よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

第18章 雇用の一般理論―再論 下(我々は、我々の住む社会を変えられるというケインズの、静かな、しかし確固たる意志)

2022年05月05日 | 一般理論を読む 改訂版
賃金が下方硬直的であることは、経済体系の安定性のための必須条件である

 雇用の一般理論の次に出てくるのは経済の固有安定性の話である。我々の経済が、おおむね安定しているのはなぜか。貨幣よりも銃が幅を利かせ、一般的等価物が白い粉になり、公共インフラはとうに消滅してしまっている。そういう夜警国家ならぬ夜盗国家のような、マッドマックスの世界のような経済もあるにはあるが。なかなかそうはならないのはどうしてだろう。ケインズは固有安定性が組み込まれており、その大きな要因は賃金の下方硬直性である。と説く。

ケインズは四つの安定化要因を挙げる。

  • ①以前より多くの(あるいは少ない)雇用が資本装備にあてがわれて社会の産出量が増加(あるいは減少)したとき、これら二つの量を関係づける乗数は一より大きいが、極端に大きくはないという特性を限界消費性向がもつこと。
  • ②資本の期待収益もしくは利子率の変化がほどほどであった場合、投資は変化するけれども、新たな投資は資本の限界効率表の変化の割には大きく変化しないという特性を資本の限界効率表がもつこと。
  • ③雇用が変化すると貨幣賃金も同じ方向に変化しがちだが、雇用の変化の割には観察された結果大きく変化しない、すなわち、雇用がある程度変化しても貨幣賃金が大きく変化するとはない。これは雇用の安定性というよりは物価の安定性の条件である。
  • ④以上の諸条件に四番目の条件を付け加えてもいい。これは体系に安定性を与えるというより、ある方向への変動にやがてその方向を反転させる傾向を与えるものである。すなわち、以前に比ベて高くなった(あるいは低くなった)投資率はそれが数年も続くと、やがて資本の限界効率に不利な(あるいは有利な)影響を及ぼし始めるという条件である。

 これに関するケインズの説明は本文を当たっていただきたい。古典派と違い③のように賃金が下方硬直的であることは、経済体系の安定性のための必須条件である、と指摘していることは後々重要であり、その後躍起となって否定されてきた命題である。

ケインズが言いたいのは次のパラグラフである。

こうして、四つの条件をひとまとめにすれば、われわれが現実に経験する事態の際立った特徴すなわち、雇用と物価が〔上下〕いずれの方向にも極端に変動することなく、経済は中間的状態――完全雇用をかなり下回りはするが、それ以下に落ち込むと人間生存さえ危うくなるような最低水準はかなり上回っている、そうした中間状態のまわりを振動するという事態の十分な説明になる。
しかし、このように、「自然の」諸傾向によって定まる中間状態、すなわちことさらの矯正策が採られるのでないかぎりいつまでも変わらない根強い諸傾向によって定まる中間的状態は、だから必然の法則によって打ち立てられたものだ、と結論づけてはならない。上述した諸条件の有無を言わさぬ支配は、現在のあるいはこれまでの世界に関する観察された事実であって、絶対不変の必然的原理ではないのである。

 絶対不変の必然的原理ではないのである つまり上記のような「経済の中間状態」変えられる、ということを主張している。第4編の最後にいたって「我々は、我々の住む社会を変えられる」というケインズの、静かな、しかし確固たる意志が感じられるではないか。

 一方、長く「経済の中間状態」を続けてきた日本だが、財政再建路線を一向に改めず「ことさらの矯正策」を取ろうとしない。それを批判する側も「経済の中間状態」を第16章 資本の性質に関するくさぐさの考察に出てくる「定常状態」だと勘違いしているのではないか。「経済成長」という語句を頑なに嫌うのはそのためではないか。
第16章 資本の性質に関するくさぐさの考察

 ケインズの言う定常状態を再掲すると
このような想定にもとづけば、現代的な技術資源を装備し人口増加が急ではない適切に運営されている社会なら、一世代のうちに資本の限界効率をゼロにまで低下させることができるはずである。そして、われわれは準定常的な社会に立ち至るであろう。そこでは、変化と進歩は技術、嗜好、人口、制度の変化だけによって起こり、資本の生産物は、資本費用がわずかしか含まれていない消費財価格を支配するのと同じ原理により、生産物に体化された労働その他に比例した価格で販売される。

資本の限界効率がゼロ:これは搾取のない世界である。ケインズは搾取の廃絶をめざしていたのだ。

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