先に、次のように書いた「あらかじめ言っておくとこの章に「アニマルスピリット」という単語が出てくるが、このwiki解説は絶望を通り越してため息しか出ないほど間違っている。えてしてこういうもので、世の中の「一般理論」理解は、ほぼ全部間違いだと言っていいくらいである。余計な事だった。」
アニマルスピリットの話を12章の最後にする。ケインズは不安定性をもたらす要因として投機活動と人間性の特質に基づくものに分けている。投機は制限すべきものだが人間性の特質(アニマルスピリット)は、
もし血気(アニマルスピリット)が衰え、人間本来の楽観が萎えしぼんで、数学的期待値に頼るほかわれわれに途がないとしたら、企業活動は色あせ、やがて死滅してしまうであろう。
ケインズは「血気(アニマルスピリット)」が好きなようだ。人間の自由の根幹とも考えているのだろう(ここはハイエクに通じる?)。だとすればソ連(いわゆる計画経済)への低評価もよく理解できる。しかしケインズは自由放任の信奉者ではない。ここに彼の難しい立場がある。
ケインズは、投機・金融危機・バブルの生成と崩壊は金融資本主義段階に達した資本主義にとって不可避である(金融資本主義の本質)とか、資本主義の終焉とかの議論は展開しない。なので、そちらの筋には受けないし、自由放任の信奉者たちからも嫌われるのである。
もちろんケインズの政治的立場もあるだろうが、完全雇用の達成は資本主義の下でも可能だと考えている、ないしは可能でないと資本主義は崩壊してしまうという危機感でもあるだろう。
そういうケインズにとってアニマルスピリットは社会の推進力である。社会主義や共産主義の下では“アニマルスピリット”は萎んでしまうだろう。ケインズの「思想」は第24章で展開される。
筆者はと言えば、資本主義を等価交換原理に基づく財とサービスの交換システムと考えるかぎり、現代において乗り越え不可能な経済システムだと把握している。ただ、ケインズと違うのは、あるいは同じで立っている側面が違うだけなのかもしれないが、体制の脅威なしに完全雇用政策は採用されないと考えている。
なぜ人はケインズを誤解するのか?理由は簡単である。常識を捨てきれないからである。
さていよいよ利子率理論(第13~17章)である。理論的には理解できるのだが、腑に落ちないところが残る。徹底的に究明してみよう。