金魚cafe

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夏の口紅

2013-12-06 00:00:21 | 読んだ本
樋口有介著 文春文庫

もう冬だというのに夏を題材にした小説ってどうかなあと思ったのですが、冬でも樋口先生の文章で夏の暑さが実感できます。

夏をテーマにした青春小説では私の中では一番の方です。

雨が降らず道は乾いて埃っぽく、セミがうるさいぐらいに鳴いていて汗がTシャツがじっとり染みてくるこんな文章だと不快指数がものすごく高い感じがするのですが、樋口ワールドと私が勝手に思っているのですがなぜか爽やかな感じがするのです。

そんな暑いのになぜかエアコンが苦手な人間ばかり登場し、鼻の頭に汗を浮かべている、樋口先生ご自身が冷房が好きじゃないのかなと思ってしまいます。

主人公の20歳の青年はケーキ研究家の母と2人暮らし、父親は彼が幼いころ出て行って父親のことはほとんど覚えていません。

そんなとき父親の再婚相手の姉という人から父親が亡くなった、ついては彼に形見分けをしたいのでといわれ受け取りに行きます。

その家の血のつながらない美人の従妹と出会います。

形見というのが蝶の標本で一つは自分に、もう一つは姉に渡せという遺言だったのです。

母親違いの姉がいると教えられ戸惑いますが、何事もそんなものだと受け入れてします。

樋口先生の主人公の男性というのは好きな人に素直になれない面倒くさい性格の人間が多いのですがここに出てくる青年もそんなタイプです。

父親のルーツと消息不明の姉捜しで夏休みを過ごしそうになる青年、その合間に好きな女性も現れたりして忙しい夏休みになりそうな予感。

ミステリーではない樋口先生の夏をテーマにした小説は暑いけれど一瞬爽やかな風が吹いてそれが妙に居心地がよいそんな小説です。