よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
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5-05:一般政府は何をしているのか?217兆3600億円の分析

2021年09月18日 | 日本経済分析
 これまで、一般政府が一国経済の中で果たしている役割、果たすべき役割について資金収支の面から分析してきた。結論は企業・家計の資金余剰に対して政府の資金吸収は足りておらず、長期停滞の大きな原因となっているということだった。

 今回は、資金の出入りだけではなく、一般政府の収入(受取)、支出(支払)の中身の面から分析してみよう。国民経済計算の「一般政府の部門別勘定2019年度」をもとにしている。一般政府の決算には二年ほどの時間が必要なようで現在目にできる最新のデータである。

 一般政府(中央政府、地方政府、社会保障基金)の収入と支出は以下のようになっている。
 総額は収入182兆3000億円、支出217兆3600億円である。



 受取と支払で割合に大きな変化があるのは、中央政府から社会保障基金、地方政府に資金の移転があるためである。社会保障支出の約六分の一、地方政府(地方自治体)支出の約三分の一は国庫負担となっている。これは制度がこうなっている当然の結果であるが、中央政府は国庫負担金の増大を抑えるために制度とその運用で社会保障基金と地方自治体の支出をも抑制している。

 国民生活にとって身近な支出は社会保険と地方自治体によってなされており、中央政府の支出は一般政府全体の12%を占めるに過ぎない。この12%を「ああだこうだ」と言っているのが国会の予算審議なのだ。

 さらに一般政府の機能別の支出を見てみよう。


 ここで

 現物給付とは、医療と教育が大部分である。中学校までの教育費は原則無料であり、医療費も7割は保険負担である。こういう部分を「現物給付している」と言う。

 現金給付のほとんどは年金である。

 集合消費支出とは、一般政府が社会全体に提供している財・サービスのことで防衛・警察・道路の補修から環境保護まで多岐にわたる。

 総固定資本形成は読んで字のごとく。

 経常移転とは、例えば子ども手当である。

 次回、より詳しく分析するが、現物給付と現金給付で66%、その他の項目にも社会保障関連の支出が含まれているから支出の7割が社会保障関連と言ってもいいだろう。ざっくり140兆円が使われているとみていいのである。

 その使途の偏りを別とすれば、日本は既に高度な社会福祉国家である。200兆円を超える一般政府の支出をそう簡単に増やしたり減らしたりできるものではない。

 当然気に食わない人々もあり、社会保障基金や地方自治体についても「改革」が唱えられてきたが、そう簡単にはいかない。

 ここのところ政治的立場を超えて(?)話題となっているのがベーシック・インカム(BI)論である。大阪を中心に活動している某国政政党は公約としているらしく「最低でも月6万円」だそうである。財源はどうするんだ、と噛みついている人がいるが、噛みついている人はBI論が分かっていない、と思われる。

 国民全員に月6万円配ると総額は、1億2289万人×6万円×12か月=88兆4808億円となる。

 これは現物給付や現金給付を止めて、全て自己責任、市場からの購入に任せれば先ほどの「ざっくり140兆円」を持ち出さなくとも、社会保障基金だけでも支出は108兆円に上るから十分まかなえるのである。まかなえるどころか20兆円のお釣りがくる。その分国民負担の軽減に回せてこんないい話はないではないか?

 ただし年金も健康保険もなくなり、月6万円で生活費も医療費も賄え、と言うことにはなるが・・・

 財政再建と並んで「改革」の底流にはこのような「負担軽減論」がある。負担軽減論の特徴は現金給付と減税にこだわることである。そこにもやはり政府の役割は、今現在、どうあるべきかという議論はない。

 だいたい、これだけ流動性選好が高まっているときに現金給付を一律に増やしても退蔵されるだけだとは考えないのだろうか?思考実験として健康保険制度を廃止して国民一人当たり3万円配る(国民医療費分)ことを考えてみればいい。その時患者は10割負担である。病院に行くのを我慢して貯蓄に回す人々がどれだけ出るだろうか?筆者は相当な割合に上ると考える。それでいい、と考える人は、マクロ経済に及ぼす影響を考えられたい。

「週刊日本経済を読む:お金の沼、金融資産の海に溺れる日本 1 日銀資金循環統計:「再分配」と「財源」の問題」でこのように書いた。

いまや、企業部門も資金余剰を抱え、あり余る金融資産の借り手は政府しか残っていない。いわゆる「公的債務問題」は家計・企業部門の資金余剰の裏返しである。投資されて果実を産むべき金融資産がただただ退蔵されているのが現実であり、長期停滞の唯一の原因となっている。政府が民間の余剰資金を吸収する「最後の借り手」としての役割を果たし、公共的(全体に福利をもたらすような)で、かつ、非営利な部門に投資を行うべきなのであって、赤字国債の発行をためらうべきではない。一国全体の金融資産/負債の状況から国債の暴落⇒財政破綻など起こりえない。むしろお金を抱えたまま立ち枯れしそうになっているのが今の日本経済なのである。

 先ほどの思考実験の結果は国民医療に回されるべきお金が退蔵され、医療が市場財となり、国民医療が崩壊するだけである。
 


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