元厚生次官を狙った連続殺傷事件は、十一月二十二日、東京・霞ヶ関の警視庁に「『事務次官を殺した』と出頭してきた男」(11月24日付『讀賣新聞』第1面、小泉毅容疑者の写真を転写)が、銃刀法違反容疑(所持)で逮捕され、殺人容疑で再逮捕される見込みで、捜査当局の予想とは異なる展開となった。
連続テロを想定していた警察当局は、小泉容疑者の供述内容にさぞ当惑したことだろう。同日付『朝日新聞』第3面の社説は、「凶行の理由が知りたい」と見出しを掲げ、ペット云々に関して「こんな理由で人の命を奪ったというのだろうか」と記しているが、人の心の内には、他人が窺い知ることのできない、いや、本人でさえ分からない部分があるのだ。答えを性急に求めても叶うわけがない。
何か事件が起きると、必ず識者なる者たちが動機を分析してみせるが、私はすべて眉唾だと思っている。某大学の精神病理学者が「妄想障害の疑い」(同日付『北海道新聞』第27面〈第1社会〉)と述べているが、本人と接触しないで、そんなことが新聞報道だけで軽々に判断できるわけがない。無責任の最たるものだ。
同日付『毎日新聞』第3面〈総合〉には、「識者の見方」として、評論家・犯罪社会学者・ノンフィクション作家・犯罪心理学者・犯罪学者などの見解や分析がずらりと並んでいる。すべて他人事に対する単なる上っ面の感想に過ぎない。
英国の作家ミュリエル・スパークの短編『黒めがね』に、妻(精神科医)が自分の夫の精神錯乱について見当はずれの分析をするのを、ふとしたことから真相を知った女性が揶揄する場面がある。もっともらしい見解を開陳する先生がたに、その短編小説を読んでもらいたい。
物証が十分すぎるほど揃い、「小泉容疑者所持品の血痕/被害者DNAと一致」(同日付『北海道新聞』夕刊・第1面)というから、警察当局は、今後慎重な裏付け捜査を行い、当然のことながら事件の解明が本格的に始まる。
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