よみがえるケインズ

ケインズの一般理論を基に日本の現代資本主義を読み解いています。
カテゴリーが多岐に渡りすぎて整理を検討中。

5-03:家計の延長でしか考えられない人々―2022年度政府予算

2021年09月20日 | 日本経済分析
 ”『このままでは国家財政は破綻する』矢野康治財務事務次官が“バラマキ政策”を徹底批判 ” については “お金の沼、金融資産の海に溺れる日本 1 日銀資金循環統計:「再分配」と「財源」の問題(*)”でも触れたが、予算案で公的債務はどうなっているのだろうか?

 ちなみに矢野批判について浜矩子先生が、以下のようなコメントを残されている。

衆院選直前、矢野財務次官の寄稿をどう読むか レスキュー隊がレスキューされる不条理国家ニッポンhttps://www.jiji.com/jc/v4?id=202110yanoronbunhama0001

 若干引用すると
「「資金循環統計」という統計資料がそれを如実に表している。この統計は、経済活動がどのような姿になっているのかを見るための重要な材料だ。この資料の一環を形成する「資金過不足表」というものを見ると、今の状況の奇異さが一目瞭然だ。政府部門は大幅な資金不足状態にある。その一方で、家計と企業の民間二大部門は資金過剰状態で推移している。つまりは、この民間の余剰資金で政府の資金不足を賄ってあげている。そういう構図になっているのである。経済の本体が外付け装置を支えている格好だ。これほどの本末転倒もないだろう」

 資金循環統計を持ち出されたのはさすがだが、筆者の見解は真逆である。先生は財政が「健全化」すれば民間に資金が潤沢に回るとでも思っているのだろうか????アベノミクスをアホノミクスと言って憚らない先生にしてこのご主張である。民間で慢性的な資金余剰が起きているから、不況が慢性化し、渋々行う「景気対策」で公的債務が膨らんでいるのだ。しかも「景気対策」も民間の資金余剰を吸収するには、はるかに及ばない。これが長期停滞の原因なのだが・・・

 筆者の見解は詳しくは上記リンクを参照されたい。

 ともあれ、予算案である。営業収支、経常収支に分け以下のように整理してみた。単位は兆円である。



2021年度
2022年度
前年度との差
歳入
税収
57.4
65.2
7.8

その他収入
5.6
5.4
-0.1

63.0
70.7
7.7
歳出
一般歳出
66.9
67.7
0.8

地方交付税交付金等
15.9
15.9
-0.1

82.9
83.6
0.7

収支
-19.8
-12.9
7.0





歳入
公債金
43.6
36.9
-6.7
歳出
国債費
23.8
24.3
0.6

収支
19.8
12.6
-7.3

 一部で話題となったが、税収の伸びを7.8兆円としている。この税収増が何に使われるかというと国債発行の減少である。つまり借金の返済に使われるのである。日銀がいくら異次元の金融緩和を行ってもこれではなんの効き目もない。
 2022年度のGDPは540兆円前後であろうから、7.3÷540=1.35%となり2022年度の日本経済は始まる前からマイナス1.35%以上の重荷を負わされていることになる。(予算案ではGDPを564.6兆円と見積もっている。それに基づくと1.3%)

 次に、基礎的財政収支(いわゆるプライマリーバランス)を時系列で並べたみた。前年度比プラスは収支の「改善」、マイナスは収支の「悪化」を示す。


基礎的財政収支

前年度からの変化

2018年度

▲ 10.4

0.5

2019年度

▲ 7.1

3.3

2020年度

▲ 7.4

▲ 0.3

2021年度

▲ 19.8

▲ 12.4

2022年度

▲ 12.9

7.0


 注目していただきたいのは2019年度だ。消費税の税率の引き上げは2019年10月からだったから、2019年度に反映されるのは半期分である。半期分でも3.3兆円の収支改善を見込んでいる。その後2020年度、2021年度とコロナ対策で「バラマキという煮え湯を飲まされた」財務省は、2022年度では本来の緊縮に立ち戻り7兆円の収支改善を見込んでいる。2022年度の財政収支見込みは▲12.9兆円だから、このままいくと、あと二年も経たず、2024年度中には財政収支の赤字は解消されることになってしまう。その次は公的債務の返済に乗り出そうというのだろうか???返済とは資金の余剰を創り出すことである。

 家計部門も、企業部門も資金を余らせているときに、政府もまた財政収支を黒字にすればどうなるのか?
 ケインズの“悪魔の恒等式”に従えば、誰も彼もが(海外投資を進めた人を除いて)貧しくなっていくことになる。

 子孫が払わねばいけないツケは、公的債務ではなく使うべき時にお金を使わなかった結果である。

 それは、老朽化したインフラ。陳腐化した機械設備。荒廃した商店街。絶望的に拡大した貧富の差。なおざりにされた防災対策として現れるだろう。

 なぜ彼らはそんなに債務の増大を恐れるのか?思いつく答えは一つしかない。彼らはマクロ経済を家計の延長でしか考えられのである。
 


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