よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

81:逐条解説:第24章 一般理論から導き出される社会哲学上の結論 第4節

2020年12月20日 | 一般理論を読む
一般理論はなぜ平和をもたらすのか?反帝国主義の理論的主柱としての一般理論

本筋ではないが、一般理論の提案する新体制は旧体制よりも平和にとって好ましいと言ってきた。今、新体制のこの面を再度強調するのは価値のあることである。戦争はたびたび起きている。独裁者やその類にとって、戦争は期待するだけでもわくわくするものである。彼らが国民にそもそも備わっている好戦性に火をつけるのはたやすいことだ。しかしとりわけ戦争の経済的要因、いわゆる人口の圧力や市場獲得競争が人々の心に火をつけるという彼らの仕事を容易にする。本書での議論にふさわしいのは、19世紀において優越的役割を演じており再度そうなるであろうが、この二番目の論点である。

*解説
先進国同士の大戦争のことを言っている。ヴェルサイユ講和条約の対独報復的中身に反対したケインズは現下の大恐慌によって戦争が不可避となるのではないか、と見ていたのである。

私は前章で、19世紀後半に正統的であった国内における自由放任と国際的な金本位制の下では慢性的なあるいは断続的な失業状態を改善する方法は貿易収支の改善しかなかったがゆえに政府にとって国内における経済的苦境を抜け出す方法は市場獲得競争しかなかった、と指摘してきた。なぜなら慢性的なあるいは断続的な失業状態を改善する方法は貿易収支の改善しかなかったからである。
かくして経済学者は現行の国際体制を労働の国際分業の成果をもたらすと同時に諸国間の利益を調和させるものと称賛するのを常としていたが、その間も、そこには隠されてはいたが好ましくない影響が存在していたのである。一方、豊かで歴史のある国が市場競争をないがしろにすると衰退し没落してしまうと信じていた政治家は常識と物事の筋道について正しい理解に基づいて行動していたのである。しかし諸国が国内政策によって完全雇用を実現することを学ぶことができれば、(これは付け加えなければならないが人口動向において均衡も実現できれば)一国の利益を諸国の利益と対立させようとする重大な経済的諸力は存在しなくなるのである。そこには国際分業と適切な条件での国際金融はなお存在するだろう。しかしもはや一国の商品を他国に押し付けたり、他国の製品を排除したりする強迫的な動機は無くなる。このような動機は購入したい物の支払いを可能にするためではなく、支払いの均衡を覆して貿易収支を好む方向に持っていこうとするのが目的だったからである。国際貿易はその姿をかえるであろう。海外市場に販売を強行し、輸入を制限することで雇用を維持しようとする窮余の一策は、もし成功したとしても失業問題を闘争に負けた諸外国に転嫁するだけである。国際貿易はそのような窮余の一策から相互に利益をもたらす財とサービスの自発的で邪魔の入らない交換に変わるのである。

*解説
古典派は自由貿易を説く。そのうえ自由放任派である。貿易赤字に対しても介入すべきではないという議論になる。

それに対して「常識と物事の筋道について正しい理解」を持った政治家は貿易赤字を何とかしようとする、と言っているのだ。重商主義についてのケインズの論考を思い出していたただきたい。この項はそのエッセンスとなっている。

もちろん、重商主義政策をとるまでもなく国内の失業問題は解決可能になった。一般理論によって。

もっとも、貿易収支、関税についてケインズは柔軟な考え方を持っている。保護貿易一辺倒でもなければ自由貿易一辺倒でもない。ただし、貿易赤字は国内の雇用問題をもたらす。基本原理は諸国間の貿易は均衡させるべきであるということである。それには失業問題(低成長問題)は国内で解決できるという理論的裏打ちがある。「輸出立国」と言う重商主義的言葉は19世紀の概念であって、今や国内の失業問題を海外へ転嫁するに過ぎないのである。

 第五節に続く


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