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法律考第十八回 代理その3

2007-11-23 11:44:34 | 憲法考

代理行為

顕名主義

 代理人が代理行為を有効にするためには「本人のためにすること」を明らかにしなければなら無い(民法第99項)。「本人のためにする」とは本人の利益のためにすると言うことではなく、「本人に効果を帰属するため」にと言うことである。こう考えると本人にとっては思わぬ不利益が生じる可能性が出てくる。例えば、代理人が相手方に「本人のためにすること」を明らかにして本人のために借りた金を自分の会社のために注ぎ込むこと(代理人自身の利益のために為した行為)も有効になってしまう。これに対する本人保護策として①相手方悪意の場合には心裡留保の規定民法93条の但し書きを類推適用して相手方が知っていた場合には、此代理行為を無効と考えるのである。

 民法第100条但書によって、「相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたとき」は、代理行為の効力が本人に及ぶことになるので、何らかのかたちで相手方に分るような情況でさえがあれば、代理行為の効力は本人に及ぶことになるのだ。このような情況が無ければ、代理人に効力が及ぶことになり、代理人がそうしたことを錯誤を理由に取り消そうとしても、民法第100条本分の規定があるので認められないのである。

代理人の能力

 代理人となるには能力的には格別制限はありません。ですから全く、事理の判別が出来無い成人被後見人を代理人と出来るかは別として、未成年でも、代理人となることは出来るのだ。そうした場合、未成年が為した代理行為は本人の結果責任となる。但し、代理権授権契約の中で、「代理行為によって本人に不利益を与えた場合には代理人が責任を負う」等と記されている場合には、未成年者には法定代理人の同意が必要となるのだが、もし、同意を得て無い場合には、代理権の授与は取り消すことが出来るということになる。

 しかし、未成年者がさんざ代理行為をした後で、代理権の授与契約自体を取り消して無効になったならば、その以前の総ての代理行為も無効となり、多大な混乱を生じてしまう。そこでこのような場合に配慮して、①代理行為を単独行為と看做し、代理権の授与行為とは切り離して考えるか、②代理権授与契約を一種の無名契約と見て、遡及的に取り消せるのは授権契約そのものに過ぎ無いと言う解釈がある。

代理行為の効果

 代理人の為した行為は総て本人に帰属するので、法律行為の当事者と手の対も本人に帰属することになります。代理行為に瑕疵原因があれば、それによる効果も本人に帰属します。心理留保、虚偽表示、錯誤による無効も本人に生じます。相手方の詐欺による取消権の行使も本人がすることが出来るのです。代理行為の結果によって本人が負うことになる代理行為による錯誤や瑕疵、過失、意思表示の善意悪意は総て代理人について決定される(民法第101項)。しかし、本人が瑕疵を知って、代理人に家屋の質入れを頼んだ場合には、代理人がその瑕疵を知ら無くても、本人はその瑕疵を主張することは出来無い(民法第101項)。

無権代理

無権代理の概念

 全く代理権も与えられて無い代理人と称する者が行った行為は勿論無権代理であり、代理権が与えられていたとしても、抵当権についてのものであったのに勝手に売買してしまった場合には無権代理となるのだ。

契約の無権代理

 無権代理で為した効果は本人には及ば無い。しかし、それも絶対的なものでは無いのです。以下、このことを説明します。

追認権・追認拒絶権

 無代理行為であっても代理人と看做される者が本人にとって良かれと思ってしたり、偶然にも結果が本人にとって良いことになった場合には、後に本人がその無権代理行為を契約の時に遡って認めることが出来ます(民法第116条本文)。これを追認と言います。但し、追認による遡及効は第三者の利益を害することは出来ません(民法第116条但書)。追認は相手方に知らせなければその効力は生じないので、相手方は知るまでは相手方は無権代理行為を取り消すことが出来ます。しかも、相手方が契約時に無権代理と知っていたときは、本人の追認は相手方に対しては効力を生じません。ちなみに、追認の遡及効は原則的なものとされているので、相手方の同意があれば追認の時から認めるということも出来るのです。

追認することによって第三者を害することが出来無いという意味

 ケースに分けて考えてみる。

債権回収に代理権を与えていた場合

 無権代理人が債務者である相手方から弁済を受けた後に本人の債権者がその債権を差し押さえたと言う場合、その後に本人が無権代理人の受領行為を追認した場合に、その追認に遡及効を認めると本人の債権者は無かった債券を差し押さえたと言うことになって仕舞うので、このような場合には追認に遡及効は認められません。

無権代理人と本人が二重譲渡をした場合

 無権代理人が相手方に不動産を売却した後に本人がその不動産を更に別の者に売却した場合には、双方の買主は対抗関係になり、どちらがその不動産を取得するかはその不動産の登記の先後によって決まります。

養子縁組について追認を認めた最高裁判例(最判昭和27年10月3日民集6巻753頁)

 他人の子を勝手に養子縁組をした夫婦が代諾権者として、更にその子を他の養親の養子に出した場合に、子が十五歳になってからこの養子縁組を追認した場合にこの追認を有効とした。

本人が追認を拒絶した場合

 本人に絶対的に効力が生じないと言うことになる。

無権代理人と本人の地位の混同

 相続の場合にこうした混同があります。

①父親の無権代理人として子が本人である父の不動産を売却した後に、父が死んだとすると、子は相続によって本人と無権代理人の地位が重なります。この場合、子が父の地位に立って、先の無権代理行為の追認を拒絶することは信義則からして出来無いとされました(大判昭和2年3月22日民集6巻106頁)。この事件はたまたま相続人が一人であったことから比較的単純な事例となりましたが、相続人が複数人いた場合には可也複雑な法律関係になります。

②①とは逆に、無権代理人である子が死んでしまって、本人である父親がその子を相続した場合に、子の無権代理行為の追認を拒絶しても信義に反しないとした(大判昭和37年4月20日民集16巻955頁)。此処で問題となるのは追認を拒絶して、無権代理人としての責任を負うかと言うことです。結論はやむを得ないということです。

相手の催告権・取消権

(無権代理の相手方の催告権
民法第114条 前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。

(無権代理の相手方の取消権
民法第115条 代理権を有しない者が為した契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。

 相手方一方的な意思表示によって無権代理行為を取り消せるのだ。こ の取り消しの意思表示本人若しくは代理人のどちらにしても良いのですが、但し、本人が追認する前に限ります。又、契約の当時に代理人と称する者が無権代理人であることを知らなかったことを要します。

無権代理人の責任

(無権代理人の責任)
民法第117条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないこと相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者行為能力を有しなかったときは、適用しない

単独行為の無権代理

相手方のある単独行為の場合(契約解除など) 

 原則として無効能動代理については、相手方が同意し、また、代理権の有無を争わなかった場合に、受動代理については無権代理人の同意のある場合契約の無権代理人に関する規定を準用することにしている(民法第118条)。

相手方の無い単独行為の場合

 常に無効

表見代理

 本人と無権代理人との間に外部から見てあたかも代理権があるかのような外観を呈する場合があります。この場合には取引の安全を図って代理権があるのと同じ効果を持たせる制度を表見代理と言います。無権代理の中には取引の安全と本人の保護を比較考慮して、本人の保護を優先させなければなら無いものが狭義の無権代理とする考え方もありますが、全く本人との関わりが無いのに勝手に本人の代理人と称して為された代理行為が無権代理とされるのは当然なことです。

民法第109条の表見代理代理権授与の表示による表見代理

 例えば、本人がある人に集金をする代理権を与えたということを書面に表示して知らせ、これを見た客がお金を払った場合に、実際には代理権を与えていなかったと言うような場合が有る。この場合は表見代理と認められ、客は金を払ったと主張でき、集金人がその金を持ち逃げしたとしても、その損失は総て本人が被ることになる。

 この場合の相手方は、表示が新聞広告で為された場合などは不特定多数でも良いとされている。判例はこの点に関して大幅に拡張した解釈をして来ている。

代理人として表示されたものとは言え、その表示された権限の範囲内で代理をすることが必要で、この範囲を超えて取引をした場合は、次の第110条と重なったかたちで適用される。

 判例には、商法での名板貸しのような事例で、貸した本人側に全面的に責任を負わせるような事例が多い。

民法第110条の表見代理権限外の行為による表見代理

 これは、代理人に頼んだ代理とは違った代理行為を代理人がしてしまったと言うような事例に適用される。多少なりとも代理権が与えられていることは必要となりますが、頼まれたものとは全く別種の代理行為してしまった場合でも当てはまります。

 判例は基本代理権が公法上のものではあってはなら無いとしています。たとえば、印鑑証明を取ってきてくれといった委任状を渡したことで、代理人がその印鑑を悪用して本人の不動産を売却してしまったというような事例ではこれを基本代理権として表見代理を認めるわけにはいかないというものであった最高裁判例(最判昭和39年4月2日民集18巻497頁)。学説は印鑑証明書の交付を依頼したり、印鑑を渡したことが代理権を授与したことの表示となるという解釈も成立ち得るとしてこの判例に反発している。

 問題は、日常家事債務においての夫婦夫々のお互いの代理権がどれほど及ぶかと言う問題です(民法第761条参照)。学説では、取引の安全を守る為には日常家事債務の概念自体を否定するようなものもあるが、不動産のような大きな財産の売り買いには夫婦のお互いの同意が必要であると見るのが当然であり、又このような取引には慎重な行動が必要であることは言うまでも無いことなので、もし、相手方に損失が出たとしても、日常家事債務の条項の世間の周知度と絡めて考えても、相手方の自己責任を問う方が順当と考えられるが如何であろうか?

 更に、事実行為、例えば、お客さんを勧誘するように頼まれた場合に、代理人が契約までしてしまったと言うような場合は如何であろうか?判例は表見代理の成立を否定した(最判昭和35年2月19日民集14巻250頁)。

相手方には代理権があると信じるにたる正当理由が無ければなら無い

 相手方に善意・無過失を要求することになる。表見代理人から印鑑・印鑑証明書・委任状などを示されている場合には悪意・過失は否定される。これも相手方のおかれた立場によって変わるように解され、最近では銀行員が本人に問い合わせるなどということも要求されることになってきました。判例もその考えに従ったものが現れています。

 権限外の行為による表見代理民法第110条は代理権消滅後の代理権の場合にも代理権授与の表示による表見代理民法第109条と重ねて適用されることになるのです。この事例として、嘗て借財のために代理権を与えられた者が、其の後本人の実印を使って本人を自分の借財の連帯保証人とした場合などが挙げられます。

 又、この条項は法定代理人にも適用されます。この場合にも相手方がそれを信じるに付き正当事由が必要となります。

 次に、(代理権消滅後の表見代理
112条 代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。

 初めから代理権が無い場合は当てはまりません。事例として、嘗て、集金人であった者が代金を受け取った場合には、相手方が善意で且つ過失が無い場合に限り表見代理が成り立ちます。

 表見代理の効果について説明しましょう。①本人は無権代理人の代理効果を受容れなければなら無い。勿論、無権代理人に対する責任追及(債務不履行や不法行為など)が出来るのは当然である。

 相手方は無権代理の主張が出来るか?有力なものとして、相手方は表見代理も無権代理も主張できるとするが、

(無権代理人の責任)
民法第117条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

上記の立場に立ったとしても、民法第117条の適用には消極的立場を採るものは少なくない。相手方が本人に対しても無権代理人に対しても履行の請求が出来るのは旨味があり過ぎるというもので、無権代理の主張としては、「代理権を有し無い者がした契約は、本人が追認をし無い間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りで無い(民法第115条)」と言った取消権のみの主張が出来るとすることを主張するものもいる。いずれにしても表見代理も無権代理の一つと見るかによって、相手方が主張できる範囲も変わってくると説明されています。


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