全世代の命と安心おびやかす
がんなどで長期にわたり治療を受け、高額な医療費を負う患者・家族にとって、高額療養費制度は「まさに命綱」です。
全国がん患者団体連合会は「現役世代の中には、仕事や日常生活をつづけながらぎりぎりの範囲で医療費を毎月支払い続けている患者とその家族もおり…負担上限引き上げは…生活が成り立たなくなる、あるいは治療の継続を断念しなければならなくなる」(要望書)危惧を訴えています。
同制度は、大きな病気や事故で高額な医療費がかかった際、患者の自己負担に年収に応じて月ごとの上限を設けるものです。全世代にとって欠かせないセーフティーネットです。
■低所得者も負担増
ところが石破茂政権は2025年度予算案に、低所得者も含めすべての所得層で上限を引き上げる改悪を盛り込みました。法改定抜きにできるため、国民の命と安心に直結する制度の改悪が強行されかねません。
上限は3年間にわたって段階的に上げられます。例えば、70歳未満で年収約370万~770万円の人は、現行の上限月約8万100円が今年8月から約8100円上がります。2026年からは所得区分が細分化され、最終的に年収510万~650万円の人は現行の1・4倍の11万3400円、650万~770万円の人は1・7倍の13万8600円になります。
住民税非課税の人(70歳未満)の上限額は現在、月3万5400円です。住民税非課税となるおよその目安(単身の被雇用者)は年収100万円以下で、現状でも負担は重すぎます。上限引き下げこそ必要ですが、これを3万6300円に引き上げます。70歳以上の外来診療の負担限度額も、収入によって月5000円~1万円引き上げます。受診抑制を招くものです。
■自己責任押し付け
この改悪で国の財政負担は、最終的に1100億円削減される見込みです。
政府は「現役世代を中心に保険料が増加」したとして、現役世代の保険料軽減を口実にします。しかし、加入者1人当たりの保険料軽減額は、引き上げの最終段階でも月417円、労使折半後はその半額の208円にとどまります。
生命保険文化センターの調査では24年度、2人以上世帯の8割が民間の生命保険に加入し、その95%が医療保険に入っています。
各社の終身医療保険の保険料を見ると、45歳男性の場合で、およそ年間1万9000円~3万円です。国民の多くが、思わぬ病気や事故への不安から高額な保険料を払っています。
“公的保険に頼れない”となれば、さらに自分で備えることになります。がんや交通事故のリスクはどの世代にもあり、子育て世代の不安も大きなものがあります。制度の改悪は国民に自己責任を押し付け、全世代の不安を増し、「命綱」を断ち切るものです。
保険料軽減には患者負担引き上げではなく医療費への国の負担率引き上げが必要です。社会保障を世代間の支え合いだとする誤りをただし、財源は大企業や高額所得者への優遇税制の是正や9兆円に迫る大軍拡の中止で賄うべきです。予算案の徹底審議で改悪をやめさせなければなりません。
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