よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

82:逐条解説:第24章 一般理論から導き出される社会哲学上の結論 第5節

2020年12月18日 | 一般理論を読む
世界を善き方へ導くのも悪しき方へ導くのも、今ある利害関係ではなく思想である
But, soon or late, it is ideas, not vested interests, which are dangerous for good or evil.


これらの思想を実現することは空想家の夢なのだろうか?
政治社会の発展の原動力として根本的に欠けたものがあるのだろうか?
これらの思想が脅かす利害の方が役に立つ利害より明らかに強いのだろうか?
ここでは答えを出そうとは思わない。この思想が徐々に装備すべき実践的手段の概要を示すだけでも本書とは異なった一巻が必要となるだろう。
しかしこの思想が正しいとしたら、これは著者自身が自分の著作に置かなければならない前提であるが、この思想の妥当性を何年にもわたってあれやこれや議論して(棚上げにして)おくことは間違いであったとわかる、と予言しておく。
現在人々はかつてないほどより根本的な診断を期待しており、とりわけ受け入れる用意があり実行する熱意がある。たとえそれがもっともらしいだけのものであっても。
しかしこのような現代の風潮を別にしても経済学者や政治哲学者の思想は、正しい場合も間違っている場合も一般に理解されているより強力である。
いやそれどころか、世界を支配しているものはそれ以外にほとんどないのである。知的な影響を全く受けていないと自認している実務家でさえ通常は誰か過去の経済学者の(思想に)囚われている。
天に満ちた声を聴く権力の座の狂人達も、その狂気を数年前のあるトンデモ学者から見解を引き出しているのである。
私は思想が徐々に浸透していく力に比べて既存の利害関係の力は誇張され過ぎていると確信している。
いかにも、(思想の浸透は)直ちにという訳にはいかない。ある時間はかかる。
というのは経済学や政治哲学の分野では25歳から30歳を過ぎた後では新しい理論に影響される人は少ないからである。
だから官僚や政治家やさらには扇動家でさえも現実の事柄に適用しようとしている思想は最新のものではない。
しかし、遅かれ早かれ、善きことにとっても悪しきことにとっても危険となるのは既存の利害関係の力ではなく思想の力である。
  • 解説

 悩ましい箇所が二つある。
 まずは、

it would be a mistake, I predict, to dispute their potency over a period of time.

  この思想の妥当性を何年にもわたってあれやこれや議論して(棚上げにして)おくことは間違いであったとわかる、と予言しておく。
の箇所が先行訳とは大きく異なる。
間宮訳:時代を超えた力をもつ、間違いなくもつ、と私は予言する。
塩野谷訳:十分な時間をかけてみないで思想の効力を否定するのは誤りである、と私は予言する。
筆者訳:この思想の妥当性を何年にもわたってあれやこれや論争する(議論して棚上げにしておく)ことは間違いであったとわかる、と予言しておく。

 原文を最も簡単な形にすると
it would be a mistake to dispute their potency .
 their は直前のthe ideasを指すから、「思想の有効性をあれやこれや議論するのは間違いであろう。」となる。I predict が入っているので「間違いであったと分かると予言しておく」となる。over a period of timeは「ある期間を超えて」「だらだらと」でもいいかもしれない。
 まずは取り掛からないと残された時間はあまりない、と言っているのである。

 次に
But, soon or late, it is ideas, not vested interests, which are dangerous for good or evil.
 一般理論全巻の結びである。慎重になるが、難しい。筆者は以下のように解釈した。
  • 直訳
しかし、遅かれ早かれ、既存の利害関係ではなく思想の力が善にとっても悪にとっても危険なのである。
  • 意訳
しかし、遅かれ早かれ、善きことにとっても悪しきことにとっても危険となるのは既存の利害関係の力ではなく思想の力である。

 思想の力は浸透するのに時間がかかる。しかし、遅かれ早かれ既存の利害関係は思想の力によって粉砕される。その既存の利害関係を善き方に持って行くのも悪しき方に持って行くのも、やはり思想の力なのである。つまり思想の力は善にとっても悪にとっても危険なのである。
 善にとって危険な思想は世界を悪しき方へ
 悪にとって危険な思想は世界を善き方へと変えるだろう。ということだ。
 「超訳」は見出しとした。
 超訳:世界を善き方へ導くのも悪しき方へ導くのも、今ある利害関係ではなく思想の力である

 あきらかにナチス流の国家社会主義(最近は国民社会主義と訳すべきという議論もあるが)、ソ連型の社会主義を意識している。


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