン会長は、フランスとブラジルとレバノンに国籍をもつ多重国籍の持ち主で、住居はブラジル・リオデジャネイロの高級マンションとレバノン・ベイルートの高級住宅だそうです。
さらに、日産の別の海外子会社2社が所有するフランス・パリやオランダ・アムステルダムの高級住宅の提供も受けているとのことです。また日本にも住居があるかも知れません。
日本の税法では、ゴーンさんのように複数の住居がある場合、どこに「住所」があるかによって課税関係が判断されます。
民法22条は「各人の生活の本拠をその者の住所とする」と規定しています。税法も民法と同じ概念で、「住所」とは「個人の生活の本拠」を意味します(所基通2-1)。
ゴーンさんの場合、住居は一箇所ではなく複数あるので、争点となるのが「生活の本拠」の認定基準です。これについて、日本の裁判所がどのような判断基準を示しているか見てみます。
神戸地裁昭和60年12月2日判決では、「客観的な事実、即ち住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等に基づき判定するのが相当である。」と判示しています。
控訴審の大阪高裁昭和61年9月25日判決では、「家屋のガス、電気、水道の使用料の支払口座、居宅及び預金などの所有状況、夫婦同居の確認、職業など」も認定事実として列挙しました。上告審もこの判決を是認しています(最高裁昭和63年7月15日判決)。
このように、日本の裁判所の判断基準からすれば、ゴーンさんは日本に「生活の本拠」がないので日本国内に「住所」があると認定できないと思われます。
つまり、ゴーンさんが日本国籍を有し、かつ、日本国内に「住所」を有しておれば「非永住者以外の居住者」になり、所得が生じた場所が日本国の内外を問わず、全世界の所得に対して日本の所得税が課税されます。
しかし、ゴーンさんは日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である非永住者になると思われます。
非永住者の場合は、所得税法に規定する国外で生じた所得(国外源泉所得)以外の所得と、国外源泉所得で日本国内において支払われ、又は日本国内に送金されたもの(注)に対して課税されます。
(注)平20.8.4、裁決事例集No.76 77頁
国内で支払われ、又は国外から送金されたことを、非永住者の国外源泉所得を課税所得とするための要件としているのは、送金を課税権を行使する契機としたものというべきであり、(中略)いったん国外払の所得が国外から国内に送金される事実がありさえすれば、・・・送金があったということができるというべきである。
したがって、国内で消費される金額のみを担税力のある所得とみて、同一年中に送金額を返金した場合は、これを送金額から控除できると解すべき理由はないし、送金の事実を実質的に解釈し、国外からの送金が国内で費消されずに、そのまま国外に返金した場合には送金に該当しないと解すべき理由もない。
(注)国内源泉所得(国外源泉所得以外の所得)については国税庁のホームページ参照
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2878.htm
(完)
日本経済新聞の報道によれば、金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された日産のカルロス・ゴーン会長は、フランスとブラジルとレバノンに国籍をもつ多重国籍の持ち主で、住居はブラジル・リオデジャネイロの高級マンションとレバノン・ベイルートの高級住宅だそうです。
さらに、日産の別の海外子会社2社が所有するフランス・パリやオランダ・アムステルダムの高級住宅の提供も受けているとのことです。また日本にも住居があるかも知れません。
日本の税法では、ゴーンさんのように複数の住居がある場合、どこに「住所」があるかによって課税関係が判断されます。
民法22条は「各人の生活の本拠をその者の住所とする」と規定しています。税法も民法と同じ概念で、「住所」とは「個人の生活の本拠」を意味します(所基通2-1)。
ゴーンさんの場合、住居は一箇所ではなく複数あるので、争点となるのが「生活の本拠」の認定基準です。これについて、日本の裁判所がどのような判断基準を示しているか見てみます。
神戸地裁昭和60年12月2日判決では、「客観的な事実、即ち住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等に基づき判定するのが相当である。」と判示しています。
控訴審の大阪高裁昭和61年9月25日判決では、「家屋のガス、電気、水道の使用料の支払口座、居宅及び預金などの所有状況、夫婦同居の確認、職業など」も認定事実として列挙しました。上告審もこの判決を是認しています(最高裁昭和63年7月15日判決)。
このように、日本の裁判所の判断基準からすれば、ゴーンさんは日本に「生活の本拠」がないので日本国内に「住所」があると認定できないと思われます。
つまり、ゴーンさんが日本国籍を有し、かつ、日本国内に「住所」を有しておれば「非永住者以外の居住者」になり、所得が生じた場所が日本国の内外を問わず、全世界の所得に対して日本の所得税が課税されます。
しかし、ゴーンさんは日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である非永住者になると思われます。
非永住者の場合は、所得税法に規定する国外で生じた所得(国外源泉所得)以外の所得と、国外源泉所得で日本国内において支払われ、又は日本国内に送金されたもの(注)に対して課税されます。
(注)平20.8.4、裁決事例集No.76 77頁
国内で支払われ、又は国外から送金されたことを、非永住者の国外源泉所得を課税所得とするための要件としているのは、送金を課税権を行使する契機としたものというべきであり、(中略)いったん国外払の所得が国外から国内に送金される事実がありさえすれば、・・・送金があったということができるというべきである。
したがって、国内で消費される金額のみを担税力のある所得とみて、同一年中に送金額を返金した場合は、これを送金額から控除できると解すべき理由はないし、送金の事実を実質的に解釈し、国外からの送金が国内で費消されずに、そのまま国外に返金した場合には送金に該当しないと解すべき理由もない。
(注)国内源泉所得(国外源泉所得以外の所得)については国税庁のホームページ参照
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2878.htm
(完)