よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

5-04:財政再建は進めるべきなのか?政府債務をどうとらえるのか?

2021年09月19日 | 日本経済分析
 国民経済計算には制度部門別資本勘定・金融勘定というのがある。家計・企業・政府(一般政府)という各部門の固定資本と金融資産の増減を年度ごとに集計している。SNAでは、金融資産―金融負債=資金過不足である。各グラフ見出しのストック・フローは厳密な意味ではない。
 まずは家計である。なお純固定資本形成というのは 総固定資本形成マイナス固定資本減耗として算出した。
 100万円分減価償却される固定資本に120万円の更新費用を使えば純固定資本形成は20万円になる、という意味である。
 


 2019年時点で家計の純固定資本形成はマイナスになって14年経っている。家計の固定資本とは住宅・店舗のことだから、「シャッター商店街」「空き家問題」などを思い浮かべれば腑に落ちる。

 企業はどうだろうか?



 不良債権処理、リーマンショックを経て、企業の設備投資(純固定資本形成)は持ち直してきてはいるが、いまだに10兆円にも満たず資金余剰がはるかに上回っている。

 最後に政府(一般政府)



 政府は固定資本を何とか維持している状態と言える。政府の金融行動で特徴的なのは、1997年のアジア通貨危機やリーマンショックには反応して財政を拡大するが、すぐに緊縮に立ち戻るということと、阪神大震災や東日本大震災のような天災には反応しないことである。東日本大震災の時には、それでなくても需要が落ち込もうとしているときに「復興税」などというものを考え出してしまった。需要が落ち込めば貯蓄(資金余剰)が増える。その資金余剰を国債で吸収すればもっと大きな施策が打てたのにである。真面目で無知無能な人ほど始末に負えない者はいない。

 政府の第一優先課題は「健全財政」の確立であってマクロ経済の中で政府の財政がどのような役割を果たしているかには考えが及ばず、ないしはその役割をできるだけ小さくしようとしているとしか思えない。

一国全体では



 三部門を統合したものが上記グラフである。2013年度以降、純固定資本形成を大きく上回る資金余剰が続いている。個人で言えば自分が住んでいる住宅の修繕費用をケチってひたすら金を貯め込んでいるようなものである。なお悪いことに、固定資本形成は雇用を産むが金融資産の残高は雇用を産まない。固定資本形成に使われた資金は分配されるが、金融資産の果実は分配されない。

 要するに人々は、余剰資金を「資産」と考えているのである。しかし金融資産と金融負債は表裏一体である。誰かにとっての資産は誰かにとっての負債でなければならない。誰にとっても負債ではない金融「資産」:借り手のない金融資産は何も、文字通り何も生みださない。一国経済にとっては負債でしかない。企業会計でも純資産は負債側に記載されるではないか??

 1994年度~2019年度の余剰資金総計は215兆6千億円、年度の平均では8兆3千億円。
 2015年度~2019年度の余剰資金総計は91兆円である。年度の平均では18兆2千億円となる。

 この余剰を埋める資金吸収が必要だったのである。もちろんすべて埋める必要はない。それこそインフレターゲットを達成するまで吸収していけばいいのである。

 最後にケインズを引用してこの項を終わりたい。
 

古代エジプトは貴金属の探索とピラミッド建設という二つの活動をもった点で二重に幸運であったし、伝説的なその富も疑いもなくこの事実に負っている。

というのもその果実は、それが消費されることによって人間の用に供するというものではなかったために、潤沢のあまり価値を減じることがなかったからである。

中世には大聖堂が建立され、ミサ曲が歌われた。二つのピラミッド、死者のための二つのミサ曲は、一つのピラミッド、一つのミサ曲に比べれば、善きこと二倍であるが、ロンドン―ヨーク間の二本の鉄道についてはそうはいかない。

要するに、われわれは、あまりにも分別がありすぎ、あまりにも堅実な財政家になりきろうとしすぎる。

子孫のために彼らの住む家を建てよう、そのためには彼らに余分の「財政」負担をしてもらわなくてはならない、そう決断すればいいものを、その前にあれこれ余計なことを考えてしまう。

だから、われわれは、失業という苦境から簡単には脱け出すことができないのである。

失業の苦しみは、いつ行使するとも知れぬ享楽への請求権を個人に蓄積させること、それこそが彼を「富ませる」最上の途だという格率を国家の行動に準用しようとするなら、不可避に生じる結果だと考えなければならない。
(一般理論 第10章 限界消費性向と乗数 第6節)

 失業を「停滞と貧困」に読み替えれば今でもそのまま通用する。
 とともに何をなすべきかをも教えてくれる。


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