【『民事保全法』逐条解説】第二章 保全命令に関する手続 第三節 保全異議
(保全異議の申立て)
第二十六条 保全命令に対しては、債務者は、その命令を発した裁判所に保全異議を申し立てることができる。
保全異議とは、保全命令での、債権者が主張する被保全権利及び保全の必要性について、保全命令の当否について、再審理を求めるものです。この保全異議の事由としては、被保全権利が存在しないこと、担保の額が低いこと、命令の内容が不当であること等が考えられる。申立期間には制限はありません。管轄裁判所は、保全命令を発した裁判所です。
保全命令に不服のある債務者が、保全異議の申立をしても、それだけでは、当然には、執行は停止されません。別個保全異議に伴う執行停止、執行停止の申立が必要です。
なお、保全異議の申立に対する決定に対しては、当事者は、その送達を受けた日から2週間内に保全抗告をすることができます。
※保全抗告 保全命令に対する不服申立てには,発令裁判所が担当する保全異議と保全取消しがあり,その決定に対する不服申立てとして保全抗告があります。
(保全執行の停止の裁判等)
第二十七条 保全異議の申立てがあった場合において、保全命令の取消しの原因となることが明らかな事情及び保全執行により償うことができない損害を生ずるおそれがあることにつき疎明があったときに限り、裁判所は、申立てにより、保全異議の申立てについての決定において第三項の規定による裁判をするまでの間、担保を立てさせて、又は担保を立てることを条件として保全執行の停止又は既にした執行処分の取消しを命ずることができる。
2 抗告裁判所(抗告を審理する上級裁判所。簡易裁判所の決定・命令については管轄地方裁判所、地方裁判所の決定・命令については管轄高等裁判所。こうこく‐さいばんしょ 〔カウコク‐〕 【抗告裁判所】 抗告を審理する上級裁判所。簡易裁判所の決定.....)が保全命令を発した場合において、事件の記録が原裁判所に存するときは、その裁判所も、前項の規定による裁判をすることができる。
3 裁判所は、保全異議の申立てについての決定において、既にした第一項の規定による裁判を取り消し、変更し、又は認可しなければならない。
4 第一項及び前項の規定による裁判に対しては、不服を申し立てることができない。
5 第十五条の規定(保全命令は、急迫の事情があるときに限り、裁判長が発することができる。 )は、第一項の規定による裁判について準用する。
(事件の移送)
第二十八条 裁判所は、当事者、尋問を受けるべき証人及び審尋を受けるべき参考人の住所その他の事情を考慮して、保全異議事件につき著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るために必要があるときは、申立てにより又は職権で、当該保全命令事件につき管轄権を有する他の裁判所に事件を移送することができる。
(保全異議の審理)
第二十九条 裁判所は、口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、保全異議の申立てについての決定をすることができない。
第三十条 削除
(審理の終結)
第三十一条 裁判所は、審理を終結するには、相当の猶予期間を置いて、審理を終結する日を決定しなければならない。ただし、口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日においては、直ちに審理を終結する旨を宣言することができる。
(保全異議の申立てについての決定)
第三十二条 裁判所は、保全異議の申立てについての決定においては、保全命令を認可し、変更し、又は取り消さなければならない。
2 裁判所は、前項の決定において、相当と認める一定の期間内に債権者が担保を立てること又は第十四条第一項の規定(保全命令は、担保を立てさせて、若しくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として、又は担保を立てさせないで発することができる。)による担保の額を増加した上、相当と認める一定の期間内に債権者がその増加額につき担保を立てることを保全執行の実施又は続行の条件とする旨を定めることができる。
3 裁判所は、第一項の規定による保全命令を取り消す決定について、債務者が担保を立てることを条件とすることができる。
4 第十六条本文(保全命令の申立てについての決定には、理由を付さなければならない。)及び第十七条の規定(保全命令は、当事者に送達しなければならない。)は、第一項の決定について準用する。
(原状回復の裁判)
第三十三条 仮処分命令に基づき、債権者が物の引渡し若しくは明渡し若しくは金銭の支払を受け、又は物の使用若しくは保管をしているときは、裁判所は、債務者の申立てにより、前条第一項の規定により仮処分命令を取り消す決定において、債権者に対し、債務者が引き渡し、若しくは明け渡した物の返還、債務者が支払った金銭の返還又は債権者が使用若しくは保管をしている物の返還を命ずることができる。
(保全命令を取り消す決定の効力)
第三十四条 裁判所は、第三十二条第一項の規定により保全命令を取り消す決定において、その送達を受けた日から二週間を超えない範囲内で相当と認める一定の期間を経過しなければその決定の効力が生じない旨を宣言することができる。ただし、その決定に対して保全抗告をすることができないときは、この限りでない。
(保全異議の申立ての取下げ)
第三十五条 保全異議の申立てを取り下げるには、債権者の同意を得ることを要しない。
(判事補の権限の特例)
第三十六条 保全異議の申立てについての裁判は、判事補(裁判官の官名の一。司法修習生の修習を終えた者のうちから任命され、地方裁判所・家庭裁判所に配属される。任期は10年で再任できる。)が単独ですることができない。
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