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家計簿を付けたら毎月赤字だ。足りないところは借金せざるを得ない。それでなくとも赤字のところへ借金の返済が重なったら、いずれ返せなくなる。家計の破綻は必至である。ここは「入を図って出を制す」月々をなんとか黒字に持って行って借金を減らしていくしかない。家計の「ムダ」を徹底的に洗い出そう云々。
家計についてはその通りかもしれない。多くの国民はそうしている。住宅ローンも長期にわたる返済の可能性を検討してから借りるはずだ。
しかし、この常識を国の財政に適用しようとする人は、政府の財政が果たすべき大きな役割、特に先進国にとっては大きな役割を忘れる。それは余剰資金の吸収である。
失業の苦しみは、いつ行使するとも知れぬ享楽への請求権を個人に蓄積させること、それこそが彼を「富ませる」最上の途だという格率を国家の行動に準用しようとするなら、不可避に生じる結果だと考えなければならない。
一般理論 第二章 古典派経済学の公準
先進国を対象に経済を考える場合、最も重要なことは「豊かになるほど余剰資金が発生する」ということである。
本ブログで何度も主張してきたように「余剰資金」を吸収して「何」に使うかが問われているのだ。しかるに・・・
逆の手ばかり打ってきた政府
バブル崩壊後経済の再生を目指すとしてありとあらゆる「逆の手」が打たれてきた。投資不足という見立てはそれ自体間違っていなかったが、その対処法を間違えていた。投資不足の裏には需要不足があることが見えていなかった。そこには「供給したものは必ず売れるというセイの法則」が隠れていたのである。
第3章 有効需要の原理 (豊かさの中の貧困というパラドクス)
曰く
- 投資の原資を作るために企業減税を
- 魅力ある投資先を作るために企業減税と規制緩和を
- 社会保障は経済成長の重荷。財政再建と社会保障を守るために消費増税を
問題は需要であり有効需要の不足である。その理由は原理的には以下に触れた通りだ。
一般理論 第三章 有効需要の原理 の前提 豊かになるほどそれに比例しては、消費は増えない
これに加えて日本固有の事情としては、消費性向の上方硬直性と賃金の下方硬直性の不在である。これについては別稿で論じる(*)。この固有の事情は、景気の自律的回復の大きな妨げとなっている。
*少しだけ書いておくと、消費は下位互換の商品の豊富さによって減りやすく、勤倹貯蓄の精神から増えづらい。賃金は年功的賃金の「おかげ」で定昇相当分を小さくすることで容易に下げられる。「上がってはいるが水準が下がる」ということだ。
1997年から2017年の二十年間で政府・家計・企業の三部門の所得マイナス支出=純貯蓄は以下のように変化した。

余剰資金は企業に集中し、家計は貧しくなり政府の借金は拡大している。このような事態が金融財政政策の結果としたら、その政策を真剣に再検討する必要があるのではないか。そして政策の背景にある政策思想をも再検討しなければならない。
政策思想と言えば、これは良書だ。筆者特有のクセが強いが・・・
ちょっと気になる政策思想 第2版: 社会保障と関わる経済学の系譜 権丈 善一